忠犬ジジイと撲殺魔っ
「グルルルル……」
ゾンビとなった変態ジジイ様、白目であちこちキョロキョロとしています。
「にゃは~……怖いね」
確かに、怖いですわね。
「よーしよしよしよし」
「グワワワ!」
リジーが頭を撫でると、涎を垂らしながら頬を擦り付けてきます……そして。
「グワワッ!!」
ガチィィン!
「わっ!? か、噛み付いてきた!!」
素早くリジーの腕に歯を立ててきたのです。まあ、全身フル装備のリジーに、歯が立つ筈が無いのですが。
「にゃは、本当に食欲一辺倒になっちゃってるねえ。普段が性欲の固まりみたいな人だから、余計に気味が悪いねぇ」
「や、やっぱりゾンビだから、噛まれたら同じようになっちゃう!?」
「リジーは同じ闇属性ですから、噛まれてゾンビ化する事はあり得ませんわ。わたくしやルディは毒を治療できますから問題ありませんし」
「え? 同じ闇属性なら、ゾンビ化しない?」
「……リジー、前にも説明しましたわよ。同じ属性同士の状態異常は無効化されますわ」
「あーうん、そだったそだった。思い出したなーうん」
……絶対に忘れてましたわね。
「リジー、また座学は一からやり直しですわよ」
「ええええっ!?」
当然です。
「……それよりリファっち。試さなくていいの?」
何がですの?
「だから、本当にアタシ達の言う事を聞くかどうか」
あら、言われてみればそうですわね。まずは試運転してみて使えるか、そこからですわね。
「でしたら……公爵様、『千里眼』をお願いします」
「グワワ!」
……どうやら……無事に使えているようですわね。微弱ながら、魔力の流れを感じます。
「でしたら公爵様、セントリファリスの方向を見て下さい」
「グワワワッ」
身体ごとその方角へ向き直りました。言う事は聞いているようです。
「その町にある教会……中に誰か居ますか?」
「グワワワ……ヒ、ヒトリ、ヒトリオンナイル、オンナ」
……ここまでは合ってますわ。
「その女性の特徴を仰って下さい」
「グワワ……オンナ、ニンゲンジャナイ……ワシトオナジ、ゾンビゾゾンビ……」
リブラをデュラハーンだと見抜きましたか。
「オ、オンナ、オンナアアア……フクキテナァイ……」
え?
「グワワワッ、ミズ、アビテル、カラダ、アラッテル、グワワワッ、オンナ、オンナ、オンナアアア!!」
真面目に沐浴をしていたのですね、リブラ……。
「オンナオンナオンナオンナオンナオンナアアア!!」
「ちょっと、暴れないで下さい。ああもう、やはり公爵様は変態ジジイ様ですわね」
ゾンビ化の際に欲望のベクトルが調整された筈ですのに、実際に女性を見るとこうなってしまうという事は、それだけ元の色欲が凄まじいのでしょうね。
「……ふーん……私の言う事は聞くかな?」
「グワワワッ! ガルルル!」
「……お座り」
「グワワワワワッ!?」
……ザッ
あら、座りましたわね。
「……お手」
サッ
「お代わり」
サッ
同じ闇属性だからでしょうか? わたくしの時より、素直ですわね。
「……ルディっちの下着の色は?」
「グワワ、クロ」
「え゛っ」
「へー、黒なんだ」
「……黒なのですわね……」
「うっぎゃあああああああああ!! リジっち、何て事をさせるのよ!?」
「ふーん……なら、次はリファリスの下着は?」
え、わたくし?
「グワワ…………ナイ」
「え?」
「ミエナイナイ、ハイテイナイ」
「それは、まあ……ビキニアーマーですから」
「……言われてみれば、そだねー」
「なーんか拍子抜けー、にゃは~……」
それより。
ガシィ
「ひえ!?」
「特殊能力を妙な事に使うなんて、主がお許しになると思ってまして?」
「え、いや、あくまで実験」
「実験ですか、そうですわね、実験ですわね……公爵様」
「グワワ?」
「わたくしの言う事は、聞いて頂けますか?」
「プィッ」
同じ属性のリジーは認めても、反対属性のわたくしには従うつもりは無いのですね?
「でしたら…………公爵様ぁぁぁぁぁ」
「グワワ!?」
わたくしの背後から日の光が照らし、顔を暗く染めます。
「あは、あははは。わたくしの言う事ぉ、聞いて頂けますわよねぇぇぇぇ?」
「ギィィィ……グワグワグワ!」
完全に怯んだ様子の公爵様を、一気に畳み掛けます。
「では公爵様ぁ、どうなさいますかぁ? わたくしに従うか、逆らって……撲殺されるか♪ あは、あははは、あはははははははは!!」
「シ、シタガウ、シタガウ。マオウサマニチカキモノヨ」
魔王に近いって……。
「……まあ良いですわ。では公爵様……リジーの下着の色と柄を具体的に」
「え゛!?」
「グワワワッ……イロハウスイグレー」
「いやあああああっ!!」
どうやら当たっているようですわね。
「ガラハイタッテシンプル」
「見ないで見ないで見ないでえええ!!」
「…………ムッ。パンツノマンナカニハ、カワイラシイクマノモヨウガ」
「うっぎゃああああああああっ…………がくっ」
それが止めとなったようで、リジーはそのままひっくり返りました。
「グワワ?」
「……公爵様、その力はわたくしの指示があるまで、使ってはいけませんわよ?」
「グワワッ、ワカタ」
……何とかとハサミは使いよう、とは言いますが……ここまで扱いが難しいとなりますと……はぁぁ。
変態ジジイはゾンビになっても変態ジジイ。




