愛してる、な撲殺魔っ
……翌朝。
「すぅ……すぅ……」
「こひゅー……こひゅー……」
眩しい光の奔流が、わたくしの閉じた目蓋をこじ開けようと、顔を集中的に照らしつけてきます。
「ん……んん……」
「こひゅー……ひゅ、こひゅー……」
ゆっくりと身体を起こし、目を開きます。すると、光輝く世界がわたくしを迎え入れてくれます。
「……世界は……こんなに光で溢れていたのですね……」
伝えようにも、なかなか伝えられなかった想い。それを打ち明け、心が赴くままに身体を交えた夜。
「わたくし、リブラと結ばれたのですわね……」
隣で眠る愛しき人を愛でようと、その顔に手のひらを近付け……。
ぬちゃ
「え、ぬちゃ?」
手のひらにはベットリと血が……え、血?
「よ、よくよく見ますと、何もかも血塗れ……?」
わたくし自身も、寝ていた布団も、床も鉄格子も。余す事無く、赤く染まっていました。
「い、一体何が起きたのですか!?」
「こひゅー…………こひゅー」
え、こひゅーって……気になってリブラを見てみます。
「……リ、リブラ!? しっかりして下さい! 『癒せ』『癒せ』『癒せ、癒せ癒せ癒せえええええええええ』!」
「し、死ぬかと思った……マジで、本気で」
大変申し訳ございませんでした。
「愛してる」
え。
「大好き」
ええ!?
「愛してる大好き、愛してる大好き。そう言いながら私にのしかかって」
きゃああああ!!
「何回も何回も撲殺してくれたよね」
あああああ……へ?
「撲……殺?」
「一番最初に『愛してる』『大好き』を連呼しながら、撲殺。その後……色々あって、意識が飛びそうになった瞬間に撲殺。天国から地獄、快楽から苦痛。上がったり下がったりて、正直ボロボロなんですけど」
「本当に申し訳ございませんでした。『癒せ癒せ癒せ癒せ癒せ癒せ癒せ癒せ』」
「あ、大丈夫よ。もうすっかり治ったから」
「あ、そうですか」
そう言って見つめ合い、笑い合うわたくし達の間には……今までとは違う絆が結ばれていたのでした。
そうそう、もう一人起こさなくては。
「おはようございます、リジー」
「おはよう」
礼拝堂の長椅子で横になっていたリジーを発見し、二人で声を掛けます。
「ん…………あ、リファリス。脱出できたんだ」
「ええ、お陰様で」
「どうなった?」
聞かれてほんのりと頬を赤くしたわたくしを見て、悟ってくれたようです。
「んふふ~、私、大手柄だよね?」
「そうね、大手柄だわね、リ・ジ・イ?」
がしぃ
「ひぅ!?」
頭をしっかりと掴まれたリジーは、後ろでメラメラと殺気を燃え上がらせるリブラから逃げられなくなってしまいました。
「よくぞ、私を半死半生にしてくれたわね……お陰でリファリスから『愛してる』『大好き』の連呼だったわ」
~~っ……あ、改めて言われますと、顔から火が出そうですわ。
「そ、それは良かっ」
「愛してる」
バキャ!
「ぐげっ!」
「大好き」
ボカッ!
「ぴぎゃ!」
「愛してる大好き愛してる大好き愛してる愛してる大好き大好き大好きぃ~」
バキベキボカドガガンガンガンメキョベキミシィ!
「し、死ぬぅ! 死ぬって! 止めて止めてあ゛ーーーーっっ!!!!」
ボッコボコにされたリジーを治療しながら、リブラに苦言を呈します。
「リブラ、やり過ぎですわ」
「…………それ、リファリスが言うかな?」
うっ。
「し、しかし、わたくしはちゃんと貴女を愛でて」
「愛でられてから撲殺されてたんじゃ、愛情がいくらあっても足りないわよ!」
い、言い返せません。
「たく……途中から『愛してる』が『殺します』って聞こえてきたわ」
本当に申し訳ございませんでした。
「……でさ、リファリス」
「はい?」
「これから、どうするの?」
「どうするって……まさか、また撲さ」
「もう殴り殺されるのはお腹一杯ですからっ」
「そ、そうですか」
一度咳払いをしてから、再びわたくしに向き直ります。
「だから、リファリスは私の事が好きなのよね?」
「好き……では足りません」
「えっ」
「やっぱりわたくしは、リブラの事を『愛してる』」
ブゥン! ギギィン!
「だから、愛してるって言葉に反応して、杖を振り回すの止めぃ!」
あ、あら? いつの間にか、わたくしったら。
「失礼しました。オホホホホ」
「……ったく。『愛してる』と『大好き』以外の言葉でお願いします」
「は、はい……でしたら、わたくしはリブラに想いを寄せています」
「っっ」
違う言葉でしたのに、リブラは胸を押さえて屈み込んでしまいました。
「し、心臓にも悪い……」
「あら、リブラの身体はホムンクルスですから、心臓では無くてポンプ」
「それはどうでもいいからっ」
「そ、そうですか?」
顔を真っ赤にしたリブラは立ち上がると、わたくしに近付き。
「リファリス……私も」
近付き。
「貴女の事を」
近付き。
「愛してる」
愛して……あああ!
ブゥン! ボガア!
「いったああああい!」
「あ、あれ?」
「だから、殴らないでって言ったじゃない!」
わ、わたくし……どうやら「愛してる」という言葉に反応して、殴ってしまったようですわね……。
「愛してる」
えっ。
ブゥン! ボガア!
「げはあ!」
「本当だ、反応してると思われ」
「リ、リジー、実験しなくて結構ですわ!」
「い、いや、それよりも、何でリジーじゃなくて、私を殴るのかな……」
愛してる。
ブゥン! バキャ!
ぎゃあああ!




