お父様と撲殺魔っ
「……解散して……どうするんですか?」
「ん、ああ………………な、何と!?」
「え?」
お父様は質問してきたリブラを見るなり、目を輝かせて近付き……まさか!?
ギュッ
「えっ!?」
手を握られ、顔を赤らめるリブラ。あら、意外と奥手ですわね。
「な、な、な……」
「貴女のような名花を見過ごしていたとは、我の一生の不覚」
「め、名花って……」
「その麗しい瞳、つぶらな唇、芸術品のような顔立ち」
「えっ、えっ」
「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花とは言うが、貴女の場合は立てば世界樹、座ればユグドシラル、歩く姿はマンドラゴラとなろうか」
「…………誉めてないよね、それ。最後は特に」
「何を言うか! マンドラゴラの括れ、曲線こそ女性美の真骨頂を表していると言って過言では無い」
「く、括れ、曲線……」
「ああ……貴女のような女性こそ、我が伴侶に相応しい。初めて目にした瞬間より、恋に落ちました。どうか、我と……」
「え、そんな、私にはリファ」
「我と未来へ繋がる架け橋をばぶぐぅ!?」
「え!?」
頭を凹ませたお父様が、鼻血を大量に流して倒れ込みます。
「まともに相手にしてはいけませんわよ、リブラ。お父様は人間の敵ですが、特に女性にとっては大敵ですわ」
「女性にとってはって……」
「わたくしの腹違いの兄弟姉妹で、一つの町ができますわよ」
「ええええっ!?」
「気に入った相手が見つかりますと、自らの魅力だけでは無く、魔術や薬品・挙げ句の果てには権力まで用いてでも手に入れようと躍起になりますの」
「うっわ最悪じゃん」
「特に、特に貴女みたいなウブな方は大好物ですの。下着の紐はきつく締めて下さいね」
「は、はい……」
「う、うぶああ……我、復活!」
「うひゃあぃ!?」
あら、お父様ったら自己治癒力で復活できますのね。
「リ、リファリス、実の親を殴るとは何事だ!?」
「リブラはわたくしの大切な弟子ですの。お父様の毒牙には掛からせませんわ」
「お前の……弟子。ふん、弟子か」
お父様はわたくしをジーッと見て、その後にリブラをジーッと見つめ。
「…………ふん、そういう事か」
何かを納得したように離れていきました。
「え、え? な、何なの?」
「お父様はわたくしに関わりがある者には、まず間違い無く手出ししませんの」
「え、リファリスに関わりって、え?」
あまり深く考えないで下さいまし。
「ふむ…………むううっ!?」
今度はリジーに目を付けたようです。
「リファリス、あの娘は……」
「わたくしとの関わりはまだ、ですわ」
お父様はニヤリと笑い。
「ふふ……『魅了』」
早速魔術を発動し、リジーに近付いていきます。
「リ、リジーは不味いんじゃないの?」
「まあ……そうですわね。明らかに男性は苦手なようですし」
「な、なら、助けないと!」
「心配要りませんわよ」
だって、リジーですもの。
「あああ、何という名花だ」
「…………私?」
「そうだ、貴女だ。ああ、我が心はもはや虜となってしまったようだ」
「…………はあ」
「気高き黒薔薇が如きその肌、我に甘美なる時を抱かせてくれよう」
「…………へえ」
リジーはわたくしに身体を向け、何かを振り下ろす仕草をしました。無論、了承の返事をします。
「あああ、我は貴女と共にある。これから続く永劫なる道を、一緒に歩いて」
「『呪われ斬』」
「ぎぃゃああああああああああっ!?」
お父様が左右に分かれて崩れ落ち…………ああ、これは流石に不味いですわ。
「『彷徨いし魂よ、肉体に戻れ』
パアアア……
「……うぐっ、がふ! い、痛い…………な、何だ、この状態は!?」
身体半分だけ復活しました。
「あら、おかしいですわね」
「な、何故半分だけ復活したのだ!?」
「そんな筈は……」
それを見ていたリジーがニヤニヤ笑っています。
「……リジー、何かしましたわね」
「うふふ、回復を阻害する呪いであーる」
「……どのくらい?」
「半分阻害」
成る程、だから半分だけ復活したのですね。
「な、何をするかぁ!」
「五月蝿い。狐々と連呼するクソジジイなんて、半分だけで充分と思われ」
確かに、戦いの際に狐々と連呼してましたわね。
「大体男に抱かれる趣味はナッシング。さっさと土に還れ」
「男と交われないと言うか!? 自然の摂理から外れて何が楽しいのだ!?」
「人の道から外れた輩に言われたくない」
「私は人では無い! ハイエルフだ!」
「はいはいはいはいハイエルフ」
「き、貴様、馬鹿にしているのか!?」
「馬鹿にして虚仮にして見下してる」
「うっがあああああっ!」
あー、お父様、そんなに怒ると……。
ピューッ
「う、出血が多量過ぎて……がくっ」
ほら、また死んでしまいましたわ。
「……う……」
「……何をしているのだ、お前は」
「う……だ、誰だ」
「我か? ルドルフ・フォン・ブルクハルト大司教であるが」
「ふん、大司教か…………いや、待て。ルドルフだと?」
「気付いたか、愚息が」
「な、ま、まさか、お、おま、いや、貴方は」
「聖女よ、この者は我が預かろう」
「よろしくお願い致しますわ、大司教猊下」
「うむ。とりあえず聖心教の全てを叩き込み、司教レベルにまではしてやる」
「う、うわあ、うわあああああああ!」
本当によろしくお願い致しますわね、元「煉獄の森」総帥、ルドルフお爺様。
明日は閑話です。お爺様と戯れます。




