実技大会と撲殺魔っ
「助けて……助けて……!」
「何が助けて~、だよ。被害者面してウゼエなあ」
「ノルマ達成できなかったお前が悪いんだろ? あ?」
「言っといたよな。今月達成できなかったら、こうなるって」
「い、嫌だ……嫌だあ!」
ドンッ!
「お、おい、逃げるな!」
「待てこらぁ!」
「何考えてやがる!」
「助けて、助けてええええっ!!」
ゴスッ
「ぎゃあっ」
「な、店長!?」
「い、一体何が……」
じゃりっ
「え……あ、ああ、あんたは!?」
「ま、まさか、ひぃぃぃぃ!?」
ゴッ! ゴッ!
「「ぎゃあっ」」
ドサドサッ
「あははは、あはははははははははは! 助けて、という声に導かれて来てみれば、弱き者を追い立てる三つの悪が在り……ですわ。さあさあ、撲殺撲殺…………あははははははははは!」
「え、あ、あの」
「ほおら、いきますわよ! 天誅!」
バガッ!
「がはっ」
「天罰!」
ゴシャ!
「ぎゃひっ」
「滅殺! 抹殺! 撲殺!」
グシャグシャバシャア!
……ゴトッ
「「ひぁひぃぃぃぃ!?」」
「あははは、まだ二人居ますわね。まだまだ楽しめますわね、あははははははは!」
「い、嫌だあ! 死にたくないい!」
そう言って逃げ出そうとしますが。
「うふふ、駄ー目」
ガスッ ボキィ!
「がはあっ! あ、足が!?」
「はいはーい、もう逃げられませんわよ♪」
「ひ、ひぃぃぃぃ!!」
「では、本日二度目の……天誅!」
ギィィッ
「ただいま戻りましたわ」
「リファリス、遅かっ…………ま、またぁ?」
「はい。明日からの奉仕人員が補充できましたので」
「し、死にたくありませぇん……」
「も、もう嫌だあ……」
「何でもします、何でもしますから……」
譫言を呟きながらわたくしについて来た三人は、わたくし以外の人間……つまりリブラを見て、目を潤ませます。
「た、助けて下さいぃ!」
「殺人鬼です! この女、殺人鬼なんです!」
「早く警備隊を呼んで下さい!」
リブラに縋り付き、必死に訴えます……が。
「あら、警備隊は一週間程お休みですわよ?」
「「「……は?」」」
「ですから、今はわたくしが警備隊代行を務めてますのよ?」
「警備隊が休みって……」
「そ、そんな馬鹿な!?」
「事実ですわ。ですからロードであるわたくしが、自ら出張ってるのです」
「「「け、警備隊の方がマシじゃないっすか!?」」」
「さぁて、それよりも。奉仕に参加するか、また撲殺されたいか、どちらか好きな方を選んで下さいまし」
「……撲殺と奉仕って……」
「そりゃ勿論……」
「奉仕に決まってるじゃないっすか」
「ああ、そうですの。でしたら残念ですが、奉仕作業に精を出して頂きますわ」
「「「残念って……」」」
「ほらほら、ホウキとチリ取り持って。奉仕はみっちりあるんだから、早くしてよ」
「「「あ、はい……」」」
後は指導役のリブラの仕事ですわ。さて、わたくしも朝のお祈りを始めましょう。
「あれ、先輩!?」
「ん……な、何だ、お前らも捕まったのか?」
「って事は、俺達のチーム壊滅じゃねえかよ!」
「え、えええ!? リ、リーダーまで!?」
こうなった原因のは、二日前に遡ります。
「あら、では実技大会で優勝しましたの?」
「はい、お陰様で」
お昼過ぎの突然のお客様は、警備隊隊長と実技指導部の方でした。
「それはおめでとうございます。日頃の努力の賜物ですわね」
「そう聖女様に言って頂けるなら、皆も喜びます」
「全くです。実技大会にご理解頂けて嬉しい限りですな」
……ご理解?
「実技大会にご理解とは、どういう事ですの?」
「いやいや、最近の若い者は、こんな由緒ある大会なのに、出るのを拒むのですよ」
「出るのを拒む? 何故ですの?」
「聖女様もおかしいと思われますでしょ? いやいや、理解のある聖女様で助かります」
……?
「よし、今回はこれを前面に打ち出して」
「はい、いつも以上に練習を増やしましょう」
練習を、増やす?
「では聖女様、これにて」
「あ、はい、お疲れ様です。今日も聖なる心に祝福があらん事を」
お二方は再び深々と頭を下げられてから、教会を後にされました。
「……ふう、一体何だったのでしょうか」
「リファリス、奉仕済んだよ…………どしたの?」
ちょうど現れたリブラに聞いてみます。おそらく警備隊の事情にも詳しいでしょうから。
「はい、実は今の今まで警備隊長様がいらっしゃってまして」
「隊長が? 何で?」
「今年の実技大会で優勝なさったそうで、その挨拶に」
「へえ、実技大会で……って、まだやってたんだ」
「ええ、開催されてますわ……そう言えば、リブラは参加した事はありますの?」
「一度出て優勝して、それからは出てない」
「優勝したんですの。それは凄いではありませんか」
わたくしに誉められたリブラは、少し自虐的に。
「……あんなの、有っても無くても、ねえ……」
「……?」
様子がおかしいリブラに、どうしたのか聞いてみます。
「リブラ、どうかしまして?」
「別に、大した事じゃないんだけど…………ん?」
リブラが何かに反応し、立ち上がります。
「……リファリス、お客さんよ。多分だけど、さっき来てた隊長さん」
え?
「聖女様、どうか、どうかお願い致します!」
ドアを開けると、警備隊長様と指導部の方が土下座されて……ええっ!?
「い、一体何事ですの!?」
「どうか、どうか、しばらくの間、警備隊の業務を引き継いで頂けないでしょうか!!」
……はいぃ?
実技大会の実技とは?




