理解できた撲殺魔っ
「……で、半身より我に話が回ってきたのだが」
ルディったら、何故ルドルフに話を回すんですの!?
「聖女よ、くだらぬ痴情のもつれで我を引っ張り出すな」
「ち、痴情のもつれではありませんわ!」
「お前の一方的な偏愛の押し付けこそ、痴情のもつれ以外の何物でもあるまい」
「で、ですから」
「恐れながら申し上げます、大司教猊下」
わたくしが必死に言い募っているところに、リブラが口を出してきました。
「許す。何が言いたいのだ」
「私、リブラは聖女様を愛しております」
っ!!
「……ほう。で?」
「聖女様も、私の事を好いて下さっているご様子。ですので、両想いでございます」
「何が言いたい?」
「私が言いたい事は、ただ一つ。肌を重ねる度に、撲殺されるのは堪ったものではありません!」
「だから、それが痴情のもつれでは無いのか?」
「痴情のもつれです。痴情のもつれで構いません。どうか、大司教猊下の御威光を以て、解決して頂けないかとっ」
「リブラ! そのような恥ずかしい内容の嘆願を、大司教猊下に……!」
「私だって必死なの! リファリスとは同じ時を過ごしたいとは思うけど、流石に毎日撲殺復活のパターンは嫌なの!」
そ、そんな!?
「リブラはわたくしを愛してくれてるんじゃありませんの!?」
「愛してるけど、それイコール撲殺じゃないから!」
「何を言ってるのです!? 撲殺こそが、愛を交わす史上最高の行いではありませんか!」
「その認識、世間一般の常識からは大きく外れてるから!」
「……黙れ」
ビクゥ!
リブラが大きく身体を揺らします。わたくしでも一瞬ですが揺らいだ気がしましたから、無理もありません。
「聖女よ、その弟子よ、つまり我に介入を望むのだな?」
「その通りです」
「わたくしは、現状維持を望みます」
わたくしの言葉に、大司教猊下が深い深いため息を吐きました。
「……聖女よ、聖心教では『愛しき者を苦しめよ』などと説いているか?」
「いえ、『愛しき者と苦しみを分かち合え』と主は仰ってます」
「お前の一方的な愛情表現の押し付けは、分かち合っていると言えるのか?」
「……それは」
「では違う視点から見てみよう。もしもお前の愛した者が『聖心教から魔王教へ改宗しろ』と強要してきたら、それに従うか?」
「論外ですわ」
「だろうな。つまり、お前にとって『魔王教に改宗する』事が、リブラの『撲殺される』に等しい行為なのだ」
うぐっ。
「仮にも聖女と讃えられるお前が、それを分かっていない筈があるまい」
「そ、それは……」
「つまり、己が欲望に負け、相手が嫌がっている事に気付きながらも、それを強要していた……となるな」
う、うぅ……。
「…………仰る……通りです」
「ならば、自らの非を認め、リブラに謝罪できよう」
「その通りですわ…………リブラ、申し訳ありませんでした」
「分かってくれればいいよ。それと、金輪際私を撲殺しないって誓える?」
「…………ええ、誓いますわ。主と大司教猊下にお誓い致します。わたくし、リファリスはリブラを二度と撲殺しないと誓います」
「撲殺寸前も駄目だからね?」
「………………はい」
「宜しい。リブラよ、これで良かったか?」
「はい。大司教猊下、本当にありがとうございました」
「礼を言うのなら、我を動かすに至った己の聖なる心を言うが良い。それが無ければ、我は動かせなかった」
「……はい」
く…………し、仕方ありませんわ……。
その夜でした。
「リファリス、もう私を撲殺できないのよね?」
「は、はい」
「なら、聖女の杖を仕舞って」
「……うぅ……はい」
わたくしは泣く泣く胸の谷間に杖を押し込めました。
「で、リファリス」
「はい?」
「今まで散々私を撲殺してくれたんだから、しばらくは私がメインで良いわよね?」
……はい?
「どういう意味ですの?」
「だからぁぁ……夜の交流に関しては、私がリードするからって事」
はい?
「そういう訳だから、いっただきまーす!」
「え、ちょっと待って下さい」
「待たない待てない待ちません」
「え、いや、駄目です!」
「駄目じゃありません」
ほ、本当に駄目ですって! あ、あ、いや!
「リファリス、大好きー♪」
「ひぃああああああああああ!!」
チュンチュン、チュンチュン
「…………」
「うーん、朝日が眩しい♪」
「ふ、ふざけないで下さいまし……!」
「え、何が?」
「あ、朝まで、一睡もせずに……なんて」
「ああ、張り切っちゃった♪」
「張り切っちゃった、じゃありませんわ! お、お陰で……立てないではありませんか!」
「立てないって、何で?」
「こ、腰が……」
「ふーん……だったら自分で回復すればいいじゃない」
「回復する度に襲ってきたのは、どこの何方ですの!?」
「誰だったかしらー♪」
「く……!」
「あ、杖は駄目だった筈、だよね?」
うぐっ!
「ふふ……リファリス、愛してる♪」
「大司教猊下、どうかお助け下さい! 毎日毎日足腰立たなくなるまで、わたくしは……!」
「えー、愛を確かめ合ってるんだから、問題ありませんよね?」
「嫌がる相手に強要する事が、愛と呼べるのですか!」
「リファリスが私にしてた事じゃない!」
「我が半身よ」
「……何かな」
「いちいち我を引っ張り出すな」
「えー、アタシだって巻き込まれたくないしっ」
夫婦喧嘩は犬も食わない。




