師匠な撲殺魔っ
「新婦、シスターリファリス。汝は生涯のパートナーとして、シスターリブラと長い時を歩んでいく事を誓いますか?」
「はい、誓います」
「新婦、シスターリブラ。汝は生涯のパートナーとして、シスターリファリスと長い時を歩んでいく事を誓いますか?」
「はい、誓います」
「宜しい。主は二人がパートナーである事を認められました。では主の面前で、誓いの口付けを」
「リファリス……」
「リブラ……」
「……真夜中に礼拝堂で、何をしているんですの?」
「ひぃあああああああ!! リ、リファリス!?」
たく……用を足しに起きてみたら、礼拝堂の明かりが灯っているのを見つけて、消し忘れたかと思って来てみましたら……。
「で、何をしていたんですの?」
「あ、いや、明日の式の練習です、はい」
「ふうん、練習ですの……でもわたくしと貴女の名前が聞こえた気がしましたが?」
「ひゃひ!? い、いえいえいえ、気のせいでしょ、間違い無く。空耳で目の錯覚でしょ」
空耳はともかく、目の錯覚は違いましてよ。
「……分かりましたわ。そんなに緊張しているのでしたら、わたくしが練習に付き合って差し上げましてよ」
「え、えええ!? そそそんな、リファリスが!?」
「わたくしは貴女の師匠でしてよ? 弟子が悩んでいるのでしたら、それを導くのも責務ですわ」
「は、はい……よろしくお願いします……」
明日はリブラが、初めて結婚式を仕切る事になっています。わたくしの一番弟子としては、少々遅いくらいですが。
「な、汝、新郎のホニャララは」
「新郎のホニャララ、汝は」
「汝のホニャララ、新郎は」
「違います。新郎のホニャララ、汝は……ですわ」
「ホ、ホニャララの汝、新郎」
「落ち着いて下さい。はい、深呼吸して」
「す、すぅー、はぁー、すぅー、はぁー」
「……はい、では最初から」
シスターが新郎新婦の導き役になる事自体は、そんなに珍しくはありません。なのでリブラにも経験を積んでもらおうと思い、今回は任せてみるつもりなのですが……。
「な、汝、ホニャララの新郎は」
「…………はあ。何故にそうなるのですか」
噛み噛みで全く使い物になりません。
「先程の一人挙式では、スラスラと言えていたではありませんか」
「一人挙し…………ひぃ、ひぃあああああああ!!」
真っ赤になってうずくまってしまうリブラ。声を掛けたのは失敗だったでしょうか。
「……リファリスが」
「はい?」
「リファリスが相手役をしてくれるなら……上手くできると思う」
はい? わたくしが相手役?
「わたくしが新郎なり新婦なりの役をすれば良いのですの?」
「……うん」
……まあ……それくらいでしたら。
「構わなくてよ」
「ほ、本当に!?」
「先程も言いましたが、弟子が困っているのでしたら、師匠が助けるのは当たり前ですわ」
「あ、ありがとう! ならまずは新郎のとこから始めるから、入場のとこからお願い」
入場ですわね。でしたら礼拝堂の入口まで移動して…………。
あら?
「何故リブラまで来るんですの?」
「え? 新郎役が居るんだから、新婦役も居なくちゃ」
「貴女はシスターでしょう?」
「入場してくる時は、特にシスターがする事は無いでしょ? だから問題無し」
……でしたら、この入場自体意味が無いのでは?
「ほら、行くわよ……新郎新婦の入場でーす」
ギィィ
リブラが魔力で入口を開きます。
「ぱんぱかぱーん♪」
「リブラ、明日はわたくしが責任もってパイプオルガンを弾きますから、調子外れな擬音は止めて下さいな」
「調子外れって酷くない!?」
「テンポも音程も外れ過ぎてますわ」
そう言うとリブラは静かになりました。
「……はい、シスターの前に着きましたわ。ここからはどうなさいます?」
「あ、はい。シスターに戻ります」
そう言ってリブラはシスターの立ち位置へ。
「こ、これより新婦リファリスと新婦…………の誓いの式を挙行致します」
「リブラ、ハッキリと名前を言わないと駄目ですわよ」
「あ、うん、明日は気を付ける…………では汝らの言葉を、主の……」
あら? やり直さないのですね。
「……新婦、シスターリファリス。汝は生涯のパートナーとして、シスターリブラと長い時を歩んでいく事を誓いますか?」
え? あ、はい。
「誓いますわ」
「えー、新婦……ゴニョゴニョ。汝は生涯のパートナーとして、シスターリブラと長い時を歩んでいく事を誓いますか?」
「ですからリブラ、名前はハッキリと」
「え、あ、はい…………う、うーん、新婦役は私だから、今回は私の名前使うね」
はい?
「新婦、シスターリブラ。汝は生涯のパートナーとして、シスターリブラと長い時を歩んでいく事を誓いますか?」
そう自分の名前で言ってから、リブラは新婦の立ち位置へ移動し。
「はい、誓います」
と返事しました。
「……リブラ、あくまで導き役の練習なのですから、新婦役は必要無いのではなくて?」
「え? あー……気分的なもんよ、気分的な」
「……ふ~ん……」
「じゃ、じゃあ続きを……しゅ、主は二人がパートナーである事を認められました。で、では主の面前で、ちち誓い誓いの口付けを」
そう言ってからリブラは新婦の立ち位置に戻り、わたくしに向き直り。
「やっぱり、これが狙いだったのですね」
びすっ!
「痛っ!」
誓いの口付けを待ち受けるリブラにデコピンをし、ため息を吐きました。
「噛み方が大根過ぎますわ。わざとだとバレバレですわよ」
「うっ……」
回りくどいですわ、全く。
「だ、だって、最近リファリスったら夜の交流を拒否しがち」
「当たり前ですっ!! 他人様の挙式前に足腰立たなくされてたまりますか!」
意外と律儀に師匠してるリファリスです。




