『神託』と撲殺魔っ
バシバシバシバシバシバシ!
「痛いっ! 痛いっ! ごめんなさいぃぃ!」
「貴女は! 毎回! 毎回! わたくしを無視して!」
バシバシバシバシバシバシバシバシ!
「ちょ、マジ痛いって! お尻が倍になるぅぅ!」
「なれるものなら、なってみなさいな!」
バシバシバシバシババババババババババシィ!
「痛い早い痛い早い痛い早いぃ!」
「早いのが嫌でしたら!」
ズバッシィィィン!
「ぴぎゃあああああ!」
ズバッシィィィン!
「く、砕けるぅぅ!」
「ふふ…………あははははは! 楽しくなってきましたわ!」
ズバッシィィィン!
「尾てい骨が砕けるってえええええ!!」
「あははははは! では、天誅!」
バチィィィィン!
「きぃああああああ! 撲殺モードに入ってるぅぅぅぅ!」
「あははははは! 天罰!」
バチィィィィン!
「待っ、お尻叩きで撲殺は嫌あああああ!」
「ではラストスパート! 滅殺!」
バチャァァァン!
「あぎゃひぃぃぃ!」
「抹殺!」
ボキボキボキボキィ!
「尾てい骨ぴぎゃあああああ!」
「撲さ」
「待つのだ」
んあ?
「だ、大司教猊下?」
「落ち着いて考えてみよ、聖女よ。撲殺の最後は必ず何かが砕けていたであろう」
そう……ですわね。大概は頭ですが。
「今回は、臀部だ。もしもそこが砕けたら……どうなるであろうな?」
…………………………ぅぁ。
「……考えたくもありませんわね……」
「そうであろう。我も自らが祈る場に、そのようなものが散らばるのは望まぬ」
「…………分かりましたわ。ここまでにしておきます。そして、放置します」
「放置!? 尾てい骨砕けてるんだけど!?」
「うむ、それが良かろう」
「良くないって! 痛いし死ぬし、痛いし死ぬし!」
「構いませんわよ。苦しみ抜いてから逝きなさいな」
「構わぬ、良い罰となろう」
「それが聖職者の言う事なの!?」
「生き返らせれば無問題」
「死ななければ問題無かろう」
「嫌よお尻叩きが死因だなんてええええええ!!」
半死半生のルディは放置して、久し振りに大司教猊下と語り合います。
「我が半身がまた下らぬ悪戯をしたようだな。許せよ」
「大司教猊下に頭を下げて頂く必要はございませんわ。うちのリジーにも責任はありましてよ」
「うむ、そう言ってもらえると助かる」
「リ、リジっちにも、同じような、罰を?」
「呪具を浄化しました、完全に」
「あ、あはは、それはリジっちには一番キツい…………がくっ」
あ、逝きましたわね。
「『適度に復活』」
パアアア……
「…………うぐっ、ごほごほ……あ、あれ? まだ痛い?」
「はい、適度に復活ですから」
「何よそれ!?」
まだまだ罰は継続ですわ。
「それより聖女よ。先日、何やら不吉な『神託』を受けていたと、我が半身から聞いておるが」
ルディ、喋ったんですの? 睨むとプイッと横を向いてしまいました。
「どのような内容なのだ?」
「そ、それは……」
あまり話していい内容ではありませんが。
「構わぬ、話せ」
…………うぅ。
「どうせ最終的には『大司教命令』と仰るのでしょう?」
「無論、必要ならばそうする」
「でしたら……さっさと話してしまった方が良いですわね」
「……何だと?」
大司教猊下の目に何かが籠もります。
「そういう反応が分かってましたから、言えなかったんです」
「む……」
「ですが、わたくしに降りてきた神託は間違い無く、そのような内容でしたわ」
「……まさか……聖心彗星から……?」
聖心彗星とは、聖心教の信仰対象の一つ。一年に一度、決まった時期に現れる帚星の通称です。
「はい、神託によりますと、彗星が現れた後、何か目に見えぬ災いが地上に降り注ぐ……となっています」
「……彗星から、か……普通なら祝福が降り注ぐ筈なのだがな……」
そう、その聖心彗星が現れる時は、何か良い事が起こるのが通例なのです。
「大司教猊下、今回の彗星、少し赤みがかってくる可能性も」
「なっ!? ま、まさか、リファリス、お前」
「…………はい。神託による道標は二つでした。一つは聖心彗星のままでの災い、もう一つは…………変貌の可能性です」
「……魔女様」
「なあに、奴隷A」
「魔王様からの伝言が」
ガバッ
「魔王様からですって!?」
「は、はい。一言だけ伝えれば分かる、と」
「……一言?」
「はい、今回の彗星は紅くなる、と」
「っ!!!? …………分かった、下がっていいよ」
「はい、失礼します」
「……まさか、百年振りに紅くなるなんて……………………あはははは、あははははははははは! さあ、どうするのかしら、聖心教! 聖女様! リファリスゥゥゥゥ!」
「……魔国連合の動きは?」
「現在のところ、活発になってはおりません。ですが、中央山地付近で黒い雲らしきものが目撃されています」
「中央山地……黒い雲か。有翼族が集まってきているな」
「はい。やはり前触れかと」
「リファリスの……聖女の神託は正しいと見るべきか……」
「……魔王彗星〝紅星〟の再来か……」




