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北に来た意味と撲殺魔っ

「おはようございます、奥様」

「おはようございます……あら、今日は軽装ですね」

「ええ。変態ジジイ様が、しばらく『千里眼』を使えないらしいですから」

「え、本当ですの!?」

「はい。話を聞いた聖女様が、変態ジジイ様にキツーくお灸を据えて下さったそうで」

「でしたら、鎧を着なくても大丈夫ですね!」

「そうですね……ああ、久し振りに鎧を脱げますわ……」


 ガシャン! ガシャン!


「ああ、軽い……こんなにも鎧以外の服が軽かっただなんて……」



「ワ、ワシが悪かった……じゃから目を治療してくれい……」


 いくら特殊能力とはいえ、肝心な目が見えなくては、覗き見のしようがありません。


「まさかこの町の住民がことごとく鎧を着用していたのは、特殊能力が通じにくい鉛の鎧を着ていたからだとは……」


 リジーも呆れ気味です。


「ライオット公爵、常日頃からこんな事をしていたのかな?」


「だ、代行、ワシは覗き見が目的では無かったのじゃ。町の中に間者が入り込んでないか、見張る為にじゃな」

「僭越ながら申し上げます。旦那様の仰る通り『千里眼』によって数多くの間者をひっ捕らえております」


 そうなんですの?


「ですがそれ以上に、領内の女性のある箇所の色に通じております」


 …………ある箇所?


「シスターとキツネ娘は薄いピンクじゃの。代行は…………濃い茶色ぐぎゃひ!?」


 わたくしの杖より早く、ルディの細剣が公爵様の喉に突き刺さりました。



 必要最低限で生き返らせておいてから、リジーと二人で街の見回りに出てみる事にしました。一応、鎧姿です。


「ふう……まだまだ鎧姿の方が多いですわね」

「まだ変態ジジイの現況が伝わってないと思われ」


 老若男女関係無く、小さな子供まで鎧姿とは……最前線の領という事もあるでしょうが、やはり変態ジジイ様の脅威が勝っているのでしょうね。


「鉛の鎧って、重いし軟らかいし、あまりメリットが無いと思われ」


「それは皆さん、よーく分かっているでしょう。ですが、常に覗かれているかもしれない……という恐怖には勝てませんわ」


「……何故こんな街に住むのか、理解不能」


「そんな街でも故郷ですわ。やはり離れ難いのでしょう」


「故郷……か。要は呪われアイテムがドッサリの街みたいな?」


「…………非常に分かり難い例えですが……リジーにとってはそうなのでしょうね」


 呪具だらけの街……まとめて浄化したくなりますわ。


「むーふ、だけど夢の街はどこかにあるらしい。行ってみたい」

「……わたくしも行ってみたいですわ。まとめて浄化」

「駄目!」


 楽しそうなですが……残念です。


「それよりリファリス、この街で何をするの?」


「今回の周期では、北側が彗星が良く見えるのです。ですから何かあっても早く対応できるライオット公爵領が今回は最適なのですわ」


「ふーん……でも今回のは、あくまで天文学的な事象だよね?」


「まあ……そうなりますわね」


「そんな大規模なの、リファリス一人で何とかできるの?」


「規模によりけりではありますが、何とかできるかもしれません」


「………………はい?」


「基本的に彗星が直接何かを起こす事はありません。例え軌道が変化してこの星に落ちてこようとも、破壊してしまえばそれまでですし」


「は、破壊!!!?」


「ええ。回復魔術の反動共鳴で簡単ですわ」


「はんどう……きょうめい?」


「回復魔術は物体には何の効果もありません。ですが魔術の波動は伝わります」

「は、はあ……」

「その波動を魔力結界によって共鳴させるのです」

「は、はい?」

「最初に回復魔術をかけた時に、同時に対象を結界で包むのですよ。回復魔術を効率よく浸透させる為の技術の一つですわ」

「う、ううむ」

「そうして物体内部で共鳴し続けた魔力の波動は、やがて破壊的な振動になり……物体を自壊させるのです」

「…………つまり、回復魔術は何でもあり?」


 小手先の技術ですわよ。


「それはともかく、彗星本体からの影響は精神的作用に限られますから、何か起きるとしても限定できますわ」


「そ、そうなの……」


「はい。魔国連合がこちらの混乱に合わせてちょっかいを出してくるとか、精神的に錯乱した住民が騒ぎを起こすとか、そのくらいですわね」


「……だったら、街の警備隊に厳戒態勢を敷いてもらった方が一番効果的?」


「そうなりますわね……ですから、ある程度枷をかける前提で、変態ジジイ様にも頑張って頂きましょう」


 街全体を見渡せる『千里眼』は、やはり治安維持には有効です。


「枷? 一体何を?」


「簡単ですわ。ああいう手合いには、苦手なものを並べておけば良いのです」



 数日後、必要な人員を集め終えたわたくしは、変態ジジイ様の視力を回復しました。


「あ、明るいのう……じゃが、これで何もかも見放題、ムフフフ」


 やっぱり反省してませんわね。


「公爵様、貴方には専属の見張りを付けます」


「む、見張りとな?」


「はい。わたくしが選んだ、選りすぐりの精鋭達ですわ……ではどうぞ」


 バァン!


 開け放たれたドアからは……。


「ふんぬっ!」

「むぅんっ!」

「だらやっしゃああ!」


「な、何じゃ、この筋肉ダルマ達は!?」


「貴方の周りに常に配置され、貴方の身の回りの世話も行います」


「な、何じゃとお!?」


「『千里眼』したければ、どうぞなさって下さい。その代わりに、この者達は常に貴方の視線内に居るように厳命してありますから」


 見始めには必ずこの方々が目に入ります。そこを飛び越えて覗きたいのでしたら、この筋肉の壁を頑張って越えて下さいね。



 案の定、変態ジジイ様は大人しくなりました。

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