ライオンと撲殺魔っ
「ウフフフフ」
『ねえ、お願いだから元に戻ってよぅ』
「ウフフフ、何が?」
『お願いだから、いつもの君に戻ってよぅ』
「え? 僕はいつもと同じだよ?」
『全然違うよぅ。青くて優しい君じゃない』
「んもう……いつまで拗ねてるんだよ。またいつもみたいに遊ぼうよ」
『遊ぶって……何をするつもり?』
「それは勿論…………」
「小さいのをプチプチ潰して遊ぶのさ」
「……え?」
「む、どうかしたのかの?」
ガラガラガラガラ……
「い、いえ、何でもありませんわ」
また小さな子達の声が聞こえたような……?
ガラガラガラガラガタタッ
「我が領に着けば、少しはデコボコも落ち着くじゃろうからの」
「ご心配頂きありがとうございます、ライオット公爵様。わたくしは平気ですわ」
「いやぁ……ワシが心配しとるのは、聖騎士と代行なんじゃが……」
……ああ、お二人ですね。
「ガタタッって来ないで! 鎧に振動はダメージ増加!」
「にゃはああ!? アタシのお尻が倍になるぅぅ!!」
……あんなのが聖騎士と大司教代行……はぁぁ。
「五月蝿くて申し訳ございません」
「いやいや、賑やかで楽しい旅行じゃわい。カッカッカッ」
わたくしの大ポカ発覚の後、急遽ライオット領へ行く計画をし、一週間も経たないうちに出発にまで漕ぎ着けました。
リブラが教会の留守を引き受けてくれ、わたくしには護衛の聖騎士リジーと大司教代行のルディがついて来てくれました。
「何で私が留守番!? ねえ、何でよ、リファリス!?」
走り出す馬車に向かって何かを必死に訴えてきたリブラが気にはなりましたが、彼女の献身のお陰でこうして無事にここまで来れたのです。
「しかし、シスターが忘れておったのも無理無いわい。まさか彗星がのぅ……」
話の行き違いの過程で何か起きている事を公爵様に悟られてしまい、結局彗星の事を話すしかなくなってしまったのです。
「大司教猊下や枢機卿の皆様が、対策会議を立ち上げていらっしゃいますわ」
「ふむ、大司教猊下はともかく、腰の重い枢機卿共がよく動いたもんじゃのう」
腰が重い、という点は否定できませんわね。
「しかし何故じゃろな。我が領の方が彗星に対し易い、という猊下の考えが読めぬのじゃが」
確かに。彗星の事を理由に、ライオット公爵様のお話をお断りするつもりだったのですが。
『あっれー、ルドルフから心話だ。えっと……ライオンの餌場の方が、彗星に対処し易かろう……って、ええ??』
ルディを交えての大司教猊下のご判断により、わたくしはこうしてライオット公爵領に向かっているのです。
「公爵様もご存知だとは思いますが、大司教猊下は無駄なご命令は下されませんわ」
「分かっておるよ。おそらく大司教猊下は大司教猊下で、違う『神託』を賜ったのじゃろうな」
その可能性は否定できませんわね。
ガラガラガラガラガグンッ! スー……
「はぅぅーっ…………あ、ガタガタ消えた」
「お尻がお尻が……にゃは? 揺れない?」
「む、舗装路に出たようじゃな。ようこそ、我がライオット公爵領へ」
「ありがとうございます。ちなみにですが……ライオンの餌場と言うのは?」
公爵様は苦笑いし、視線を前に向けました。
「猊下も人が悪うてのう、事ある度にあのようなご発言をされての……今では我が領の公式な通称となっておるのじゃ」
…………我が祖父が大変ご迷惑をおかけしています。
「それよりシスターよ、例のものは持ってきてくれたかの?」
「あ、はい。持って参りましたが……このようなもの、一体何に使いますの?」
「無論、着てもらう為じゃよ」
そうですか、またこれをわたくしが…………はいぃ!?
「ま、待って下さいな! 何故わたくしが再び鎧を!?」
「ん? 何じゃ、シスターは知らなんだのかのう?」
何をですの!?
「にゃは~、リファっちはたまに抜けてるからね~」
「貴女に言われたくありませんわ! それより鎧の理由を教えて下さいませ!」
「別に難しい話では無いわい。我が領は魔国連合とも近い故、常に臨戦態勢の空気が整っておるのじゃよ」
「……それが、どうかしまして?」
「ちなみに我が領の七割は岩石砂漠。未開の地ばかりじゃ」
「ですから、それがどうかしまして!?」
「つまりじゃな、魔国連合の間者が潜むのは、うってつけの場所なのじゃよ」
「つまり目立つ姿の者が現れれば、魔国連合にも筒抜けになっちゃうのよね~、にゃは~♪」
うぐっ……た、確かにこの法衣は、目立ちますわね……。
「じゃから鎧なんじゃよ。全身鎧でウロウロしておる限りは、臨戦態勢の我が領にピッタリじゃろ?」
「で、ですが、わたくしの鎧は……」
「……? 別に神職が鎧を着る事は禁止されておるまい?」
「アタシだって着ちゃうんだよ、にゃは~♪」
「そうではなくて、ですね……ああもう!」
最後の手段です。胸の谷間から鎧を取り出して見せますと……。
「なっ、何故にこれを持ってきたのじゃ!?」
「こんなの、全身鎧より法衣よりも目立っちゃうね、にゃは」
……そんなわたくしの手には、いつぞやのビキニアーマーがぶら下がっていました。
ビキニアーマーでいっちゃってええええええ!!




