「いえ、聖女様が引き受けて下さらない限り、頭を上げる事はできません」さんと撲殺魔っ
「ま、待って下さい。一体どういう事ですの?」
土下座したまま、警備隊長様が説明を始め……ですから。
「まずはお直り下さいっ。お願いしますから!」
周りの目、というものを考えて下さい!
「いえ、聖女様が引き受けて下さらない限り、頭を上げる事はできません」
「詳しく事情を窺わない限り、引き受けるも何もあったものじゃありませんわ! とにかく一旦お直り下さい!」
「いえ、聖女様が引き受けて下さらない限り、頭を上げる事はできません」
で・す・か・ら……!
「ちょっとちょっと。聖女様を困らせるような真似、いくら警備隊長さんでも許されないよ?」
事情を察してくれたリブラが仲裁に入ってくれます。
が。
「いえ、聖女様が引き受けて下さらない限り、頭を上げる事はできません」
「え……私が言った事、聞こえてる?」
「いえ、聖女様が引き受けて下さらない限り、頭を上げる事はできません」
「ちょっと、いい加減になさいよ」
「いえ、聖女様が引き受けて下さらない限り、頭を上げる事はできません」
「こ、こいつら、このまま粘るつもりか……!」
質が悪いですわね、このお二方。
「……何をしてんの?」
「あら、リジー」
現在停職中で暇なリジーが、壁を乗り越えて現れました。
「リジー、入口からいらっしゃいな。泥棒と間違われますわよ?」
「うむ。気を付ける……で、ナニコレ?」
「え、えっとですね、何と言えばいいのやら……」
「いえ、聖女様が引き受けて下さらない限り、頭を上げる事はできません」
「はあ? 私、聖女じゃ無いよ」
「いえ、聖女様が引き受けて下さらない限り、頭を上げる事はできません」
「……?」
リジーに詳しく説明します。
「ははあ、成る程。だから頭を上げられない、と」
「いえ、聖女様が引き受けて下さらない限り、頭を上げる事はできません」
「つまり無理矢理押し切っちゃおうって訳だ」
「いえ、聖女様が引き受けて下さらない限り、頭を上げる事はできません」
「そうなんです。どうしましょう……」
リジーがニカッと笑い。
「任せて」
と切り出しました。
「ねえねえ、警備隊長さん。本名、何だったっけ?」
「はあ? 急に何だよ」
「あ、リファリス、普通に受け答えできる」
「っ……いえ、聖女様が引き受けて下さらない限り、頭を上げる事はできません」
「で、警備隊長さんのお名前は?」
「いえ、聖女様が引き受けて下さらない限り、頭を上げる事はできません」
「え、名前が『いえ、聖女様が引き受けて下さらない限り、頭を上げる事はできません』さんなの?」
「ち、違う! そんな訳無い」
「あ、リファリス、会話できそう」
「く……いえ、聖女様が引き受けて下さらない限り、頭を上げる事はできません」
「あはは、やっぱり警備隊長さんの本名、その長ったらしいヤツだと思われ」
「いえ、聖女様が引き受けて下さらない限り、頭を上げる事はできません」
「それじゃリファリス、警備隊長さんの名前を改名しに町役場行ってくる」
「うぇ!? ま、待て!」
「あ、リファリス、チャンスチャンス」
「うぐ……」
「んじゃ行ってきま~す、オホホのホ」
「ま、待って! 待って下さああああい!」
「リ~ファ~リ~ス~、だーいチャンス!」
「く…………分かった! 分かりました! 頭を上げます! ちゃんと会話します!」
ふふ……リジーの勝ちですわね。
「では……いえ、聖女様が引き受けて下さらない限り、頭を上げる事はできませんさん、詳しい事情を教えて下さい」
「聖女様、それは勘弁して下さい!」
「うふふ、冗談ですわよ。それとわたくしは聖女では」
「あーはいはい、シスターとお呼びしますよ」
はい、大変宜しくてよ。
「で、どういう事なのです?」
「……ここだけの話にしてもらえますか? 身内の恥を晒す事になりますので……」
「無論、プライバシーは厳守致します」
「ありがとうございます……実は先程の話にも出ていましたが、実技大会の期間中、聖女様……シスターに警備隊の代行をお願いしたいのです」
「……どういう事ですの?」
「実は昨今、若い警備隊員達の間で、実技大会を毛嫌いする風潮がありまして」
「……そうなんですの?」
チラッとリブラを見ると、ウムウムと頷いていました。先程リブラが「もう参加しない」と言っていたのと、同じ理由みたいですわね。
「で、何故にそのような事態に?」
「これは……まあ……時代の流れなのでしょうね」
……?
「リファリス、実技大会ってのは、決まった演舞を如何にミスせずに最後までこなすか、が勝負の分かれ目なの」
するとリファリスが詳しく教えてくれました。
「で、個人技だったらまだいいんだけど、団体技ともなると、一糸乱れぬ演舞が要求されるの」
……成る程、読めてきましたわ。
「つまり実技大会に対する熱の入り方が、年代で差があるのですね」
「その通りです。我々の年代からしたら、実技大会で優秀な成績を残す事は名誉なのです」
「だけど最近は『実技大会は時代遅れ』『あんな演舞覚えたって、実際には役に立たない』『それくらいなら剣の腕を磨いた方がマシ』という意見が、若い連中から出てくる始末で……」
はい。
「ですが我々としましても、伝統ある実技大会に若い連中が出てほしいのです」
はいはい。
「で、何度か話し合いの場を持ったのですが……」
「決裂したのですね?」
……警備隊長様はため息を吐き……。
「……若い連中、大会期間中は警備隊の業務をボイコットする、とまで言い出しまして……」
…………成る程。
「いえ、聖女様が引き受けて下さらない限り、頭を上げる事はできません」さん、ようやく話し合いになりました。




