園長の撲殺魔っ
開園式も無事に終了した次の日、ついに聖リファリスこども園始動です。
「……ふう、緊張しますわね」
「あはは、リファっちが緊張するなんて珍しいね。リラックスリラックス、にゃは~♪」
そう言う貴女も、足がカタカタ震えてますわよ。
「み、皆、しっかりしなさいよ。せ、戦場に行くより、ぜぜぜ全然余裕でしょ」
……リブラが一番余裕無さそうですわよ。
「んふふ~、開園開園♪ 楽しみ楽しみ♪」
あら。
「リジーは本当に余裕綽々ですわね」
「見てて微笑ましいくらいだね~、にゃは~♪」
「あれだけ浮き足立ってるリジー、貴重だよね」
やる気満々なのは良いのですが……リジーがそういう時は、ろくな事が無い気もします。
「おはようございます」
「「「おはよーございます!」」」
最初の子供さん達は、元気な子ばかりです。初対面のわたくしの挨拶にも、大きな声で応えてくれました。
「今日から皆さんが通う子ども園の園長、リファリスです。シスターと呼んで頂けば幸いですわ」
「「「はーい、シスターせんせー!」」」
いえ、先生は付けなくても良いのですが……。
「そして、外でのお遊びを担当する、リブラ先生です」
「はーい、皆、よろしくお願いしまーす」
「「「リブラせんせー! よろしくおねがいしまーす!」」」
「っ……か、可愛い……」
リブラ、純粋無垢な子供達の声に、心を洗われたようです。
「次に中でのお遊びを担当します、リジー先生です」
「んっふっふ、私がリジー先生だと思われ」
「「「リジーせんせー、よろしくおねがいしまーす!」」」
「ふ、もう慕われてると思われ」
「「「おもわれー!」」」
「そこは真似しなくていいからっ」
はい、リジーは「おもわれせんせー」で呼び名固定ですわね。
「そして、たまに臨時に来て下さる大司教猊下代行、ルーディア先生です」
「にゃっはー! 皆、アタシが有名な聖心教会大司教代行ルーディア・フォン・ブルクハルトなのだー!」
「「「にゃっはー!」」」
「アタシの事は『代行』か『ルディっち』と呼ぶのだ! にゃっはー!」
「「「にゃっはー!」」」
はい、にゃっはーせんせーで決定。
「ではわたくしとリブラ、おもわれ先生とにゃっはー先生で皆さんと楽しい一年を」
「おもわれ先生違うっ!」
「にゃっはー先生じゃない!」
「……まあ、よろしくお願い致します」
「「「よろしくおねがいしまーす!」」」
はい、元気があって大変宜しい。
「おもわれせんせー! ほんよんでー!」
「おもわれ違うっ……で、どの本?」
「このほんー!」
「何々、聖剣物語………………」
「……なぁに?」
「……魔剣物語にしよう」
「ないよー」
リジーは子供相手でも通常運転ですわね。
「何をしたいかなー?」
「えーっと、おにごっこー!」
「かくれんぼー!」
「かんけりー!」
リブラは早速外で子供達と遊んでいます。
「えー、おにごっこ、やー」
「かくれんぼもあきたー」
「かんけり、きらーい」
あらあら、意見が分かれましたわね。
「むー……なら、先生が決めます」
「「「はーい!」」」
あら、リブラが決めるのですね。
「では……剣豪ごっこをしましょう!」
……はい?
「「「けんごー?」」」
「皆で修行して、将来は世界一の剣豪を目指すごっこ、略して剣豪ごっこ!」
本気で剣豪を目指す時点で、ごっこではありませんわよ!
「えー……」
「だから、まずは全員素振り百回!」
小さな子供に何をさせるんですの!?
「馬鹿な事を言ってないで、鬼ごっこから順番にやりなさい!」
「……えー……」
「…………リブラさぁぁん?」
「あ、はいはい! やります! 真面目にやります!」
まるでわたくしが鬼であるかのように、リブラは逃げていきました。全く……。
「にゃは~」
「「「にゃは~」」」
……すぐ近くで、にゃはにゃは言っている集団が居ます。
「何をしてるんですの、ルディは」
「あ、リファっち、物真似ごっこだよ」
物真似ごっこ?
「アタシの物真似を皆がするっていう遊び」
確かに、立派な遊びですわね。
「んじゃあ、続きを……にゃは~」
「「「にゃは~」」」
……物真似……でしょうか?
「にゃは~、アタシ役に立ってるよね、にゃは~」
「「「にゃは~」」」
……前から気になっていたのですが、にゃは~って何なんでしょうか?
それぞれに楽しい時間を過ごす子供達は、終始ご機嫌な様子です。
「……最初ですから、お勉強は無しにしておきますか」
追っかけ回されてクタクタなリブラ、すっかり仲良くなったルディ、そして中で本の読み聞かせをしているリジー。
「……一体何の本を読み聞かせているのでしょうか……」
少し気になって、中に入ってみると。
「その扉を開いたAさんは、天井に何か居る事は感じていました。しかし恐怖に支配されていたせいで、上を見上げる勇気はありませんでした」
……まさか。
「すると潜んでいた何かがパッとAさんの背中に跳び掛かり」
「きゃあ」
「ひええっ」
「首筋に舌を這わせると、牙を剥き出しにしてガブリんぎゃあ!?」
「貴女は幼気な子供達に何を読み聞かせてるんですの!?」
前のめりに倒れたリジーの手には、おどろおどろしい表紙の本が握られていました。
『真夏の怪奇物語百選』
「……何故にこんな本が子ども園にあるんですか! 没収です!」
次の日。
「子供が怖がってなかなか寝付かなかったんですよ!」
「申し訳ございませんでした……」
早速苦情が入り、園長としての初仕事……苦情処理に追われました。




