兆候と撲殺魔っ
今回は聖女様色が強めになります。
……何でしょうか。不思議と不穏な空気を感じます。
「リファっち? リファっちったらー」
「…………え?」
「リファっち、聞いてた?」
「あ、ああ、ごめんなさい。少しボーッとしてましたわ」
「ふーーん……大司教の前でボーッとしてるだなんて、いい度胸だね、リファっち」
「し、失礼しました…………ただ」
「……ただ?」
「何か……漠然としているのですが……何か良くないものが……」
「良くないもの…………あ、ああ、もしかしたら、それって『神託』だったり?」
「そう……かもしれません」
「で、良くないものって何?」
「……それが何かは分かりませんが…………もしかしたら」
「もしかしたら?」
「空から降ってくるであろう、それは…………あの-------が原因では無いかと」
「……あっつい」
朝の奉仕を終えたリブラは、胸元をパタパタして風を送り込んでいます。
「はしたないですわよ、リブラ」
「分かってるけどさー……今年は暑すぎるのよ」
「恐らく南海の女神様がご機嫌斜めなのですわ」
「…………は? な、何よそれ?」
「言い伝えですわ。数年に一度、南海に住むと言われている女神様が、急に機嫌を悪くするそうなのです。するとその海域の海水温が上がり、その影響で世界中に異常気象が頻発するのです。この辺りですと、例年より夏が暑くなりますわね」
「何なのよ、その傍迷惑な女神様……意味も分からずに機嫌悪くして、周りに悪影響及ぼさないでよね」
全くですわ。
「で、何て女神なの?」
「えっと……エル? エラ? すいません、忘れましたわ」
「……ま、いいんだけどね……暑々々……」
パタパタパタッ
胸元を大きく広げ、団扇で風を送り込んで……ですからはしたないですわよ。
「んっふっふ、ただいま~♪」
ガッチャガッチャ
そこへ全身鎧のリジーが帰ってきました。最近ようやく罪が許され、わたくし専属の聖騎士に復帰したばかりです。
「お帰り……って、暑っ」
漆黒の全身鎧は太陽光を存分に吸収したらしく、目玉焼きができそうな程に熱くなっています。その放射熱によって、室内の気温が一気に上昇する程に。
「暑々々々々……ちょっとリジー、その鎧何とかなんないの!?」
「え、何が?」
中身の声はあくまで涼しげ。本当に暑くないのでしょうか。
「ふんふふーん♪ 灼熱の鎧、効果ばつぐーん♪♪」
灼熱の……鎧?
「あ、それ、おニューの呪具?」
「ピンポーン! 先日見つけた」
灼熱の鎧……やっぱり!
「リジー、それはわたくしが防具専門店からお預かりした、浄化待ち呪具じゃありませんの!?」
「そのとーり!」
か、勝手に持ち出したんですの!?
「リジー、誰に断ったんですか!?」
「え、ルディっち」
ル、ルディ……!
「本当だったら装着者の肉体を焼き尽くす呪われアイテムだけど、呪剣士の私には反転した効果が出るから、涼しい涼しいうひょー♪」
ルディィィィ……。
「わたくしが浄化を頼まれていたものを、勝手に使用許可を出すとは……!」
いくら大司教代行だろうが、許せません。
「呪具の中には、装備者だけではなく、周りにまで被害を及ぼすような危険なものもあるのに……!」
「リファリス、リファリスー? 涼しい、涼しいよっと」
「……『清め、浄化』」
「えっ」
パアアア……
「あ……あああああああ!? 灼熱、灼熱の鎧があああああ!」
半裸になってむせび泣くリジーは放置し、聖地サルバドルへと向かいます。
「ベアトリーチェ、お願いします」
みゅぅぅん!
ドットコドットコドットコ…………
「私の呪われアイテムがあああっ!?」
「この暑さでリファリスだって機嫌最悪なのに、わざわざ怒らせるだなんて……」
ドットコドットコ
……みゅぅぅん!
「……ふふふふ……見えてきましたわ、聖地サルバドルが……」
さあ、勝手な真似をして下さったルディ、どのようにして差し上げましょうか……肉塊になるまで撲殺して、主へのお供え物にしましょうか……。
久々な解説じゃの。一応断っておくが、生きておったぞ。
そうそう、今回の解説はただ一点。聖心教では、生贄は禁止されておるからの。誤解せぬようにの。
「あはははは、あはははは、あははははははは!」
みゅぅぅぅぅん!
「お、おい、あれ……」
「ヤ、ヤバいな。紅月モードの聖女様だぞ」
「大司教代行、また何かやらかしたのか……?」
「あはははは、開けなさい! 開門!」
ギィィィ!
「「「どうぞ、お通り下さい」」」
「あはははは! ありがとうございます、あはははは!」
みゅみゅううん!
ドットコドットコドットコ……
「……これは……血を見るな」
「代行、いい加減にしてくれないかな」
「……聖地が血で穢れるぅ……」
「……んん? 何か賑やかな気配が近付いてくるね」
「これは……聖女であるな」
「あ、やっぱり。よし、アタシが直々に出迎えてやるのだ、にゃは~♪」
「待て。明らかに怒りの波動が漂って」
「リファっち、何か用かあぶべば!?」
「……我が半身よ、後で骨は拾っておこう」
「ま、待ってルドルフぶごぶぁ!? た、助けてあがぐぶひぃ!」
「貴方は、何度言えば、分かるのですか!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぶしゃあ!?」
「聖女よ。終わったら、きちんと掃除しておくように」




