現れた彗星と撲殺魔っ
変態ジジイ様を上手く使いこなし、不穏分子をかなり刈り取った頃。
「リファリス! リファリスゥゥゥ!」
ついにその時がやってきました。
「どうかしましたか、リジー。騒々しいですわよ」
「騒々しいのは当たり前、リファリス、今すぐ外へ」
そう言ってわたくしの手を引っ張ります。もう、本当に何なんですの?
「いいからいいから、早く早く」
「はいはいはい……ん?」
そう言って連れられていった先には、ブスッとしたルディが立っていました。
「にゃむ~…………何よ何よ! 仲良く手ェ繋いじゃったりしてさっ!」
「はい?」
「フンだフンだフンだっ! アタシの負けですよーだ、陰険リジっち!」
「ふっふっふ、陰険でもいいのだよ、勝負に勝てさえすれば」
……勝負?
「リジー、ルディ、一体何の話ですの?」
「用事があったルディっちに、私が勝負を持ちかけた。リファリスと手を繋いで戻ってきたら、私の勝ち。それ以外だったら、ルディっちの勝ち」
「そんなのはどうでもいいのですが、まさかその為にわたくしを呼んだ……のではないでしょうね?」
「え? それは流石に無い……よね?」
不安げなリジーがルディに聞きます。と言うより、不安なら止めておきなさい。
「大丈夫、大司教代行の名誉にかけても、重要な用事があるさ~」
「…………なら良いのですが。くだらない用事でしたら、撲殺ものですからね」
「……リファっち、撲殺絡むと表情変わるの何とかして。アタシには重要でも、リファっちにとっては大した事じゃ無かったりしたら、頭がいくつあっても足りないから」
「うふふ、期待してますわ」
ひえ~と小さく悲鳴をあげながら、ルディが屋上へと手を引いていきます。
「屋上、ですの?」
「うん。アタシも見つけたばかりだから、なるべく空に近い場所の方が見易いし」
……まさか。
「えっと……柄杓連星の近くだったから…………ほら、あの紅いの」
ルディが指差した先には、確かに普段なら見る事の無い紅い星が見えます。まだ小さいのですが、紅いのは間違いありません。
「紅いですわね……誰が見ても紅いですわね」
できれば外れていてほしかった『神託』でしたが……当たってしまいましたわね。
「…………ルディ、大司教猊下に緊急連絡。予想の時期より若干早く『紅星』出現、と」
「もうやってるよ、にゃは~」
「ならば迅速に対策会議を、と」
「それも通達済みだって、にゃは♪」
流石はルドルフですわ。
「でしたら、わたくし達はここで待機で宜しくて?」
「……にゃは、それは最悪『破壊』もあり得るのか、と」
「あり得ます」
わたくしの即答に、流石のルドルフも返事するのを躊躇したようですが。
「…………分かった、その際は我が全責任を負う……だって」
全責任を負う……つまり辞任するつもりですわね。
「にゃっはぁぁ……」
「そうなったら次期大司教はルディ、貴女ですわよ」
「分かってるよ! だからため息吐いたんじゃないか…………はぁ」
メリーシルバーは一応跡継ぎですが、まだまだ修行が足りていません。つまり、彼女の成長がルドルフのお目にかかるまでは、ルディが中継ぎとして大司教にならざるを得ないのです。
「嫌だぁ……大司教なんて嫌だぁ……」
「少し前まで貴女も大司教だったでしょう?」
「そうだよっ。ようやく『代行』が付いて、ホッとしてたんだから」
罰として付いた筈の『代行』が、実は当の本人を喜ばせていたとは……貴方らしくない失敗ですわね、ルドルフ。
「はぅあ~、嫌だ嫌だ嫌だ」
「ルディっち、そうならずに済む方法があるじゃない」
リジーの一言でルディが突然立ち上がり。
「どんな方法!? 教えて教えて下さいっつーか教えろ」
「落ち着いて、どーどーどーどー」
「ふー、ふー、ブシュルルル」
何なんですの、この寸劇は。
「えー、おほん。つまり、どういう事かな、リジっち」
「そんなの簡単。リファリスが彗星を破壊しなければいい」
……え?
「つまり、破壊しようとしてるリファっちを力ずくで?」
……ルディはどこからかロープを取り出し、目を爛々とさせています。
「ルディっち。力ずくでリファリスをどうにかできる自信は?」
「にゃは、無い♪」
「だったら、どうやってそのロープを使うつもりだった?」
「にゃは、リジっちが頑張る!」
「……無理」
「えーっ!?」
ルディ、おもいっきり他力本願だったのですね。
「こ、こうなったら寝込みを襲って」
「待って下さい。先程も言った通り、あくまで最後の手段ですわよ?」
「無理矢理…………え?」
「当然の事ですが、神聖な彗星をわざわざ破壊しようとは思いませんわ。先程も言いましたが、彗星による災いがあまりにも凶大なものだと判断した場合にのみ、最終手段として破壊する……と申し上げているのです」
「え、あ、な、なら、あくまで災いの規模による?」
「神聖な彗星であっても、災いをもたらした対象であるのなら、破壊した方が民心を宥められる可能性がありますから」
実際に災いが起きたとしても、彗星を破壊して収束する事はあり得ません。あくまでパニックを避ける為のデモンストレーションです。
「……デモンストレーションで彗星を破壊できちゃう事自体が、リファリスの恐ろしさを如実に示していると思われ」
五月蝿いですわよ。




