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聖女様の閑話

「あーーーー…………やってられませんわ」


 ダンッ!


 何杯目か分からないくらいにジョッキの中身を飲み干したリファリスを見ながら、私は身を縮み込ませるしかなかった。


「わたくし、肩書きになんて興味はありませんわ。ですが……ですが…………『元園長』なんてものは欲しくありませんでしたわ!」


 そりゃそうだよねえ。私だって『元侯爵夫人』という表沙汰にはできない肩書きがあるけど、決して名誉あるものでは無いし。


「聞いてますの、リブラ!?」

「あーはいはい、聞いてる聞いてる」

「何を他人事のような……! 言っておきますが、責任は貴女にもあるんですからね!」


 それは分かっています。大変申し訳ございませんでした。

 八割近い責任を問われたリジーは、聖騎士の任を解かれ、今は大司教猊下で吊し上げ……もとい説教の真っ最中である。リファリス曰わく「三日間は正座ですわね」との事だった。

 で、リファリスと私もある程度は責任がある、という事で、一ヶ月の謹慎処分となったのだ。

 で。


「あ゛ぁぁぁ……救いなんて全くありませんわね!」


 教会の地下に貯蔵されていたワインを持ち出し、朝から飲んだくれているのだ……主にリファリスが。


「リファリス、身体に悪いよ、そんなに自棄酒すると」

「そうなったら魔術で治しますわ!」

「あー、えっと、身体的にもだけど、精神的にも、ね」

「あぁん!? この程度で精神的に参る程、ヤワではありませんわよっ」

「まあ……伊達に経験は重ねてないってかぅごわっ!?」

「誰が大年増ですって!?」

「誰もそんな事言ってないって!」


 泥酔して手に負えないわ、こりゃ。


「ごっきゅごっきゅごっきゅ……」


「ちょっと、ワインをラッパ飲みして、はしたないわよ」


「ぶはぁ! もうどうでもいいですわ、わたくし、謹慎明けには全ての肩書きに『元』が付くんですわ……うぃ、ひっく」


 いや、流石にそれは無いんじゃ……。


「そーれーよーりぃぃ……リブラは全然飲んでないじゃありませんのぉ」


「え? 飲んでるよ、ちゃんと」


 ラッパ飲み程じゃないけど、私もそれなりのペースで瓶を空けている。


「はああ!? その程度で飲んでるなんて、よく言えましたわねっ」


「……リファリスは完全に酒に飲まれてるね」


「飲まれてませんわー、まだまだ余裕あーりまーすわー」


「……ちょっと水飲も。ね?」


「水? 水が欲しいんですの? でしたら魔術で幾らでも出せますわよー……『聖なる水よ』」


 え、まさか聖水を……。


 ダッパアアアアアン!


「んぶごふ!? ぶくぶくぶく……」



 ……ザザァァン……


「む? あれはリファリスの教会か?」


「だねー。リファっちの教会の三階から、大量の聖水が流れ出てるねー」


「大量の聖水…………まさかリファリスは、自らが制御できない状態に陥っているのか?」


「つまり、酔っ払ってるみたいだね~……にゃは♪」


「…………だそうだぞ、狐女」


「…………」


「もうこれで終わりにしようかと思っていたが……気が変わった。三時間延長する」


「ええええええっ!?」


「不満かね?」


「断固抗議する! 聖心教では拷問は禁止されてると思われ!」


「その通りだ。だが我が今から行うのは、三時間に渡る福音書の朗読だ」


「……え?」


「にゃは~、大司教猊下御自ら朗読して下さるなんて、聖心教を信仰する者にとって、これ以上に無い栄誉だね~」


「え、えっ」


「だけど……呪剣士のリジっちには……ちょーっとキツいかも、だねぇ。にゃは♪」


「では始める。主よ、貴方様の」


 パアアア……


「うわぁ、福音書朗読の浄化作用、半端無いねぇ」


「うっぎゃあああああああああああああっ!!」



「……ぁぁぁぁぁぁ……」


「ゴホゴホ……あれ、今のって、リジーの声?」


「あっはははははは! 全てびしょ濡れですわ! あははははははははは!」


 リファリスは……まだ泥酔モードだわ。


「リファリス、ちょっと片付けないと。教会中ベタベタだよ」


「もう聖女でも無くなるのですから、そんな事は気にする必要はありませんわ!」


 ありゃあ……完全に自暴自棄になってる。


「そんな事無いって。今までのリファリスの善行を、大司教猊下が無碍にする事は無いから」


「大司教猊下ぁ? 意地悪ルドルフに猊下なんて敬称は不似合いですわよ!」


 大司教猊下を呼び捨てした挙げ句、意地悪とまで!?


「ヤバいって。リファリス、落ち着いて」


「今でしたら、どんな禁忌にでも手を出せますわ」


「待って待って待って待って待って」


「例えば……」


 そう言って、私の首筋に手が伸びてきて……。


「リブラを、美味しく頂いてしまう……とか」


 え゛。


「ちょ、待って。そういうのは、もっと暗くなってからっ」

「明るいうちですから、余計に燃え上がるのですわっ」

「いや駄目だってちょちょちょちょちょっと!?」



「……ゎぉぉぉぉぉ……」


「おりょ? あれはリブっちの声だねぇ」


「このような素晴らしき行いが自らに返ってきて人生に素晴らしき彩りを」

「…………ぁぁぁ…………」


「うーん、リジっちと似たような声だったけど……リブっちはどんな目に遭ってるんだろうね……にゃは♪」



 ううむ……流石に今回は『千里眼』は使えんのう。

 しかしシスターはこの先どうなるのやら……少し心配じゃの。

明日もう一回閑話です。

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