将来を見据えた首だけ令嬢っ
「リ、リファリス!」
「はい?」
「わ、私と結婚して下さい!」
「構いませんけど……」
「い、いいの!? いやっほおおおう!!」
「将来について、ちゃんと考えてますの?」
「え…………将来?」
「はい。まずは収入ですわね。わたくしと二人、ちゃんと食べていけるだけの安定した収入はありますの?」
「え、えっと……今まで通りでいいんじゃ?」
「今まで通りって、教会で暮らすおつもりですの?」
「え、ええっと……駄目かな?」
「はああ……呆れて物が言えませんわ」
「え?」
「仮にも聖女と讃えられるわたくしを妻にと望むのでしたら、それなりの家を準備しておくらいの甲斐性はあってほしいですわ」
「え、リ、リファリス?」
「その点リジーは、あんな立派な家を準備してくれましてよ?」
「リジーがって…………え、宮殿!?」
「そういう訳ですから、貴女ではなくリジーを選びますわね」
「え、ええ!? な、何でリジーが!?」
「ふっふっふ、リブラからリファリス略奪と思われ」
「略奪されますわ」
「そ、そんなあああ!?」
「さっさと失せなさい、甲斐性無し」
「さっさと失せろと思われ、甲斐性無し」
「う、うわあああああああああん!!」
「ふは!? はあ、はあ、はあ……」
ゆ、夢か……。
「……げ、現実を突き付けられた気分……」
甲斐性無し……か。
「確かに、侯爵夫人だった頃と比べて、今は無収入な訳だし……」
実際に、リファリスに食べさせてもらってるようなもんだし……。
「……ラブリに頼めば、いくらかは用立ててもらえるだろうけど……」
それじゃあ甲斐性無しの本道を突き進むだけな気が……。
「…………うん、リファリスを迎えられるだけの安定した収入。それが基本だよね……それと家……か」
見習いシスターには厳しい条件だけど、ここは甲斐性があるとこを見せなくちゃ。
散々悩んだあげく、私は副業をする事にした。
「はい、ちゃんと剣を振り下ろして!」
「は、はい!」
キィン! ギィン!
「振りが甘い! 剣を振り下ろした瞬間、ちゃんと握り締めて!」
「はい!」
ギャリ! ギィィン……ガチャン
「ほらぁ! ちゃんと握り締めてないから、力負けして剣を離しちゃうのよ!」
「ぅ……く、くそぉ!」
剣を拾い、再び向かってくる。うん、闘志だけは一人前ね。
「自棄っぱちになっちゃ駄目だからね! 剣を腕の延長だと思って、冷静に!」
「はい!」
ギギィン!
うん、なかなか筋が良いわね。
私が考えた副業、それはマンツーマンの剣術指南だった。魔国連合との戦争の際、私を見ていた騎士の一人から「孫に剣を教えてほしい」というオファーがあったのだ。ご本人はもう高齢で戦傷もあるので、教えるのが難しいんだとか。
「はあ、はあ、はあ……ど、どうでしょうか」
「まだ一日目だから何とも言えないけど、気迫だけは一人前ね」
「き、気迫だけ……」
「あら、大切な事よ。気迫が無い子なんて、上達する以前の問題だから」
「そ、そうですか……」
私の言葉に一喜一憂しているお孫さんに、依頼してきた元騎士が笑いかけた。
「はっはっは、初日から上達できる程、剣の道は甘くないぞ」
「その通りですわ」
一応リブラ侯爵家の騎士、という立ち位置なので言葉遣いも気を付けてます。
「とりあえず今日の訓練は終わり。また近いうちに来ますから、教えた事を忘れずに反復練習するように」
「はい! ありがとうございました!」
うん、本当に元気いっぱいね。
「ではお祖父様、少し走ってきます」
え。
「うむ、無理はせんようにな」
「はい!」
タッタッタッタ……
「……元気が有り余っているようですね」
「はっはっは、若いんでしょうなぁ」
席を勧められて座る。何だかんだ言って私も疲れてたから、遠慮無く着席。
「お茶は如何ですか?」
「あ、はい、戴きます」
侍女が淹れてくれた紅茶を飲んで、ホッと一息吐く。よくよく考えてみれば、他人が淹れてくれた紅茶なんて久し振りだ。
「ええっと、ブラリ様でしたかな?」
「え? あ、はい。亡くなったリブラ・リブラ様の又従姉妹にあたります」
「そうですかそうですか……リブラ様に又従姉妹がいらっしゃったとは、存じませんでした」
そりゃそうよね、又従姉妹なんて居ないし。
「その御縁でリブラ家の騎士に?」
「あーはい、そんなとこです」
「確か現当主のラブリ様は、内政に手腕を発揮されているとは窺ってましたが、武勇はあまり聞く機会がありませんでしたが」
はい、ラブリは運動は大の苦手ですから。
「わ、私が影武者として……」
「ははあ、そういう事ですか。ここから先はあまり聞かない方が良さげですな」
「ははは……」
良かった、察して下さる方で。
「それよりお聞きしたかったのですが」
「はい、何でしょう?」
「いくら戦場で顔を見ていたとは言え、見ず知らずの私を雇おうと思われましたね?」
「ああ、それは私も懸念していましたが、ある方のご推薦がありましたので」
へ?
「ある方の、ご推薦?」
「はい、聖女様です」
リファリス!?
「何でも嫁入りの資金を自分で稼ぐ為、副業を探しておみえだと窺いまして」
バ、バレバレじゃない。
「本人は本気ですので、どうか使ってあげて下さい、人格に関してはわたくしが保証します、と仰られて」
は、ははは……流石は師匠。敵わないわ……。




