帰還の警備隊長様っ
ガラガラガラガラ
ヒヒーン
「……ふうっ」
セントリファリスまで、もう少しだな。
「隊長、そろそろ優勝旗を?」
「ん? ……ああ、そうだな。先頭に持たせろ。堂々と、誇らしくな」
「はっ!」
パカラッパカラッ……
ふ……ふふふふ。ここからは見えないが、俺の頭の中では風にはためく優勝旗が鮮明になっている。
「ふふふ、優勝だ、優勝だよ……これで聖女様であろうと、文句のつけようがあるまい」
来年も堂々と実技大会に参加できる。
「警備隊にとっては、最も栄誉あるこの大会は、やはりなくてはならない。剣術大会とは似て非なるものよ」
ただ単に個人の強さを競う剣術大会と、伝統ある実技大会とを同じレベルで語るべきでは無いのだ。
「これで強さ一辺倒の若い連中の鼻を明かす事ができる。もう警備隊内でデカい面をさせないぞ…………ふふふふ。ははははは。あーっはっはっはっはっ!」
「あらあ? あらあらあらぁ? 随分とご機嫌ですわねえええ?」
っ!?
「だ、誰だ!?」
「あらぁ~、誰だなんて、つれない御方ですわねぇ……あはは、あははははは、あははははははは!」
こ、この声は……まさか!?
バァン!
走行中ではあるが、馬車の扉を開く。
「あらあら、どちらを見ていらっしゃるのやら……ご無沙汰ですわね、警備隊長様?」
前の御者席から顔を覗かせたのは……や、やはり聖女様か。
「同じくご無沙汰と思われ」
もう一人顔を覗かせたのは、確か聖女様の警備を担当していた娘。
「な、何故聖女様が!?」
「用事があったからに決まってますわ」
「よ、用事? で、でしたら、もうすぐセントリファリスに着きますから、そこで」
「いいえぇ、セントリファリスの外じゃないと困りますわよ」
セントリファリスの外じゃないと困る? ど、どういう事だ?
「だってぇぇ、警備隊長様には『元警備隊長』の肩書きが付いて、牢獄に押し込められるんですものぉ」
っ!?
「ど、どういう意味ですか!?」
「公金横領は立派な罪ですわよ。隊長様?」
く……っ!
「た、確かににそういう過去はありますが、聖女様のお裁きで償いは済んだ筈です!」
「そうですわねぇ。確かに前までの悪行については、きちんと断罪しましたわねぇ」
「でしょう!? それを今更ほじくり返して、一体何をしようと……」
「……まあ確かに、過去の悪事を理由に、何度も断罪するのは気の毒ですわねぇ……」
……よし、バレてない。このまま論破できれば、どうにか逃れられるのではないか。
「過去の悪事は……ですが。現在進行形の悪事は別ですわよ?」
っ!!!?
「警備隊長様、わたくしを甘く見ていらっしゃるようですわね? 今回の実技出場に関しましても、様々な不正が明るみになってますわよ?」
「ふ、不正だと!?」
「はい。まずは日程。提出された報告書のものと実際の日程では、二日間も違いがありますわね?」
くぅ……!
「そ、それは……頑張った選手を労う為に、二日間の休暇を」
「あらああ? 隊長様には、そんな日程変更を独断で決められる裁量があるのかしらあああ?」
くっ……い、嫌な女だ。
「こ、これは、隊員を想うあまり、勇み足を踏んでしまったようですな。分かりました、今回の事はきちんと謝罪し、余分にかかった経費は返済を」
「ですわねぇ。一番はしゃいでいらっしゃったのは、隊長様らしいですし」
っ!!!?
「い、いやあ、私は管理監督者として、同行しただけでして」
「あらあらぁ? 同行者が労うべき隊員よりはしゃぐなんて、常識ではあり得ないですわよねえええ?」
ちぃぃ! どこまで知ってやがるんだ、この女は!?
「そ、それは振りですよ。あまりにも通夜みたいに静かだったものですから、私がおどけて盛り上げようとしただけであって」
「あら、あらあらあらぁ? 隊員さん達のお話ですと、貴方がはしゃぎ出してから、一気に白けたそうですわよ……ねえ、皆様?」
「「「はい」」」
な、なあっ!?
「出発前にわたくし、隊員の皆様に貴方の監視を依頼してましたの」
「な、何だと!?」
「隊長、我々は真剣に実技大会に打ち込んできました」
「その努力を汚すような真似ばかりする隊長を、ずっと皆毛嫌いしてきました」
「ですから今回の聖女様のお申し出は、我々にとっては渡りに船だったのです」
「ぐ……っ!」
俯く隊長様に、隊員の皆様がお声を掛けられます。
「隊長、最後くらいは潔く罪を認めて下さい」
「パワハラでセクハラでマタハラな最低隊長でしたが、一応、仮にも、我々の隊長だったお方です……最後くらいは潔く」
……酷い言われようですわね。
「さて隊長様、ロードの権限を以て貴方を解任・捕縛致します。申し開きはありますか?」
「…………証拠は」
はい?
「証拠はあるのか、と聞いている! 今回の件、確固たる証拠が無いのならば、お前らのでっち上げだぞ!」
あらあら、最後の悪あがきですわね。
「勿論、証拠はございますわ」
「っ!?」
「警備隊の帳簿を提出して頂き、その道のプロの方にしっかり目を通して頂きました」
ラブリさん、活き活きしてましたわよ。
「結果、あまりにもずさんすぎる誤魔化しの数々、全て露見してますわ……ああ、勿論貴方の字である事も確認済みですわよ」
……ガクリと膝を着いた隊長様は、今度こそ観念されたようです。




