聖女様の閑話
『……また……一人ぼっちになっちゃった……』
いつからだったかな。あの子が僕のところへ定期的に来るようになったのは。
僕が明るい星を一周する頃、同じように通りかかるようになった、あの子。小さい癖に生意気だな、と思えたけど、いつの間にか大切な大切な話し相手になってた。
『だって、僕以外に話せる星って、あの子以外居なかったんだ』
「そうでしたの……それは寂しい日々でしたわね……」
「!?」
「それにしても貴方は、いつから話し相手を探していたんですの?」
「リ、リファリス?」
「独り言にしては声が大きいねえ、にゃは~」
『う~ん、いつからなんて覚えてないな……だって、ずっと一人ぼっちだったし、誰かと会話するなんて、考えた事も無かったし』
まさか僕の中に僕を認識できる子が居るなんて。
『……そう言えば、君はどんな姿をしているの?』
僕と話をできる子だもの、興味あるな。
「わたくしの姿……ですの? 貴方、視覚はあるのかしら?」
「し、資格?」
「いや、四角じゃないかな、にゃは~」
『視覚? 勿論あるよ。じゃなきゃ、君達が言うところの彗星や明るい星を認識できないでしょ?』
話し相手が見つかるまでは、たまに僕の中で起きている現象を眺めていたりしたからね。
『うん、だからさ、君が居る場所を教えてほしいな』
「……分かりましたわ。でしたら南大陸は分かります?」
「え、南大陸?」
「そうですわ。北と南に微妙に繋がった大陸がありますでしょう? その下の…………そうですわ、そうですわ」
「……リファリス、どうしちゃった?」
「にゃは~、分かんない」
「……ルディっち、リファリスを現実に引き戻した方がいい?」
「にゃは~、やってみよ~」
……ススッ
あら、背後に誰か来ました?
……ムニュ
え?
キュッ
「はあああああああんっ!!」
っ!?
『な、何!? どうかしたの!?』
バギャバギャバギャバギャバギャバギャバギャッ!
「い、いえ、何でもありませんわ…………リジー、先っぽは駄目だと言いましたわよね!?」
「ごべんばばいいいっ!」
「にゃは~、リファっち、リジっち、死んじゃうよ?」
『…………あ、見えた。君が分かったよ。髪が白い子を滅多打ちにしてるのが、君だね?』
身体全体を白い衣で包んで……あ、君の髪の毛も白いね。だけど毛先だけ赤いんだ。
『へえ、凄い魔力だね。君が振り回している棒っ切れに纏った魔力、下手したら一般的な生物の平均値に匹敵するよ』
……それにしても、この子は何故、こんなに嬉しそうに棒っ切れを振り下ろしているのかな……?
「着きましたわ。ここがわたくしが普段暮らしている教会です」
初めてあの方と会話をしてから一ヶ月後、わたくしはセントリファリスへと戻ってきました。
「立派? ふふ、ありがとうございます。わたくしの為に前の大司教猊下が建てて下さいましたのよ」
今の大司教猊下ではありませんわ。ええ、あり得ませんわ。
…………ダダダダダダッ
あら、教会から走る音が。
「リーファーリースゥゥゥゥ!!」
教会の最上階に人影が。
「リブラー、ただ今戻りま」
「リファリスゥゥゥゥ!!」
だんっ
「え゛…………な、何をしてるんですの!?」
リブラが最上階から飛び降りて……!
ヒュウウウ…………ズダァァァン!
ちゃ、着地……しましたわね。
「っ~…………リ、リファリス、お帰りぃぃ……」
……リブラ、涙ぐむ程痛いのでしたら、最上階から飛び降りるのは止めなさい。
「はぁ……『癒せ』」
パアアア……
「はぅああ、痛みが和らいでく。やっぱりリファリスの回復魔術は最高ね」
「ありがとうございます。それよりリブラ、わたくしが留守の間に変わった事はありまして?」
「ああ、それだったら……」
……ふぅん。
『その、リブラって子だっけ。君に首ったけだね』
「ぶふっ!?」
「っ!? リファリス、どうしたの、急に?」
「な、何でもありませんわ」
「……? 耳の先が赤いよ?」
「ななな何でもありませんわっ!!」
きゅ、急に何を仰るんですの!?
『あはは、ごめんなさい。見てて飽きないねえ、君』
これは意外とリブラって子の想いは、君に届いてるみたいだね。
『いつも思うけど、生物……特に君らみたいな生物の営みは、見ていて飽きないね』
想い想われ、近付き離れ。見ていてもどかしいものばかりだよ。
「で、ですから、わたくしはリブラとは」
「え? 私がどうかした?」
「ななな何でもありませんわ!」
「……?」
ああもう! あの方が妙な事を仰るものですから、意識してしまうではありませんか……。
「それよりリファリス、何か匂うよ」
!!!?
そ、そう言えば、旅の間はあまり湯浴みができなくて……!
「ちょ、ちょっと用事を思い出しましたわ! 続きは後でお願いします!」
タタタタ……
「……? いつも教会内は走るなって言うの、リファリスなのに……」
ザバアアッ
「ふう……」
もう……こんな状態でリブラの前に居ただなんて……。
ザバアアッ
「……恥ずかしいですわ……」
『……ねえ、君、それって……』
「……え?」
あの方に言われて、リブラに再会してからの心の揺らぎに、初めて気が付きました。
「わ、わたくし……いつから……」
リブラに恋をしていたのでしょうか……。
明日から新章。リファリスの恋バナです。




