賭けに勝った撲殺魔っ
「納得がいかん!」
事件の後始末をしている間、何度も何度もお父様が叫んできます。
「…………リファリス、あれ、五月蝿い」
手伝ってくれているリジーが、鬱陶しげにわたくしに訴えてきます。
「そこの狐、鬱陶しいとは何たる口の利き方だ!?」
「狐々五月蝿い、私にはリジーという名前がある」
「知るか! 狐は狐で充分ではないか!」
「……鬱陶しい。リファリス、黙られていい?」
「黙らせる? 誰が誰をだ? 面白い、やってみるが良い!」
「では遠慮無く……≪呪われ斬≫」
ギィン!
「ぬっ」
「ふはははは! そんな腑抜けた一撃、爪の先だけで受け止められるわ!」
あらあら、身体の一部で受け止めてしまったのですわね、呪われ斬を。
「貴様はもう、呪われている」
「何ぃ?」
……アアアァァァ
オ゛オ゛オ゛オ゛……
「な、何だ、これは。怨霊共が集まってきて……」
オ゛オ゛オ゛オ゛ン!
アアアアアアアアア!
「くっ、殺るつもりならば掛かって来い! 返り討ちにしてくれる!」
オ゛オ゛オ゛オ゛ン!
アアアアアアアアア!
「ほぅれ、どうした! 掛かって来るがよい!」
オ゛オ゛オ゛オ゛ン!
アアアアアアアアア!
「……リジー、何故あの怨霊達は叫んでいるだけで、一定距離から近付かないんですの?」
「あれは『一定距離から怨嗟の声』という呪い」
「……随分と分かり易い名前の呪いですのね……つまり、そういう嫌がらせ的な?」
「それもあるけど、徐々に徐々に魂が削られて逝く」
あ、そういう呪いですの。
「でしたら直に静かになりますわね」
「うむ、そう思われ」
「…………って、ちょい待ち!」
「……? 何ですの、リブラ」
「リファリス、実の父親が死にそうになってるって事だよ!? い、いいの?」
「構いませんわ。死んだ方が静かになって良いんじゃありません?」
「うむ、死人に口無しとも言うし」
「待って待って! 死人に口無しって、親に向かって言う言葉じゃ無いでしょ!?」
「と言うより、人に向かって言っていい言葉ではありませんわ」
「確かに……って、納得してる場合じゃない! リファリス、実際にやってるじゃない!」
「問題ありませんわ。わたくしのお父様は大罪人で、百回死刑になっても足りないくらいですもの」
「そういう問題なの!?」
「大体呪い殺されたって、生き返らせれば何の問題もありませんわ」
「…………リファリスだから言える事だよね」
オ゛オ゛オ゛オ゛ン!
アアアアアアアアア!
「ぐぬぬぬ……ち、力が抜けていく……」
だんだんと呪いが効いてきたみたいですわね。
「さあさあ、お父様、どうぞお亡くなりになって下さいまし」
「くぅあああ! こ、この私が死ぬだとぉ……あ、あり得ん!」
「ちょっとリファリス!? お亡くなりになって下さいって、いくら何でも」
「構わないのです。これはわたくしとお父様の問題なのですから」
「いやいや、構うって! リファリスが聖心教の七大罪の一つを犯しちゃうんだよ!? そうなったら、もうリファリスは……」
「問題ありませんわ。死んだとしても、生き返らせれば無問題です!」
「聖女様自ら聖心教の教義を否定しないでくれる!?」
「ぐあああ……の、呪いが我が身を蝕んで……ぐぬぬぬ……」
「さあさあ、死になさい死になさい!」
「もう聖女の面影0だよ!」
「毎回聖女である事を否定してますから無問題ですわ!」
「うわ駄目だああああああああ!」
リブラが絶望の悲鳴を上げたところで、ついに呪いがお父様の魔力中枢にまで到達し。
「ぐっふぁっ!? ま、魔力が……」
あら? あらあらあら、あらああああああ?
「お父様の魔力、ついに消え始めましたわねぇ……」
「お、おぐふぉ!?」
強靭な守りとなっていた、お父様の魔力結界も霧散していきます……今ですわ!
「聖女の杖よ、我が手に!」
……ィィィイイイン、パシッ
「え、杖が飛んできた!?」
「いきますわよ! 天誅!」
ブゥン! バガァ!
「あがぁ!?」
「天罰!」
ブゥン! メキャ!
「ぎゃひぃ!?」
「滅殺! 抹殺! 撲殺!」
グチャビシャバシャア!
……ゴトッ
「……勝った。勝ちましたわ」
血に濡れた聖女の杖を振り上げ、お父様の死体に再び振り下ろします。
「あはは、あはははは、あはははははははは! ついに! ついにお父様を撲殺しましたわ! わたくしの勝ちですわ! あはははははははははははは!」
後から聞いたのですが、勝利に酔うわたくしを見て、全員ドン引きだったそうです……。
「……つ、つまり、三百年以上に渡る因縁の勝負だった、と?」
「そうですわ」
お父様を生き返らせてから、わたくしは全てを語りました。
「元々わたくしはお父様の理想とは相反する立ち位置でした。ですから、何度も説得して止めさせようとしていたのです」
「……私としても自らの理想をそうそう曲げる訳にはいかなかった。だから、ある賭けをしたのだ」
「まさか……それが今回の?」
「ええ。千年内にわたくしがお父様を撲殺するか……」
「私が逃げ切るか、というものだ」
「お父様は結界魔術の使い手ですから、わたくしの攻撃はほぼ通じませんの。ですから、今回は本当に好機でしたわ」
「……まさか呪いを用いて、魔力中枢を攻撃されるとは……」
「……父親の生死を賭けの対象にするなんて……」
「理解不能と思われ……」
「ではお父様、わたくしの勝ちですから……」
「分かっている。約束通り、煉獄の森は解散だ」
「あ、あっさり主義主張を変えちゃった……」
「……ハイエルフ、よく分からない……」




