流れ星と撲殺魔っ
「……もうすぐ来るよ」
『うん、もうすぐ来るね』
「青い君に会えるよ」
『そうだね、こちらにも久々に見えるよ』
「青い君に贈り物を用意してるよ」
『わぁい、嬉しいなぁ…………だけど』
「なぁに?」
『今年は……どんな贈り物?』
「そうだねぇ、今回は……」
『……あれ……君……いつもと……』
「今回は…………」
『ま、まさか……』
「……〝紅星〟が!?」
自分の教会に戻ってから、リブラとリジーにだけは今回の事を伝えました。
「アカホシ?」
「そ、それは本当なの!?」
「え、ええ。神託がありましたから、間違いありませんわ」
「な、何で……百年も経ってるってのに……」
「アカホシって何?」
「「……え?」」
「私、知らない。アカホシって何?」
あ、ああ。リジーは知らないかもしれませんね。
「リジー、待って。あんた、知らないんだよね!?」
「え? あ、うん、知らない」
「だったら、もうその名を口にしちゃ駄目」
「え? 名前って、アカホむぐっ」
リブラが無理矢理口を塞ぎ、最後まで言うのを防ぎます。
「リジー、しばらくは純粋に彗星と呼んで下さい。先程の名は忌み名であり、あまり口にして良いものではありません」
「むぐぐぐ……ぶはっ! わ、分かった。彗星ね、彗星……」
「……リジーにはちゃんと説明しておいた方がいいんじゃない?」
「……そうですわね。ちゃんと内容を把握していないと、どこかでまたポロッと言いそうですもの」
「…………??」
リブラと頷き合ってから、一度は開放した教会の扉を閉め、三人で礼拝堂に籠もったのです。
「な、何をするの? い、一体?」
窓も閉めていき、天井のステンドグラスからの明かりのみが、唯一の明かりとなっていきます。
「え? ええ? 聖心教のお祈りの時って、明るくしてやるんじゃなかったの?」
ステンドグラスだけでは少し暗い礼拝堂に、一本だけロウソクに火を灯します。
「普通は、です。ですが、たった一つだけ例外があります。それが先程から話題に出ている彗星です」
「彗星? アカ何とか?」
「そうですわ。そして、本来ならば吉兆とされる一年周期の彗星・聖心彗星。それが先程からリジーが口にしているものです」
「え、聖心彗星が? それなら流石に私でも知ってると思われ」
そりゃそうでしょう。聖心彗星が現れる時期には毎年「彗星祭」と言うお祭りも各地で開催されますし、教会でも重要な儀式が行われます。この世界の住人でしたら、幼児でも知ってるくらいですわ。
「私、彗星そうめん食べたい」
「あ、あれね。夏の風物詩だねぇ」
確かに。半分に切って節をくり貫いた竹に清水を流し、彗星に見立てたそうめんの固まりを流す…………ああ、暑さを忘れさせる風情……はっ!?
「今は彗星そうめんの話をしている場合ではありませんわ!」
「そ、そうだったわ。何で急に脱線したのよ」
「何でだろ~何でだろ~」
一旦休憩し、彗星そうめんを堪能してから話を戻します。
「まずは聖心彗星からですね。どのようなものかはリジーもご存知ですわね?」
「うい。一年に一回、主からの贈り物。大体は良い事があるんだけど、稀に不幸があったり……みたいな?」
「その通りですわ。彗星祭は良き事が起きたならば感謝を、悪い事が起きたならばその収束を願う聖心教の儀式が元になったお祭りです」
「……つまり、良い事があったか悪い事があったかは、人それぞれの主観?」
「そうです。つまり、本来は昔からあった慣習を、聖心教風に味付けした行事なのです」
「聖心教風に味付けって……言っちゃっていいの、そんなの」
「構いませんわ、建て前はどんなものにでもありますもの」
「…………」
「それより問題はここからです。現在は夏の風物詩的な彗星ですが、不定期に姿を変えます」
「は? 彗星が姿を変える?」
「ええ。はっきりとした理由は不明なのですが……青白い筈の彗星が、何故か紅くなるのです」
「あ、紅い彗星!?」
「そうです、紅い彗星です」
「ま、まさか、この世界に紅い彗星が居るだなんて……」
……ん?
「何故に彗星が『居る』んですの?」
「え、だって、紅い彗星でしょ?」
「え?」
「え?」
待て待て待てぃ! クーリングタイムじゃあ!
「し、失礼しました。人ではありませんよ」
「う、うん、分かった」
「な、何だったの、今の……」
リブラ、もうその話題から離れなさいな。
「それより、話の続きですわね。聖心彗星が紅く染まった姿を『魔王彗星』または『紅星』と呼んでいます」
「魔王彗星って、まさか魔王教の?」
「そうです。彗星の紅色化は、魔王教では逆に尊ばれます。なので魔王教圏内では魔王彗星、聖心教圏内では聖心彗星と呼ばれ区別されているのです」
「あ、魔王彗星だと、魔王教内での呼び方と被る?」
「そうですね。ですから聖心教圏内では紅星と呼ばれる事の方が多いですわね」
「成る程、紅い彗星で紅星か……」
「……リジー、紅い彗星と言うのは止めましょう」
「どうして? やっぱり紅い彗星ならシ○アだから?」
「ですから!」
二度目のクーリングタイムじゃあ!
「リジー、もう駄目ですわよ?」
「は、はい……」
君の名は、みたいな展開にはなりません。




