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聖女様の閑話

「…………!!!?」


 目覚めたわたくしの隣には、ウンウンうなされているリブラが寝ていました。

 しかも、素っ裸です。


「…………」


 当然のように、わたくしも素っ裸です。


「…………ま、まさか」


 どうやら、わたくし、ヤってしまったようです……。



 何はともあれ、まずはリブラ本人に確認しなくてはいけません。


「……い、いや、それより、まずは身体を流して……」


 沐浴場へ行こうと、着替えを…………あら?


「着替えが……ありませんわね」


 いつもなら畳んで置いておくのですが……。


 カサッ


「あら……?」


 代わりにあったのは……布切れ。


「……こ、この肌触り……まさか」


 布切れを集めていくと、わたくしが考えていた物と合致します。


「やはり……これは法衣の切れ端ですわね」


 法衣がビリビリになっている……という事は、それに見合う何かが起きたのでしょう。

 つまり。


「……わたくし……本当にヤってしまったのですわね……」


 下着も破かれている状態でしたから、おそらく……間違い無いでしょう。


「…………責任は……取らなくてはいけませんわね」


 そう呟いてから、その意志を伝えようと、寝ているリブラを起こそうとしたのですが。



「……ごめんくださーい……」



 玄関から、誰かが叫んで……ああ!?


「お、お客様ですわ!」


 いそいで新しい法衣を引っ張り出し、玄関へと急いだのでした。



「朝からドタバタと申し訳ありません……」

「いえいえ、こんな早くに訪ねてきた私も悪いのよ」


 お客様は、最近子ども園で忙しくしていて、すっかりご無沙汰していた孤児院の院長先生でした。


「色々と大変だったと聞きましたので、ちょっと覗いてみただけなんです」


「ご心配頂いてありがとうございます………………はい、やらかしてしまいましたわ」


 開園前には、院長先生にも色々とアドバイスを頂いてましたのに……期待を裏切ってしまいましたわ。


「あらあら、いつも自信に満ち溢れていた聖女様とは思えませんね」


 聖女様……ですか。


「わたくし……聖女等と讃えられるような、清らかな女ではございませんわ」


「何を仰います。聖女であろうと、生きている者です。失敗しない筈がありません」


「ですが……わたくしは……皆さんのご期待に……」


「……聖女様。子供は、とても難しいのですよ」


「分かっています……分かってはいるのです。何度も孤児院にお邪魔させて頂いてますから、よーく分かっているのです」


 そう答えたわたくしに、院長先生は少し厳しい目を向けられました。


「いえ、聖女様はちっとも分かっていらっしゃいません」


「……何が……何が違うと言うのですか? 孤児院であろうと子ども園であろうと、子供と接する事に変わりはありませんわ! わたくしはどちら側にも分け隔て無く接しようと努力しましたわ! ですが、結果は……!」


「聖女様。そこが間違っているのです」


 ………………え?


「まず第一に、孤児院に住む子達と子ども園に通う子達。決定的な違いは何でしょうか?」


 決定的な違い…………あ。


「……生活環境……ですわね」


「はい、その通りです。両親の顔も知らず、私達が親代わりとなって育つ孤児院の子達。両親が健在で、数時間だけお預かりする子ども園に通う子達。同じ子供でも、環境はまるで違います」


 わ……わたくし……確かに、孤児院の子達と同じように接していましたわ……。



『えんちょーせんせー、わたしできなーい』

『周りの子に助けてもらいなさい。それも経験ですわよ』


『えんちょーせんせー、できないよー』

『弱音を吐くには早すぎますわ。お友達と力を合わせなさい』


『申し訳ありません、聖女様。うちの娘、もう行きたくないと駄々を捏ねまして』

『…………いえ、仕方ありませんわ。力及ばず申し訳ありません』



 わたくし……わたくし……。


「孤児院の子達は、自然と周りと助け合って生活するようになります。それと比べれば、ご両親に育てられている子達ができない事が多いのは、仕方が無い事なのです」


 ……わたくし……子供達の事を……何も分かってなかったのですね……。



 院長先生に諭され、わたくしの中の何かが剥がれ落ちました。


「院長先生、ありがとうございました。わたくし、一から勉強し直しますわ」


「いえいえ、これも主の試練なのですよ」


「本当に、その通りですわね…………院長先生、その、また……」

「いつでも来て下さい。子供達も首を長くして待っていますから」

「…………はい!」



「自惚れてましたわね、わたくし……」


「……おはよう」


 ビクッ


「あ、リブラ……」


 わ、忘れてましたわ。わたくしが向き合わなければならない、もう一つの試練。


「あの、リブラ、わたくし、貴女に」

「ごめんなさい!」

「酷い事を…………え?」


 リブラは深々と頭を下げてきました。ま、待って下さい、謝るのはわたくしの方で……。


「あの時、擦り寄ってきたリファリスを、私……」


 ……ん?


「私に抱き着いたまま寝ちゃったリファリスが、あまりに可愛かったもんだから、その……お酒が入ってた事もあって……………………つい」


 …………待って下さい。


「……わたくしが襲ったのではなく……リブラがわたくしを……?」

「本当にごめんなさい! だ、だけどリファリスも案外ノリノリあぶべきょ!?」


 聖女の杖が、リブラに炸裂しました。



「……あああ……嵐のような終焉でしたわ……」


 いつものように、教会周りの掃除をしていると。


「……あ」

「あ、聖女様」


 あ…………こ、子ども園を辞めた……。


「ほら、園長先生に言いたい事があったんじゃないの?」


 ……わ、わたくし、もう、園長先生では……。


「え、えっと、えんちょーせんせー、わ、わたし、みんなといっしょにがんばってるよ!」


 …………え?


「この子、引っ込み思案だったんですけど、周りの子と遊べるようになってきたんです」


「は、はい」


「園長先生に言われたから、頑張るって言って……」


 …………。


「あ、あの、えんちょーせんせー…………また、あそびにきてもいい?」


「…………はい。いつでもいらして下さい。聖リファリス礼拝堂は、門を閉じる事はありませんわよ」



 ……いつか……「元」が取れるように、頑張りますわ……わたくしも。

明日から新章です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 最近、紅月さんがいらっしゃいませんねぇ〜 色々と溜まっているのでは?
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