彗星すらも撲殺魔っ
「がああああああああああああ!?」
『ど、どうしたの!?』
「あ、ぐ、あ、あああああああああ!!」
「……流石に大きいですわね」
紅星に向けて放った魔力は、全体を砕くには至りませんでした。
「ほ、本当に届いちゃったの!?」
「わたくし、攻撃魔術はからっきしなのですが、回復魔術でしたら極めておりますので」
「つ、つまり?」
「回復魔術でしたら星を越えて届かせられますわ」
「ちょ、ちょっと待って。回復魔術だよね?」
「回復魔術ですわ」
「回復魔術で攻撃してるの?」
「あら、ルディだったら知ってるでしょう? 過剰な回復は逆効果になると」
「『過剰回復』だよね……でもあれって、相当強力な回復魔術でも起き得ない現象じゃ」
「『回復』に拘るから駄目なのです。生きる者にとって一番の過剰回復は即ち、尽きていない命の復活ですわ」
「生きている者に復活魔術は通用しない筈」
「筈、ですわね。枷を外せば通用しますわよ」
その枷を外すまでが大変なのですが……そこは臥せておきます。
「…………リファっち、それって恐ろしい事だよ」
「分かってますわ。ですから、生物相手には『過剰回復』は行使しません」
「生物相手にはって……まさか『過剰回復』って、物体にも効果が?」
「いえ、以前に話した魔力共鳴を応用した自壊ですわ。今は結界で魔力が反響し、共鳴効果が増幅しているところです」
「か、身体が、身体があああ!!」
『どうしたの、しっかりして!』
ピシ……ピシピシ……
「うぐぁ、ぁ、ぁ、ぁ、あああああああああ!!」
バガァァァン!
……パッ
「あ、紅星が輝いた?」
「……1/3くらいしか砕けませんでしたわ」
「ぼ、僕の身体を! 僕の身体をよくもおおおおおおお!」
『落ち着いて! それぐらいなら、まだ何とでも……』
「許さない! 許さないい! 全部滅んでしまえええええ!」
『い、一体何を……』
「……あら。何か邪悪な気配が」
「……ちょっと、リファっち。星全体を覆いかねないくらいの呪詛が、紅星から放たれてるよ?」
呪詛ですか……この星の生物全てを根絶やしにするつもりでしょうか。
「しかし『呪詛』を使った時点で、紅星に勝ち目はありませんわ…………リジー、お願いします」
わたくしの掛け声と共に、屋敷からリジーが飛び出していきました。
「美味しそうな呪い、いっただきまーす」
「そ、そんな!? あれだけの呪詛が、どんどん消えていってる!?」
『……良かった……地表の皆が無事で、本当に良かった……』
「畜生! 畜生! 何でなんだよおおおお!」
「ちょっとおいたが過ぎたようですわね。お仕置きが必要みたいですわ」
「お仕置きって……」
「無論、撲殺しますわ」
そう言ってわたくしは、全魔力を足元に集中しました。
「許さない! 許さないいい!」
『ちょっと、何をする気なの!?』
「こうなったら僕自身がお前に衝突して、何もかも木っ端微塵にしてやるうう!」
『だ、駄目だよ! そんな事をしたら、主様に』
「主様の意向なんか知った事かああああ! 全部、全部無に帰してやる!」
「っ…………はああっ!」
バヒュン!
魔力を一気に放出し、天高く飛び立ち。
シュウウウ……!
全身を魔力結界で覆い、猛烈な風を防ぎ。
ゴオオオオ……!
段々とわたくしを覆い始める、超高温から身を守り。
ゴオオオオ……!
わたくし達の母なる星が丸く見え始めた頃、目の前に紅い土塊が見えてきたのです。
『な!? き、君は!?』
「な、何だ、お前は!?」
「お前ではありませんわ! わたくしはリファリスという名がございます!」
「お、お前みたいなちっぽけな存在が、僕に敵対しようと言うのか!?」
「敵対? 何を言っているのですか?」
そもそも、貴方如きに敵対する価値なぞありません。
「わたくしは貴方を撲殺・蹂躙する為にここまで来たのです!」
「君みたいな微弱な存在が、僕を滅ぼすと? 寝言は寝てから言いなよ」
「では寝言をほざきます。天誅」
バガァァァン!
「……え?」
再び砕けた己の身体に、理解が追いつかないようですわね。
「天罰」
ゴガァァァン!
「な、何で!? 何でこんなちっぽけなのに、僕の身体が砕かれて!?」
「簡単ですわ。『過剰回復』を杖に纏わせて殴っているだけです」
「そ、そんな無茶苦茶な……」
「無茶苦茶であろうと現実ですわ。ほら、滅殺!」
バギャ! ミシミシミシ……
「や、止めて! 壊れる! 彗星が壊れちゃう!」
「壊れなさいな。抹殺!」
ドゴオ! ビシビシビシビシ……
「嫌だああああ! 滅びたくないいい! 僕は、僕は、主の実け」
「撲殺!」
バガァァァン! メキメキメキバキャア!
「はぎゃあああ! あぅあぅあぁぁぁぁぁぁ………」
……ヒュウウ……ストッ
「お帰りなさい、リファっち~」
「ただいま戻りましたわ……ルドルフから反応は?」
「にゃは~、砕く前に相談しろとあれ程云々……だって」
……全てが終わってから、ちゃんと謝罪しておきますわ。
「それにしてもリファっち…………彗星を殴り壊すなんて……」
「あら、修行次第では誰でもできますわ」
「無茶言わないで!」
「あら、本当ですわ。大体、修行しても何をしてもできない事とは、リジーのあれを言うんですのよ」
「う~! う~!」
呪いを食べ過ぎて普段の三倍以上に膨れ上がったリジーを指差し、わたくしはルディに笑いかけました。
彗星撲殺。もはや人外。




