主想いの元獣王っ
警備隊のお手伝いを始めてから一週間、不思議なくらいに何も起きない日々が続いています。
「……ふぁぁ……」
「……聖女様、大丈夫ですか?」
はっ!?
「わ、わたくしでしたら、大丈夫ですわよ!?」
「目の下の隈が、日に日に濃くなってるね」
「これで三回目の欠伸よ」
「少しフラフラしておるようじゃな」
明るい間は普段の奉仕作業に勤しみ、暗くなってからは見回りの毎日。そう言われてみれば、この一週間ろくろく寝ていませんわね……。
「大丈夫…………とは言えませんわね、これは」
「いや、大丈夫な訳無いでしょ」
「え?」
「聖女様、気付いていらっしゃないのですね?」
「な、何がですの?」
「……はぁぁ……重症ですね、これは……」
「女性として、少々危ういとしか……」
「まあ、良い眺めじゃがの」
最後の色呆け発言はともかく、何が問題なんですの!?
「「「聖女様、下着を着け忘れてますよ」」」
え…………い、言われてみれば、胸を支えている筈の感触がありませんし、服の上から見える突起物が……!
「い、いやあああああああっ!!」
「……はぁぁ……」
「大丈夫? リファリス……ふぁ~……」
わたくしに毎晩付き合ってくれているリブラも、濃い隈が浮き出ています。
「二人共、完全にグロッキー状態。今日はもう休んだ方がいいと思われあふぁあ~……」
当然ながら、同じように付き合ってくれているリジーも、目がトロンとしています。
「い、いえ、警備隊の皆様が帰ってくるのは明後日、それまではわたくしが町の平和を守らなくては……!」
「リ、リファリスなら、そう言うと思ってたわ。だったら、弟子である私が、先にヘコたれる訳にはいかないよね」
「右に同じく。左に居るけど」
「ふ、二人共、自分の身体が第一でしてよ。む、無理をしてはいけませんわ」
「いやいや、それはリファリスも一緒だから」
「いやいや、それはリブラも一緒と思われ」
「いやいや、それはリジーも一緒ですわ」
「いやいや、それはリファリスも一緒だから」
「いやいや、それはリブラも一緒と思われ」
「いやいや、それはリジーも一緒ですわ」
「いやいや、それはリファリスも一緒だか……ら……」
「いやいや、それはリブラも一緒と思わ……れ……」
「いやいや、それはリジーも一緒です……わ……」
「……ぐー……」
「……くー……」
「……すー……」
「「「……はっ!?」」」
気が付いたら、周りはすっかり暗くなっていました。ま、不味いですわ!
「リブラ、リジー、起きて下さい! 見回りの時間ですわよ!」
「……ぐー……」
「……くー……」
ああああ全く起きる気配がありませんわっ!
「っ……し、仕方ありません、わたくし一人ででも……!」
みゅううん!
あ、ベアトリーチェ?
「ちょ、ちょうど良かったですわ、て、手を貸して下さいまし」
……フラッ
「……うぅ」
みゅううん!?
「だ、大丈夫ですわ、少し目眩がしただけですから」
みゅ、みゅ、みゅううん
「え、無理をしてはいけない? し、仕方ありませんわ。い、今は、無理をしてでも、やらなくてはならない事があるのですから」
みゅうん…………みゅみゅ!
「え、ベアトリーチェ? 仕方無いって一体」
ずびしっ!
「っ」
首筋に鈍い衝撃を感じると共に、わたくしの意識は暗転しました。
ご主人様、許して下さい。そこまでボロボロな状態なのを、見過ごす事はできません。
みゅううん……
だから……今日はベアトリーチェ一人で見回りします!
みゅんみゅんみゅん
とは言え、広大な見回り地域をベアトリーチェだけでカバーするのは不可能。だから、手下を全員召集するのです!
ウオオオオオオオオオオンン!!
この町で新たに手下になった者達を、緊急召集の遠吠えで呼び寄せます。
……アオオオオン……
それを聞いた部隊長の野良犬達が、遠吠え連絡網で更に緊急召集を呼び掛けます。
すると。
ワンワンワン!
ウニャアアア!
チュチュチュー!
町に住み着いている犬・猫・鼠達が駆けつけ。
バサバサバサッ
蝙蝠達があちこちから飛んできます。よし、これだけの手勢ならば、町全体をカバーできます!
みゅんみゅんみゅみゅううん!
部隊を十五に分け、それぞれの担当地域に振り分けます。
みゅううううん!
蝙蝠達には機動力を活かしてもらい、各部隊間の連絡調整を担当してもらいます。
みゅ、みゅみゅみゅみゅん!
部隊内でも、鼠は斥候として、猫と犬は戦闘員として分けます。
よし、編成終了!
ウオオオオオオオオオオオオンン!
よし、散れ! この町の平和を、ベアトリーチェ達が守るのだああ!
……チュン、チュン
……んん……。
チュン、チュン
んん……朝チュン……はっ!?
チュン、チュン
「あ、朝ですわああああああ!?」
ね、寝過ごしてしまいましたわ!
「リブラ、リジー、起きて下さいまし!」
「……んう……りふぁりすぅ?」
「むぅ…………よく寝たぁぁ」
「二人共、早く起きて下さいまし! 夜の見回り、完全に忘れて寝てしまいましたわ!」
「「…………へっ!?」」
夜の見回りは夜にしなければ意味が無いのですから、明るくなっていては手遅れ……!
「と、とにかく出発しますわ…………よ?」
「ぐ……ふ」「い、いてえ。いてえよう」「い、犬が……猫が……」「蝙蝠と鼠に見張られて……ひ、ひぃぃ」
……教会の外には、見るからに人相の悪い方々が山積みになっていました。
「……な、何があったんですの?」
「こいつら、指名手配中の強盗団よ」
「犬の歯形、猫の引っ掻き傷?」
犯罪者の山の上では、何故かベアトリーチェがグースカ寝ていました。
みゅううん……
みゅううん……




