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ラストスパートな撲殺魔っ

 いろいろありましたが、いよいよ実技大会に行っていた警備隊の皆様が帰っていらっしゃる日が近付いてきました。


「……長かったねえ、本当に」


 年に一回行われる実技大会。しかも行く方法が限られていますから、遠くの町が開催地になった場合は、出場すら危ぶまれます。

 そんな大会ですから、出場する以上は優秀な成績を残してきてほしい……そんな思いで引き受けた警備隊代行でしたが、思いのほか体力的に応えました……。


「今回のお手伝いで、しみじみと思い知らされました。警備隊の皆様は毎日多大な苦労をして、この町の平和を守ってくれていたのですね……」


 疲れの色が隠せないリブラとリジーも、苦笑いしながらも頷きます。治安維持の仕事がここまで大変だとは、わたくしも思いませんでしたわ。


「ふふ……さて、もう少しです。張り切って見回りましょう」

「「おーっ!」」


 正確な終わりは分かりませんが、もうすぐ戻ってくるのは間違いありません。つまりラストスパートなのですから、疲れ切った身体に鞭打ちつつ頑張りましょう。



 ……ちくしょう。

 ちくしょう。

 ……ちくしょう。


「スリや置き引きの連中も、あらかた捕まっちまいやした」

「頭ぁ、もうほとんど残っちゃいないですぜ」


 分かってる。このままじゃ、親の代から続いてるこの組織は、潰されるしかねえ。


「……ちくしょう。何でこうなっちまったんだ」


 聖地サルバドルのお膝元、セントリファリス。そんな土地柄である以上、違法行為には非常に厳しい目が向けられる。つまり、犯罪組織(うち)みたいなとこは一番居心地が悪い町だ。


「だが、だからこそ、この町で長年続けてこれた俺達には、それだけの自負ってものがある」


 聖地程では無いが、警備隊の取り締まりは厳しい。だが俺達はそんな監視の目を潜り抜け、今までやってきたんだ。


「……しかし……しかしだ。聖女自身が乗り出してきた事で、たった二週間足らずでこの様だっ」


 警備隊が手薄になった、という油断はあったものの、それでも捕まる人数は普段の三四倍以上。しかも普段なら軽いお叱りか罰金で釈放してもらえるのだが、未だに一人も戻ってこねえ。


「ちぃ。やっぱり聖女の……〝紅月〟に頭砕かれちまったのか……」


 聖女=紅月ってのは、俺達裏社会の人間には常識だ。だからこそ、聖女には手を出さないように気を使ってきたのだ。


「それが、向こうから出張ってきやがるとは……」


 ビキニアーマー姿で彷徨いてみたり、ペットの熊を放ってみたり。挙げ句の果てには、野良犬や野良猫を操ってたような痕跡も見つかってる。


「どうしやすか? 警備隊の連中が帰ってくるのも、あと数日だそうですぜ」


 この上、警備隊まで戻ってくるとなると…………潮時だな。


「おい、今回のシノギはここまでだ」


「えええっ!? まだほとんど稼げちゃいませんぜ!」


「いいんだよ。今は聖女の存在があるからな、下手な事はできねえ。確かにうちは大赤字だが、組織が潰れちまうよりはマシってもんよ」


 つーかよ、聖女が動いてるって情報を掴んだ時点で、手を引くべきだったんだ。変に欲出しちまったせいで、この様だ。


「とにかくだ、しばらくは全員大人しくしてな。嵐には挑むんじゃなく、通り過ぎるまで待つのが最良だったんだ」


「……っ……わ、分かりやした」


 若いのが駆け出していった後、俺はうなだれるしかなかった。はーあ、組織の立て直しを考えなきゃならない……頭痛いぜ。


「て、てえへんだああああ!」


 ……何て考えていると、更に頭痛の種が転がり込んで来やがった。


「何だ! 何かあったのか!?」


「な、殴り込みです!」


「はああっ!? どこの連中だ!」


「れ、連中じゃありやせん! 女です! 三人組の女が殴り込んで来やした!」


 三人組のって……まさか!?


「おい、それって」


「へ、へえ! 熊まで居やすから、間違い無く」


 ちぃぃ、聖女かよぉぉ!



「大元を絶ってしまえば、これ以上の犯罪は起きませんわ! 警備隊の皆様が戻ってくるまでの平穏の為、潰れて頂きますわよ!」


 白い法衣姿、血に濡れた赤いバット……もとい杖、そして何より、たまに陰る顔に浮かぶ三つの紅い月……!


「〝紅月〟だあ! 全員逃げろおおおお!」


 セントリファリスを根城にしてる悪党には、一つだけ共通して守っている不文律がある。それは「〝紅月〟に遭ったら即逃げろ」だ!


「逃がさないよ!」

「同じくと思われ」

 みゅううん!


 ちぃぃ! 〝紅月〟だけじゃなく、剣豪令嬢に呪われ姫、更に〝腕の王〟(アームキング)まで!


「く…………本当に潮時みたいだな」


 観念した俺は、武器を捨てて座り込んだ。


「おい、止めろ! 俺達の負けだ」

「か、頭!?」

「そんなぁ!」

「いいから止めろ。もう観念しな」


 俺の言葉を聞いた手下共が、次々に武器を捨てて投降していく。これでいい。生きていりゃあ、いつかはいい事もあるってもんよ。


「あら? あらあらあらぁ? もう終わりですのおおお?」


 生きてさえいりゃあ……。


「面白くありませんわ。ちぃぃっとも面白くありませんわ。足りません。全っ然、血が足りなくてよおおお!」


 ……生きてさえ、いりゃあ……よ。


「あはははは、天誅!」

 バガァ!

「ぎゃあ!」

「天罰!」

 ゴギャ!

「ぶべっ!?」

「滅殺! 抹殺! 必殺! 撲殺!」

 バガガガガガッ!

「あははははははは! 花火ですわ、真っ赤な真っ赤な花火ですわあ、あははははははは!」


 生きて…………いや、死んだ方がマシだあ、うわああああああ!

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