横槍と撲殺魔っ
「聖女様、お加減は如何ですか?」
「風邪を引かれたと聞きまして、心配していたんですよ」
「ありがとうございます。もうすっかり」
「……それより、おでこの傷はどうされたのですか?」
ゲホゴホゴホ!
「な、何でもありませんわ。大丈夫、大丈夫」
「そうですか、なら良いのですが……」
……治療し損ねていたみたいですわね。
『癒せ』
パアア……
無詠唱でこっそり癒やし、傷を綺麗さっぱり消し去ります。
「聖女様、我々にご加護を授けて下さい」
「巡回中に危険な目に遭いませんように」
「おい、その危険な目が一般市民に及ばないようにするのが、我々の仕事なんだぞ?」
「はい、そうですね」
「そんな我々に危険が及ばないように、という事は、一般市民に危険が及んでしまうではないか!」
「はぅあ、そうでした! だったら…………この横暴な小隊長に、全ての危険が降りかかりますように!」
「おおいっ!?」
「ふふ、ちゃんと皆様の無事をお祈りさせて頂きます」
「「「ありがとうございます!」」」
警備隊の皆様も、いつも通りに頑張って下さってるのですから、わたくしも……。
「リファリス」
ひゃい!?
「警備隊の皆への施しの事なんだけど……」
え、ひゃ、ひゃい!?
「あの、リファリス?」
リブラの手が、わたくしの……わたくしの……!
「ひぃあああああああああ!!」
ドンガラガッチャアアアン! ゴロゴロゴロズシャアアン!
「リファリス!?」
「……リファリス、様子おかし過ぎ」
分かっています! 分かっているのです!
「リブラから逃げ出して階段から転げ落ち、ちょうど走ってきた馬車に轢かれ、警備隊の武器庫に飛ばされて身体中に剣やら槍やら突き刺さった状態でフラフラになりながら帰ってくるって」
改めて思いますが、わたくし、よく生きてますわね……。
「とりあえず呪いの反転を利用して治療した。後は自分でどうにかして」
瀕死だったわたくしを治療してくれたのは、たまたま教会に残っていたリジーでした。
「ありがとうございました、リジー」
「お礼はいい。私はリファリスの聖騎士」
……聖騎士、でしたわね……。
「……リファリス」
「はい?」
「リブラが好きなの?」
ブッフゥゥゥ!!
「リファリス、せっかく治療したのに、そんなに血を吐いたら危険危険」
「ゲホゴホゴホ……な、内臓に損傷が……」
「はぁぁ……≪呪われ斬≫『反転』」
ザシュ!
本来ならば、わたくしの身体を貫いて死の呪いで蝕むはずの刃が、わたくしの身体を再構成していきます。
「はぁ、はあああ……た、助かりましたわ」
「いいんだけど、私の質問って致命傷になるくらいだった?」
「……聞かないで下さいまし……」
「……やっぱり、リブラが好きなんだ」
ずきゅぅぅん!
「うぐぅ、はあ、はあ、はあ…………大丈夫です、耐えられましたわ」
「…………リファリス」
「はい?」
「それ、リブラ本人に言った?」
「えっと……つまり?」
「リブラに告白した?」
ゲホゴホゴホゲファ!
「リファリス!? うわ、内臓が三つ四つ破裂してるぅぅ!!」
「リ、リジー、わたくしの聖騎士が、わたくしを殺してどうするんですの?」
「大変申し訳ございません」
再び呪いの反転にお世話になりました。
「だけどリファリス、このままは良くない」
「うっ」
「リブラが近付く度、こんな事になっていたら、リファリス自身が保たない」
……確かに……今回はリジーが居なかったら、危なかったですわね……。
「だからリファリス、覚悟を決めるべき」
「はい?」
「リブラへの想いに決着つけるべし」
ぶふっ!?
「という訳で、弱ってるリファリスに≪呪縛の檻≫」
ガゴンッ!
「え、ちょっと!?」
わたくしの周りに、禍々しい鉄柵が並び立ちます。
「な、何ですの、これは……『清めたまえ』」
浄化しようと試みますが。
「なっ!? 浄化できないなんて!」
「呪いの反転の際、リファリスの聖属性を弱めた。だから二日くらいは魔術使えない」
な、何ですって!?
「だから、しばしお待ちを」
そう言ってリジーは出て行ってしまいました。い、一体何を……?
ガンガンガン! メキョゴキドガァ!
「ふ、ふう、強かった……」
ズルズルズルッ
一時間後、リジーが何かを引き摺って戻ってきました。
「リジー、どうしたんですの? ボロボロですわよ」
「ふ、不意打ちが決まってなかったら、危なかった」
そう言ってリジーは、引き摺っていたものをわたくしに向かって放り投げたのです。
ガシャアアアン!
檻にぶつかってきたのは、リジー以上にボロボロで白目を剥いた…………えええっ!?
「リブラ!?」
「檻よー、取り込めー」
そうリジーが言うと、リブラが檻の中に……えええっ!?
ドサッ
「はい、プチ同棲檻の出来上がりー」
ひ、ひぃああああああ!!
「リファリス、リブラとよく話し合い、お互いの気持ちを確かめなさい」
「な、な、な」
「ちなみにその檻、リファリスの魔力が回復して『浄化』するか、リブラと【いやんばかん】な行為をしない限り、解除されないから」
はあああああああ!?
「ではお二人さん、お熱い夜を……ひゅうううっ!」
ひゅうううっじゃありませんわ!
「リジー、覚えてらっしゃいいいいいいいい!」




