発熱な撲殺魔っ
「……あふっ」
「……眠たそうね。大丈夫?」
「ご心配して頂いてありがとうございます。少し寝不足なだけですから、大丈夫ですわ」
「少し……? はっきりくっきりと、目の下に隈ができてるけど?」
うっ。
「ぜ、全然大丈夫ですわ。ほら、目を瞑っても真っ直ぐ歩けますし」
「え、ちょっと!?」
ズルッ
「えっ」
ドッボオオオン!
「……何でリファリスがびしょ濡れで帰ってきたの?」
わたくしに代わってご飯を作ってくれているリブラが、少し呆れた表情を浮かべて聞いてきます。
「へくしっ! す、少しボーッとしていただけ……へくしっ!」
「どれどれ……」
「ひぃああああああ!!」
「……相変わらず私には拒否反応なんだ」
「い、いえ、拒否反応という訳では」
「えいっ」
リブラの手がわたくしの腕に伸びてきて……ひゃう!?
「ひぃああああああ!!」
「……やっぱり逃げるじゃないの」
「い、いや、あの、そういうつもりは……」
ど、どうしましょう。昨日の夢のせいか、リブラに対して無意識に拒否反応が……!
「……まあ、聞かずにおくよ。どうせリファリスの事だから、どうしようもない理由なんだろうし」
ひ、否定できません……ですが、リブラに知られる訳にはいきません。
「リブラ、しばらく妙な対応をするかもしれませんが、そこはどうかお許し下さい」
「妙な対応、ねえ……最近ずっと妙じゃないの」
うっ。
「はい、できたよ。リファリスにはお粥を準備しといたから」
あ、ありがとうございます……。
「近くの農家から卵を貰ったから、玉子粥にしてみたわ」
玉子粥ですの……美味しそうですわ。
「明日、お礼に伺いますわ」
「私とリジーで充分お礼言っといたから、リファリスはまず風邪と異常行動を治しなさい」
「…………はい」
い、異常行動って……。
お粥をゆっくり食べてから、リジーに連れられて自分の部屋に戻ります。
「リブラが部屋の掃除とシーツ替えしてくれてた」
ああ、ますますリブラに足を向けて寝られませんわ……。
「だからリファリス、早く治して」
本当に申し訳ありません……もう少し熱が下がれば、魔術で治療できますのに……。
ふっふっふ、ワシふっかーつ! 久々の解説じゃ。出番じゃ出番じゃあ!
…………こほん、失礼したのじゃ。では解説してしんぜよう。
今回は「何故シスターは自分の風邪を魔術で治さないのか」という事なのじゃが、至って簡単。発熱しておる間は、魔力の制御が大幅に阻害されるのじゃ。特に繊細な調整が必要となる回復魔術には影響が出てしまう為、発熱しておる時に使うのは危険なのじゃよ。
例えば風邪の治療の場合、罹患者の体力を回復させて風邪の病原体を弱らせる必要がある。じゃが発熱しておる場合、その調整がまるでできなくなってしまうのじゃ。じゃから下手すると罹患者を弱らせて病原体をパワーアップさせてしまう……という最悪の結果を招いてしまう可能性もあるのじゃ。若い患者さんでも、一瞬で重症の肺炎になってしまうじゃろな。
そういう訳で、シスターも熱が下がるまでは大人しく寝ているしかないのじゃよ。
「…………はぁぁ」
わたくし、まるで駄目ですわね……ボーッとしていて、池に落ちて……それが原因で風邪を引いてしまうだなんて……。
「最近寝不足でしたから、体力が落ちていたのかもしれませんわね……」
師匠であるわたくしがこんなでは、リブラやリジーのお手本となり得ません……。
コンコンッ
「え、あ、はい」
『リファリス、ここからでいいから』
リブラ?
『どう? 少しは楽になった?』
「は、はい、熱はまだ下がりませんが、少し楽になりましたわ」
『そう、良かった。今日の奉仕は私とリジーで何とかするし、懺悔の奉仕は大司教代行にお願いしておいたから』
ル、ルディまで巻き込んでしまいましたわ……。
「ほ、本当に申し訳ありません……」
『治ってからお礼を言えばいいよ……じゃあね、ゆっくり寝てて』
っ!!
「あ、待って下さい、リブラ」
『ん? どうかした?』
「あ……」
つ、つい呼び止めてしまいました。
『……?』
「そ、その……」
『……用事が無いのなら行くけど?』
っ!!
「待って下さい! そ、その、最近リブラに対して……その……」
『ん?』
「わたくしの態度がおかしいのは、その……」
『……うん』
「け、決してリブラに原因があるのではありませんわ」
『うん』
「これは……わたくし自身の問題なのです。わたくしが気持ちの整理がつけられるか、それだけの問題なのです」
『…………うん』
「ですから、しばらく待っていて下さい……必ずわたくしはわたくしと向き合い、答えを出してみせますから」
『……うん?』
「貴女の想いに応えられるのか、わたくしの想いはどうなのか、必ず答えますから……」
『私の……想いって……』
……わたくし、何か変な事を言いましたか?
『リファリス、それって告白された時の返事みたいだよ?』
告白された時の返事?
『その言い方だと「貴女は好きだけど、まだ気持ちの整理ができてないから、返事待って」って意味になっちゃうよ?』
え……あ、あ、ああ!?
「ひぃああああああ!!」
ガタン! ゴトン! ズズン!
『リファリス!? 凄い音したけど、大丈夫!?』




