聖女様の閑話
「…………」
改めて考えてみても、これはよく分かりません。
「……こんな少ない装甲でアーマーを名乗っているだなんて……」
不思議です。
「……何をマジマジとビキニアーマー眺めてるの、リファリス」
「あら、リブラ……ちょっと世の中の不思議を探求してましたの」
「世の中の不思議って……まさかビキニアーマーの存在について?」
「そうですわ。申し訳無い言い方になってしまいますが、そういう筋の商売の方が身に付けているイメージしかありませんもの」
「そういう筋って……まあ、そう言われても仕方が無い面はあるけど……」
以前わたくしが海で身に付ける羽目になったビキニよりは、やはりアーマーなだけあってしっかりしています。しかし守れる装甲の少なさは、鎧としての機能を放棄してるのではないでしょうか。
「まあ確かに、騎士団では一人も見かけた事無いよね」
「……これで騎士団に入れたら、ある意味で強者ですわよ」
「いや、過去には居たんだよ、ビキニアーマーの騎士」
はい?
「…………どこかのセクハラ領主が作った騎士団ですか?」
「女だらけの? 流石にそんなのは無いわよ」
……ですわよねぇ……。
「えっとね、確か自由騎士団に所属してたんじゃなかったかな?」
フリーダンに!?
「気になるんだったら、フリーダンの騎士に直接聞いてみたら? 何てったってリファリスは団長なんだから、多少都合の悪い事でも答えてくれるでしょ」
……悪い想像はしたくありませんが……フリーダンが過去に犯罪めいた事をしていたのでは無いか、という疑惑が持ち上がりましたので。
「あ、団長……じゃなくて聖女様」
「バカ、聖女様じゃなくてシスターだよ」
フリーダン聖地駐屯部隊の騎士様に、直接聞いてみる事にしました。
「こんにちは。少しだけ宜しいですか?」
「あ、はい。今自分は休憩中ですんで、大丈夫です」
あら、でしたらちょうど良いですわ。
「貴方方にお窺いしたい議がありますの。実は……」
「あ~……聞いた事ありますね」
本当でしたの!?
「名前は…………シャチだったかな。元は流れ人っすよ」
流れ人!?
「俺がフリーダンに入る前の話ですんでね、実際は見た事は無いです。ですが滅茶苦茶強かったらしいですね」
「ビキニアーマーで、ですの?」
「あー、そのシャチって人ねぇ、決して騎士では無かったですね」
「はい? 騎士団に入っているのに、騎士じゃ無かったんですの?」
「えーっとね、職業としての騎士では無い、という事っす」
……よく分からないのですが……。
「シャチってのは、騎士じゃなく武道家に近かったみたいで」
「武道家? 騎士団に入った流れ人が、ビキニアーマーで武道家??」
「チンプンカンプンでしょ。でね、自分も先輩に聞いてみたんすよ。武道家だったらビキニアーマー着る必要性が無いんじゃないかって」
ああ、ちょうどわたくしが知りたいと思っていたところですわ。
「その先輩も疑問だったみたいで、本人に聞いてみたんだとか。そしたら……」
「……そしたら?」
「シャチさん、自分は武道家でも無い。アサシンだ……って言ったそうです」
アサシン!?
「ビキニアーマーを着たアサシンなんて、あり得ますの!?」
「まあ、普通は無いでしょうね。シャチさん、かなり普通じゃなかったみたいっすから」
「まあ……聞くからに普通とは程遠いですわね」
「でしょ。で、先輩、ちゃんとビキニアーマー着てる理由も聞いたんですって」
……いよいよ核心ですわね。
「シャチさんが言うには、ビキニアーマーでわざと肌を露出する事で、全身で空気の流れを感じ取れるようにするんだとか」
「全身で……空気の流れを?」
「ええ。そうすれば暗闇でも普通に戦えるし、遠い距離からでも敵の存在が手に取るように分かるんだとか」
暗闇での戦闘……そして遠くからの対象把握……。
「つまりシャチさんという方は、アサシンの能力を最大限に活かす為に、ビキニアーマーを着ていたのですね」
「まあ、本人に言わせれば、趣味も兼ねていたらしいですよ」
趣味!? ビキニアーマーが趣味!?
「ま、まあ、人それぞれですしね……ちなみにですが、そのシャチさんという方、今はどちらに?」
「それがですねぇ、急にフラッといなくなっちまったんだそうで」
「……つまり、行方不明ですのね」
「はい、まあ。先輩の話だと相当気紛れな人だったらしいっすから、案外あちこちフラフラしてるんじゃないかって」
……会ってみたいような、会ってみたくないような……。
「分かりました、ありがとうございました」
「いえいえ、お安い御用で……それよりシスター、聞きやしたぜ」
はい?
「警備隊の不正追及の折、ビキニアーマーを着たそうっすね?」
え゛。
「な、何でご存知なんですの!?」
「まあ……こんな鮮烈な噂話、そうそう無いっすから。つーか、フリーダンで出陣する時は、無論ビキニアーマー」
「そんな筈無いでしょう!!!!」
明日から新章です。




