死霊魔術士と撲殺魔っ
「では呼んで参りますから、後はお願いしますね」
「え、呼んで参りますって……」
「大陸中を逃走……もとい放浪してますので、まずは所在を掴まなくては」
「……それ、行方不明と言った方が正しいのでは?」
まあ、平たく言えばそうなりますわね。
「ですが大丈夫ですわ。聖属性のマーキングを施してありますから」
「…………待って。マーキング? 聖属性で?」
「はい。それが何か?」
「……ルディっち、確か死霊魔術士って、聖属性って苦手では?」
「にゃは~、そうだね。よく我慢してマーキングされてるね」
それはわたくしの技術ですわ。
「とにかく所在を確かめますわ……『聖属性探知・広範囲・人物』」
……ィィィィィン……
以前にわたくしが付与した聖属性の魔力は、問題無く共鳴します。
「……西ですわね」
「西ねえ」
「リジー、何か要らない呪具はありません?」
「要らない呪具? 大した事無い呪われアイテムで良ければ」
「それで構いませんわ」
「ん……はい」
渡されたのは、小さな小箱……何でしょう、これ?
パカッ
『あびゃびょおおおん!』
っ!?
「中身が色んな物に変わる呪われアイテム」
これ、呪いなんですの!?
「リファっち、そんなので探知できるの?」
「はい。呪具に聖属性を付与して、ネクロマンサーへ飛ばします」
「はい?」
「まあ、見てて下さいな……『聖属性付与・飛翔・追尾』」
パアアア……バサアッ!
『パカアアアン!』
バッサバッサバッサ
「箱が飛んだ!?」
「付与した聖属性を翼に変え、ネクロマンサーを追いかけますわ」
『パカン、パカアアアン!』
バッサバッサバッサ……
「…………な、何なの、あのシュールなびっくり箱は」
「あの呪具がネクロマンサーを追尾し、捕まえます」
「「捕まえる!?」」
「まあ……一二時間後には結果が出ますわ」
わたくしの予告した二時間が過ぎた頃。
『パカアアアン! パッカアアアン!』
「ほら、来ましたわ」
「ちょっと、何なんこれ!? 離しいや、離しいやって!」
箱にくわえられた真っ黒な格好をした女性が、ジタバタしながら叫んでいます。
「もういいですわね……『浄化』」
パアアア……
「え…………ひぃあああああああああっ!!」
びたああああああん!
「リ、リファっち? あの高さからだと、墜落死したんじゃない?」
「大丈夫ですわ、ネクロマンサーですから不死ですわよ」
そう言って人型に空いた穴に向かいます。
「っ……む、ぐ、ぐう、うがあああ!」
ズドオオオン!
あらあら、まだ元気ですわね。
「何や、あの疑似生物は!? あんな呪具を生物に仕立てるやなんて、リファ公以外居らへんやろ!」
「ご名答ですわ……お久し振りですわね、天才ネクロマンサーさん」
わたくしの顔を見たネクロマンサーさんは、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべます。
「……ち、ホンマにリファ公やないけ。ウチはもう二度と会いとう無かったんやけどな」
「連れないですわね、わたくしと貴女の仲ですのに」
「うっさいわ……それより、こんな強引にウチを呼び出したんやから、それなりの実験させてくれるんやろな?」
「勿論ですわ、今回の検体はコレです」
「むーっ!?」
ぐるぐる巻きにして猿ぐつわを噛ませた変態ジジイ様を蹴り与えます。
「……これ、まさか、ライオット公爵やないの!?」
「その通りです。こちらをゾンビ化して下さいな」
「ま、待ちぃや! いくら何でも、それは不味いんちゃう?」
「あらあ? 貴女は歴戦の勇士をゾンビ化するという、またと無い機会を不意にするんですの?」
「う、うぐ……」
「聖女と崇められるわたくしでも、友人の誘いに乗り、疑似生物の実体化に手を出してしまいましたわ……ふぅ」
「むぐっ……ううぅ」
「どうせ元に戻すのですから、貴女が実験めいた死霊魔術を行ったところで、何も変わりませんわよ」
「じ、実験……!」
「公爵様ですから、ある程度の無茶には耐えられる身体ですわよ……多分」
「そ、そこまで言われたらウチとて引き下がる訳にはいかへんなぁ。よっしゃ、やったろーやないかい!」
「うふふ、それでこそですわ、ハニー♪」
「ハニー言うなや!」
そして、術式を始めて三十分。
「ウグググ……グワワワワワワ!」
「はい、成功や」
流石ですわ。
「ご注文通り、性欲は皆無、特殊能力は命令すれば使うように調整しといたで」
「お得意のオーダーメイドゾンビ、相変わらずの出来映えですわね」
「やけどなぁ、性欲減らした加減で、食欲は倍増してるで?」
「グワワワワ! ガガガガガッ!」
「つまり、いつ噛みついてきてもおかしくないと?」
「そや。ま、リファ公がちゃんと手綱を掴んでいれば、何も問題あらへんけどな」
「分かりましたわ。しっかりと手綱を掴んでおきます」
「そやそや。その意気やで…………それよりリファ公、後ろのお二人さん、誰なん?」
「あ、まだ紹介してませんでしたわね。こちらはわたくし専属の聖騎士リジー。聖騎士なのに呪剣士な変わり種ですわ」
「呪剣士なん? ウチらネクロマンサーと話合いそうやなぁ」
「で、こちらが大司教代行のルディですわ」
「大司教代行って…………あの大司教の!? 冗談やあらへん、ウチは消えるで! さいならっ」
どろんっ
「「…………へ?」」
あらあら、いつの間にか居なくなってしまいましたわね。
「い、今の嵐は一体……」
一瞬の登場で、名前すら出なかったネクロマンサーさん。




