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法を悪用する撲殺魔っ

 あーあ…………あの貴族、ついにやってしまったのう。頬を押さえてうずくまるシスターに、それを見て弑逆的な笑みを浮かべる伯爵。

 これを他の誰かに見られてしまえば、完全にアウトじゃのう。

 ……む? 叩かれた側のシスターが、少し微笑んでおるのう。

 どうやらシスター、何か仕掛けておるようじゃのう……どれどれ、続きを見てみようかの。



 パァンッ!


 渇いた音が響き、わたくしの頬が熱を帯びました。


「生意気な口を叩きおって! 似非貴族が真の貴族と対等と勘違いするとは、思い上がりにも程があるぞ!」


 似非貴族。それは旧貴族が新貴族を卑下しての呼び方です。


「伯爵である儂が直々に頭を下げたのを、どうやら思い違いしたようだが……我慢にも限度があるぞ!」


 そう宣う伯爵は、女性に手を上げた行為を恥じる様子も無く、逆に笑みを浮かべていました。

 そして、背後に誰かが居る事にも気付いていないのです。


「……何をしているのか、伯爵」


 そう言われた伯爵が驚いて振り返ると、複数の騎士様が立っていたのです。


「な、何だ、貴様等!」


「見ての通り、騎士でございます。で、伯爵は聖女様に何を為さっているのです?」


「何をって……べ、別に何もしておらぬ」


「ならば聖女様は、何故倒れ伏しているのです?」


「倒れ? うずくまっているだけ……なっ!?」


 その時のわたくしは既に、全身傷だらけの状態で横たわっていたのです。


「な、何故だ!? 何がどうなっている!?」


 わたくしに駆け寄った騎士様が、傷の具合を見て伯爵を睨みつけます。


「これは明らかに暴行の痕でございますな。伯爵、言い逃れはできませんぞ」


「ち、違う! 儂は頬を叩いただけで」

「ほう、叩いたと? 聖女様を叩いたのでございますな?」

「た、叩いた! 叩いたが、一発だけ」

「他の者も聞いたな?」

「聞きました」

「伯爵の自供を確認しました」


 自供、という言葉を聞き、伯爵の身体が揺らぎます。


「主に仕えるシスターへの暴行、伯爵の立場を悪用した不当な暴力、そして何より、婦女子へ手を上げるという蛮行。しかも我々が目撃者であり、自らも罪をお認めになっていらっしゃるのですから、言い逃れはできませんぞ」


 それを聞いた伯爵は、どんどん顔色を悪くしていきました。


「伯爵、貴方を捕縛します」


 そう言うと騎士様が伯爵を押さえ込み、縄で縛ります。


「な、何をするか! 儂は伯爵だぞ! 由緒正しき血統を受け継ぐ、選ばれし一族であるぞ!」

「その選ばれし一族の一員が法を犯した事で、他の一族の方に多大な迷惑をかけるのですぞ?」

「わ、儂は無実だ! あの下賤な女によって嵌められたらのだ!」

「……今度は聖女様への侮辱ですな。これも我々が証人となり、必ず罪を問いますぞ」


 悪態を吐けば吐く程に自らの立場を悪くし、更に罪状が増えていくのです。もはや伯爵は社会的に死んだも同然ですわね。


「我々は伯爵を連行する。お前はここに残り、聖女様の看護と警備を」

「はっ!」


 そう言って騎士様が一人残られ、伯爵は連れて行かれました。



「……リファリス、大丈夫?」


 騎士様……いえ、リジーさんがわたくしに問い掛けると、横たえていた身体を起こします。


「大丈夫ですわ、頬を打たれただけです」


 下手に刺激してはいけない相手でしたから、このような搦め手を使うしかありませんでした。


「それにしてもリファリス、その全身の傷は何なの?」


「ああ、これですの? 過去にわたくしが負った傷の幾つかを再現しただけですわ」


 身体を癒やすには傷の具合を把握しなければなりません。ですから、自分で治した自分の傷は、事細かに記憶しています。


「再現って、どうやって?」


「一般的にアンチヒールと呼ばれる、回復魔術の唯一の攻撃方法ですわ。先程のわたくしのように、過去の傷を再現するのです」


 相手を殺める程の効果は期待できませんが、相手を怯ませるには充分な効果を発揮します。


「……それを自分にかけられるんだ」


「普通はできませんわね。そこは応用です」


 それを聞いたリジーさんは、ボソッと。


「……怖っ」


 と呟かれました。


「聞こえてましてよ?」


「聞こえるように言ったと思われ」


 そう言われると、苦笑いするしかありませんわね。


「これも新旧貴族の対立を煽らない為です。必要な事ですわ」


「でも、そこまでしなくちゃならないの? 騎士に化けて話を聞いたけど、あの伯爵も息子もかなり前からマークされていたみたいだよ?」


 相当普段の行いに問題があったのですわね。


「いえ。わたくしが裁くには、こうする必要があったのですわ」


「リファリスが裁くって…………まさか」


「ええ。これでわたくしは公然と(・・・)撲殺できます」


 うふ……うふふふ……あの馬鹿二人、思う存分に撲殺できますわ……。


「……ああ、復讐法ね」



 ここで割り込んで説明じゃ。

 復讐法と言うのは、文字通り復讐する機会が与えられる法じゃな。

 このような世界じゃからの、強者から弱者への理不尽な暴力は日常茶飯事じゃ。そのような状態を嘆いた聖心教司祭達の発議によって成立したのがこの復讐法じゃ。

 明らかに加害者に非がある場合、複数の証人・証拠がある場合に限られるが、身分を無視して加害者に復讐する事が許される。それが復讐法の内容じゃな。

 つまり、伯爵より身分が低いシスターには、親子から受けた暴行に対して正式にやり返せる権利が与えられた事になるのじゃ。



 後日。


「うふふ、うふふふふ、あははははははは!」


 遂にわたくしに復讐法が適用されました。


「ふざけるな! 何で伯爵たる儂が、このような目に遭わねばならぬのだ!」

「嫌だ! 死にたくなああい!」


「あははは、何を言ってるのかしら、()伯爵様と()警備隊長代行様は」


 元とは言え、貴族様を撲殺できますわ。あははは、あはははははは!


「では、どちらから参りましょうかあああああ?」

「や、止め、止めろおおおおっ!」

「嫌だあああああ!」


「あははは、天誅!」

 バガッ!

「げひっ!」

「あははは、天罰!」

 グチャ!

「がひゃ!」

「あははははは、滅殺! 抹殺! 撲殺!」

 ゴシャグキャバチャア!

 ……ゴトッ


「あははははは! 自称・尊き血が無残に飛び散りましたわ! あははは、あはははははははははは!」

法の何たるかを聖女様に説きたい方は、高評価・ブクマをよろしくお願いします。但し、その後聖女様に撲殺されてもこちらは関知しません。

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