夜回りする撲殺魔っ
それから一週間、リブラはリジーと共にあちこち調べ回ってくれているようですが。
「ごめん、有力情報が無い」
「全く役に立ててないと思われ」
赤月の行方は一向に知れませんでした。
「用心深いようですわね……」
そう呟いたわたくしを。
「「いや、それは無い」」
え?
「正直言うと、赤月らしき情報はゴロゴロ出てくる」
「ゴロゴロ出てくるのに、掴めないのはどういう事ですの?」
「「誰かさんの存在感が圧倒的すぎて、その情報で潰される」」
……誰かさんって……。
「紅月……ですの?」
「「他に誰も居ない」」
た、確かに。偽者より本物の方が存在感があるのは自明の理。
「ま、まさかわたくしの今までの善行が仇になってくるなんて……」
「「……善行?」」
善行ですわよ、失敬な。
「夜な夜な現れていた婦女暴行犯を撲殺したのは、間違い無く善行ですわ」
「「その側で犯行を目撃していた被害者は、それがトラウマでシスター恐怖症になってた」」
「っ……あ、あれは。月曜日の夜にのみ出没していた、連続通り魔を成敗」
「「月曜日の夜だけじゃなく、一週間通して現れてた撲殺魔の方がとっても有名」」
「うう…………で、でしたら、セントリファリス銀行立てこもり事件で、犯人を撲殺したのは」
「「説得中に撲殺しちゃったから、警備隊と人質がトラウマになった」」
うううっ!
「同じような情報が溢れに溢れまくってるから、似たり寄ったりな赤月の情報は簡単に埋もれる」
く……な、ならば!
「わたくし自身が出張るしかありませんわね!」
「「いやいや、もっっとややこしくなるだけだから」」
無論、わたくしが紅月だと分かるような状態でウロウロしたりしません。
「わたくし自身が餌となって、赤月を誘き寄せれは良いのです」
「…………リファリス自身が……餌ぁ?」
「……ん、待って。だったら……」
リブラはわたくしを上から下までチェックした後、ある提案をしてきました。
「……成る程。それでしたら、わたくしが混じっていても不思議じゃありませんわね」
「だったら今すぐ行くべし。そろそろ夜回りの準備を始めてる筈だし……ていうか、私から話してあげる。知り合いも居るから大丈夫。さあさあ行こう、さあ行こう」
……少しリブラの様子がおかしいのが気になりましたが、深く考えない事にしました。
「……という訳で、リファリスを警備隊に混ぜてほしいんだけど」
「「「是非とも!」」」
リブラが説得する間も無く、わたくしの一時入隊はあっさり決まりました。
「聖女様でしたら大歓迎です」
「いやあ、これでムサい男所帯に花一輪添えられたな」
「いや、一輪どころじゃないぞ。一個大隊に匹敵する」
「……女に飢えてると思われ……」
「あー、警備隊の皆様、もしもリファリスに手ぇ出したりしたら」
「「「いやいや、見てるだけで充分です。まだ死にたくないし」」」
手を出されたくはありませんが……警備隊にまで恐れられているのはちょっと……。
「と言うより、聖女様に手を出すような不届き者なんて、居るんですかね?」
サッ サッ
わたくしの視線を、リブラが逸らしました。
「……? どうかした?」
「何でもありませんわ。ねえ、リブラ?」
「あ、はい、何でもありません、何でもありません……」
「……?」
こほん。それより。
「流石にわたくしだと分かる姿で同行する訳には参りません。なので、女性用の鎧を貸して頂けませんでしょうか」
「お安い御用です! ささっ、こちらへどうぞ」
「……リブラ、確か同じような事を言ってなかった? 自分が警備隊に混じるっていうの」
「う、うん、まあ……だけど……無かったのよ」
「無かったって、何が?」
「女性用の鎧で、私の体型に合うのが」
「あー……鎧ってサイズ調整できないから……って、だったら尚更リファリスに合うのって無いんじゃ?」
「…………あるよ。私には無理だったけど」
「無理って?」
「……色んな意味で」
「……小さいですわね」
「そうですか……そうなりますと」
法衣の上から合わせても、明らかにサイズが小さいものばかり。
「女性の警備兵は小柄な者ばかりでしてな。大きめの鎧は少ないのです」
「そうなのですか……」
弱りましたね。制服だけならば、まだ何とかなりますが……。
「…………あ、思い出した。一着だけ、聖女様でも装備できそうなのが」
「本当ですか!?」
「え、そんなのあったっけ?」
「ほら、あれだよ。前の前の隊長が、趣味丸出しで採用した……」
「……ああ、あれか。誰一人として使わなかった……」
「……誰一人として使わなかった鎧を、わたくしに勧めるつもりですの……?」
「……と言うか……それ以外に聖女様が着られそうな鎧は無いのですが……」
「何故その鎧ならば、わたくしでも着られると言い切れますの?」
「それはですね……サイズ調整できるからです」
……サイズ調整できる鎧、ですの?
「ああ~、確かにこれなら」
「サイズ調整できるわな」
「な、な、何なんですの、これ!?」
「いわゆるビキニアーマーという物です」
こ、こんな破廉恥な……ほぼ裸じゃありませんか!
「聖女様の場合は、どうしても胸囲がネックになってますので。これでしたら、それも調整可能です」
「い、いくら調整可能でも、そんなの着れませんわ!」
「「「ですよね~」」」
「あ、でもさ」
「……何ですの?」
「やっぱり鎧着てない人を、夜回りに連れて行くのは……なあ」
「そ、そうですな。これは規定ですからなあ」
「ビキニアーマーであろうと、鎧は鎧ですからなあ」
「そ、それは、わたくしにビキニアーマーを着ろと言いたいんですの!?」
「滅相も無い。ただ、夜回り組の鎧着用は義務だと言っているだけで」
く……!
「わ、分かりましたわ! 着ます! 着ますわよ!」
「成る程、確かにビキニアーマーは……」
「色んな意味で無理があるから……まあ、リファリスくらいスタイル良ければ、あるいは……」
日本の夏、ビキニアーマーの夏。




