ウットリと撲殺魔っ
聖職者である筈のわたくしがこのような事では、示しがつかないとも思えなくは無いのです。ですが主は自由恋愛を謳っていますし、シスターでも恋愛・結婚している者は多いのです。
「ですから何の問題もありませんわ」
「も、問題ありありだと思うけど……」
シーツに包まってわたくしと距離を取るリブラは、耳まで赤く染めてわたくしを睨んでいます。
「何故ですの? わたくしの事が嫌いなんですの?」
「き、嫌いじゃない! わ、私だって、愛して」
ブゥン! バシィ!
「あら、受け止めましたわね」
「な、殴られるから嫌なんだって!」
あら、失礼しました。
「でしたら、撲殺しないのでしたら大丈夫ですのね?」
「撲殺しないからって……きゃあ」
そのままわたくしとリブラは、ベッドへと雪崩れ込んだのです。
「や、やっぱり、撲殺されなくても、無理よ……」
「な、何故ですの!?」
「そりゃ毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩押し倒される身にもなってよ! いっくら体力に自信があったって、身体が保たないわよ!」
「何を言ってるんですの! その為に回復魔術があるんですのよ!」
「私はまだ使えないわよ!」
「でしたら、わたくしが……『限界まで癒せ』」
パアアアア……
「……はい、これで大丈夫ですね?」
「いや、だから私がその気が無いのなら」
「『艶やかに乱れよ』」
「う……リ、リファリス、な、何か魔術を!?」
「さあ、また交流を深めましょう!」
「い、いやああああああああああ!!」
……散々リファリスに哭かされ、身体的には魔術で回復してもらっても、精神的には……。
「も、保たない……」
「うふふふ。リブラっち、贅沢な悩みが聞こえてきたよ~」
こ、この声は!
「だ、大司教代行!」
「んっふっふ、リブラっち、アタシはもう代行じゃないのよ」
え?
「今は大司教補佐なの」
……微妙に降格したのね。
「じゃ、じゃあ、大司教補佐。ご無沙汰しておりました兼、私には全く得はありません」
「敬うつもりが全く無い挨拶をどうも。それよりリブラっち、リファっちからそれだけ愛されて、一体何が不満なの?」
「それは……リファリスの愛情表現に決まってます!」
「リファっちの愛情表現? それって普通に【いやん】をするんじゃないの?」
「ええ、ええ。普通はね。だけどリファリスは普通じゃないの」
「普通じゃないって?」
「……ベッドの近くには、必ず聖女の杖がスタンバイしていて……」
「え。そ、それって、まさか……」
「そうです! 撲殺されるか、ご臨終寸前まで殴られるか、どちらかなんです!」
「そ、それは~……」
昨日の夜も。
「さあ、リブラも脱ぎなさいな」
「な、何で脱ぐ必要が」
「当たり前です! 血は洗濯しても落ちにくいのですわ!」
「血って!? やっぱり撲殺する気じゃない!」
「撲殺しませんと何回も言ってますわよ!」
「え、ええ~……ほ、本当に?」
「本当ですわ」
そう言ってリファリスも脱ぎ……えええっ!?
「だから、撲殺するのに脱ぐ必要無いでしょ!?」
「ですから、血が付いたら洗濯では」
「やっぱ撲殺するんじゃないのよ!」
「ですから撲殺しませんわ! でしたら、今から証拠をお見せします!」
そう言って聖女の杖を握り、私の前に立って……て!
「やっぱ撲殺じゃないの!」
「違いますったら違います! 行きますわよ、ソフト天誅!」
ブン バギャ!
「ぐぎゃ!」
「あは、イージー天罰!」
ブン バガア!
「がはっ!」
「あははは! スィート滅殺! ライト抹殺! ラブユー撲殺!」
ゴッゴッゴッ!
「か、かは……」
「今です! 『完全に癒せ』」
パアアアア……
「ぐふ……ふあああ!? あ、あれ、治ってる!」
返り血を浴びたリファリスが、ニッコリと笑う。
「どうですか、撲殺してませんわよ?」
「い、いや、撲殺してるようなもんじゃない!」
「あら、ちゃんと加減してますし、死んでいませんわ。ですから撲殺じゃありません」
「いやいやいや、加減してるとは思えない!」
「ちゃんと加減してますわ。その証拠に、ソフトだったりイージーだったりライトだったりしてますわ」
「いや、愛が無いでしょ! 殺意しか感じなかったよ!?」
「あら、きちんと愛情も込めてましたわよ? スィートとかラブユーもありましてよ?」
「言葉にすればいいって訳じゃないわよ!」
するとリファリスは妖しく笑い。
「でしたら、こうすればいいのでしょうか?」
整った顔が近付いてきて……。
「んく……」
……甘美な時間が流れ……。
「……ぷはあ。愛、感じてくれましたか?」
「は、はい……」
「でしたら♪」
再び杖を握り。
「え゛っ」
「愛情表現、再び参りますわ」
「待って待って待って! 参らなくていいから! ていうか、私はもう参ってるからああああ!」
「あははは、ソフト天誅!」
ブン バギャ!
「うっぎゃあああああ!」
「……ていう感じで……」
「…………」
流石の代行……じゃなくて補佐も、言葉が無いようで……。
「……リファっち、ズレてるとは思ってたけど、その辺りがズレてたのかあ……」
「で、そのズレ方が致命的なのよね……」
「「…………」」
「……何か手が無いか、考えてみるよ、にゃは……」
……ここまで困惑気味なにゃは、聞いた事が無い……。




