表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

161/428

聖女様の閑話

「……やはり、人間共の愚行は度し難いな」

「全くだ。我らの豊かな大地を、火と油で汚しおってからに」

「人間に存在価値など無い」

「人間など居ない方がいい」

「人間など、滅ぼしてしまえばいい」


「--皆の意見は出尽くしたようだな。聞く限りだと『煉獄の森』の活動方針に賛同頂けたと解釈するが……宜しいか?」

「賛同します」

「賛同する。人間は滅ぼすべし」

「人間は滅ぼすべし」

「滅ぼすべし」

「滅ぼすべし」



 ……ある深い森の奥で、この世界を支配していると言っても過言では無い、人間族に対する終末が話し合われていた。



「あの~……」

「「「……何だ?」」」


 が。


「わたくし、反対ですわ」

「「「……は?」」」


 ……停滞した。



「な、何故だ、リファリス!?」


「何故だ、と言われましても……不可能だからですわ、お父様」

「待て、ここでは代表と呼べ」

「……どちらでも良いのでは?」

「公私はしっかりと分けるべきだ」

「…………まあいいですわ。どちらにしても、反対」


 再びわたくしの言葉を聞き、表情を歪めます。


「な、何故だ! 父の決めた事に異を唱えるなんて、そんな娘に育てた覚えは無い!」


 公私はしっかりと分けるべきだと言ったのは、どの口ですの!?


「お父様、皆様、冷静になって考えて下さい。わたくし達は全員で何人ですの?」


「え、私達って、煉獄の森の構成員か?」

「ここにいる三十人だな」


「ですわね。で、人間族はどれだけ居るでしょうか?」


「人間族か? 確か三億人を越えたくらいか」


「そうです。たった三十人で三億人を殺害するまで、どれだけ年月がかかるでしょうか?」


「「「…………あ」」」


 図星だったらしく、全員が固まります。


「い、いや、待て! 為せば成る、為さねば成らぬ、何事も、だ! 全員が力を合わせ、着実に実行していけば」

「三億人居るんですのよ? 一日何人の子供が産まれると思ってますの?」


 三十人で殺人に精を出したところで、産まれる数を越えるのは不可能ですわ。


「だ、だが、毎日毎日積み重ねていけば」

「人間側が無抵抗でいると思いますの? 逃亡・抵抗されれば、殺せる人数はますます落ちますわ」


 人間にだって強者は当然存在します。返り討ちに遭う可能性も計算しておかねばならないんですのよ?


「な、ならば大規模魔術でドカーンと」

「魔力使い切ったところを囲まれて血祭り、が関の山ですわね」


 数の暴力には勝てませんわよ。


「な、ならば、どうしろと言うのだ!?」

「人一人殺すより木を一本植える方が、余程建設的ですわよ」


「……確かになあ」

「別に人間が嫌いって訳じゃないし」

「やっぱり殺人は気が引けるしなぁ」

「木を植えるのは得意だぜ」

「まあ、ハイエルフだしなあ」


「な、な、な……」


「代表、悪いけどやっぱ止めとくわ」

「うん、俺も抜けさせてもらう」

「私も止めとくわ~。殺人鬼になって婚期逃したくないし」


「な、おい、待てよ、おい」


 次々に構成員の証である「赤月の仮面」を返却し、会場を後にしていきます。

 そして、残ったのは。


「…………愚息よ、これは一体どういう事だ?」


 ……代表のお父様、補佐役のお爺様、そして娘のリファリス、つまりわたくしでした。



「何て事をしてくれたんだああああああああ!」

「最初からわたくしは反対してましたわ!」


 思う存分撲殺できる、という甘い誘いに乗ったわたくしが馬鹿でしたわ!


「…………愚息よ、我も協力はできぬ」


 お爺様の言葉に、お父様は更に顔色が悪くなりました。


「お前の計画がそこまで雑だとは思わなかった……信用した我が馬鹿だった」

「な、なぁ!?」


 そんなお父様から目を離すと、お爺様はわたくしを真っ直ぐ見つめてきました。


「リファリス、お前はどうするつもりだ?」


「どうもしませんわ。森を出て、聖心教に入信致します」


「お、お前、まだあんな新興宗教に現を抜かしているのか!?」


「お父様には関係ありませんわ。この件に関しましては、既に決着してますわよ?」

「ぐ、ぐぬぬ……」


 先日の賭けではわたくしが勝利し、森を出る許可は頂いてます。


「ふむ……ならば我も入信してみるか」


「「…………は?」」


「我も聖心教とやらに興味がある。若い姿であれば、とやかく言われる事もあるまい」

「ま、まあ、お爺様がそう仰るのでしたら」


 お爺様、わたくしが心配なのでしょうか?


「な、ならん! リファリスだけでは無く、父上まで出奔するとは! 煉獄の森代表として、認められませぬ!」


 代表として認めない…………あああ、お父様、言ってはならない事を……。


「代表として認めぬならば、リファリスの時と同じように勝負すれば良いか?」

「え?」

「時間が無い。早速始めるとしよう」

「え、いや、その」

「構えろ。でなければ、死ぬぞ」



 五回分は死んだお父様を適度に生き返らせ、わたくしとお爺様は森を後にしました。


「まさかお爺様まで入信なさるとは……」


「それだが、リファリスよ。我は今日から姿も名も変える」


 はい?


「ここでお別れだ。縁があったらまた会おう」


「え、お爺様!?」



 これが永きに渡る、お爺様とのお別れでした。



 それから長い時を経て、聖女と呼ばれるようになったわたくしが、ルドルフ・フォン・ブルクハルト大司教猊下と対面し、腰を抜かしそうになる程に驚かされたのは……また別のお話です。

明日から新章です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=529740026&size=200 ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ