ビキニアーマーの撲殺魔っ!
「…………」
つい、勢いで着るとは言ってしまいましたが……。
「……海での説法会で着た水着よりは……マシですわよね」
ヒラヒラの布ではなく、何かの皮を何重にも重ねた頑丈な作り。細くなっている箇所は金属で補強してあり、やはり戦闘時に使われる物なのだと納得できるだけの、頑丈な作りとなっています。
「つまり、しっかりとガードしてくれるのですね。外れてポロリ……という事はありませんわよね」
水着の時のそれで、少し恐怖を覚えます。
「しかし、偽者の尻尾を掴むには、敢えてこちらから勝負に出なくては……」
……もう……時間もありませんわね。
「ええいっ! 女は度胸ですわ!」
覚悟を決めて、法衣に手を掛けました。
「……聖女様ー?」
「もうそろそろ時間ですよー?」
「あ、はい。分かってますわ」
もう見回りの時間なのですね……はぁあぁあぁあぁ。
「あの……本当にこれ以外に鎧はありませんのね?」
「聖女様の体型に合う鎧は、やはりそれしかありませんなぁ」
……やはり、ですか……。
「分かりましたわ……でしたら、行きます」
「「「……ゴクリ」」」
何故か唾を飲み込む音がハミングして聞こえましたが、スルーします。
ガチャ……ギィィ
「「「お……うおおおおおおおおっ!!」」」
「開かれた扉の先にはぁぁぁ……何と、女神か? 女神なのか? 我らが麗しき聖女様が、今回は戦乙女様となって登場だぁぁぁ! メリハリのあるボディを包むのは、戦乙女様の髪先と同じ、赤い鞣し革で作られたビキニアーマー! それが驚異的なまでに括れたラインを更に際立たせている! そして! 何より! 男を骨抜きにする、更に驚異的な胸囲…………男の夢、男の理想郷、アヴァロン、ティル・ナ・ノーグ…………すなわち双丘、つまりおっぱぶごわぶっ!?」
「……撲殺しますわよ?」
「う、うぶぅ……撲殺の瞬間に、揺れたおっぱいが、最、高……がくっ」
まったく……警備兵の中にも、チャランポランさんはいらっしゃるのですね。
「それにしても……恥ずかしいですわ」
「いや、リファリス、それありだわ」
「ううむ……同性から見ても、似合っているとしか言えない」
「……ありがとうございます……と言うべきなのでしょうか」
「あー、それはそうと聖女様、武器はどうするんだい?」
「武器ですか? それならば聖女の杖」
「「駄目だよ」」
「え……ああっ!?」
リブラとリジーに杖を取り上げられてしまいました。
「か、返して下さいな!」
「駄ー目」
「これ持って歩いてたら、リファリスだってバレバレ」
うっ! た、確かに……。
「だったら聖女様、剣で良ければ」
「お断りします」
「あ、いや、あの杖を振り回せるんなら、剣くらい」
「お断りします」
「な、なら、短剣って手も」
「お断りします。刃物は一切持たないと決めていますので」
「……言われてみれば、リファリスって包丁も使わないよね」
「え? だったら料理の時はどうしてたの?」
「……千切るか、手刀だった」
「千切るはともかく、手刀!?」
「な、何か理由があるみたいだな……だったら杖と似たような打撃武器がいいのか?」
「打撃武器! やっぱりバッカアアアンと叩き割りたいですわ!」
……あら? 警備隊の方々がわたくしから離れたような?
「そ、そうかい。だったらメイスなんてどうだい?」
渡された金属製の槌は、とても手にしっくりきました。
「これをお借りします」
「あ、ああ……つーかよ、ビキニアーマーでメイス振り回すって……完全にネタだよな」
「だな。メイスは普通は大男が持ってるイメージだし」
……ネタ呼ばわりされましたわ。
ガッチャガッチャ
鎧が擦れ合う音に囲まれて、街の中を闊歩します。
「……ふう、暑いですわね。ある意味ビキニアーマーで正解だったでしょうか」
「……でしょうね」
「ふう、ふう、あ、暑い」
「ふう、ふう、む、蒸れる」
それは、まあ……全身を金属で覆っているのですから、蒸し暑いのは当たり前ですわね。
「大体見回りに鎧を着用するのは、あまり効率良いとは言えないのではありませんの?」
「そ、それは……」
「決まりですから」
「規則ですから」
「慣習ですから」
「……つまり、普段から鎧姿で見回りしている、と?」
「その通りです」
「オフコースです」
「自然の摂理です」
……怪しいですわね。
「あー、びきにあーまーだぁ!」
「ろしゅつきょーだ、ろしゅつきょーだ!」
「これ! 指差してはいけません!」
……聞いてみましょう。
「あら~、ボク達ぃ、ビキニアーマー珍しい?」
「うん、めずらしいよ!」
「ろしゅつきょー、ろしゅつきょー!」
「こ、これ! すいません……」
気にしてませんわよ。これが大人の男性でしたら撲殺してますが。
「ボク達ぃ、だったらさぁ、あの人達の鎧は珍しい?」
「うん、めずらしいよ! ていうか、はじめてみた!」
……初めて……ですか。
「「「…………」」」
……成る程ぉぉぉ。
「……皆さん、お昼も見回りされますね?」
「「「……は、はい」」」
「でしたら、お昼の見回りも、鎧姿で構いませんわね?」
「ええっ!?」
「あ、暑くて死んじまうよ!」
「干からびちまう!」
バガァァン!
地面に突き立ったメイスを引き抜き、ニッコリと一言。
「わたくしも鎧で見回りしますから、皆さんも鎧姿でお願いしますね?」
「「「……は、はい……」」」
次の日から、熱中症で倒れる隊員さんが続出しましたが、自業自得ですね。
ビキニアーマーの夏、日本の夏。




