開園式の撲殺魔っ 2
「ふえええん、ぐすん」
泣かないで下さい。
「ぐすん、ふえええん」
今回のルドルフ激怒は、全て貴女が悪いんですのよ。
「ぐすんぐすん、ふえええん、ふえええん」
「我が半身よ、五月蝿いぞ」
「ふええええええん! ふええええええん!」
「……五月蝿いと言っている」
「ぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすん!」
ああ、これはルディが拗ねた時の嫌がらせですわね。
「ふえええん、ふえええん、ぐすんぐすん、ふえええん、ふえええん、ぐすんぐすん」
「……我が弟子メリーシルバーよ、邪魔者を摘まみ出せ」
「はい、師匠」
あ、メリーシルバーが行動開始ですわね。手の内を拝見させて頂きましょう。
「ルーディア様」
「ふえええん、ふえええん」
「ルーディア様」
「ぐすんぐすんぐすんぐすん」
「……師匠、宜しいですか」
「許す」
大司教猊下が頷いたのを確認してから、メリーシルバーはルディの背後から抱きつき。
「ふえええん、ふえはああああああん!」
……何かしました。
「な、何をす「ふーぅっ」ひゃっはああああああああん!」
……耳に息を吹きかけましたわ。
「は、はぅん……」
「では師匠、少し失礼します」
クタッとなったルディを引きずって、メリーシルバーが退場していきます。
「……大司教猊下、メリーシルバーは……」
「十五分くらいで戻ってこよう」
大司教猊下は、それ以上は答えて下さりませんでした。
「……では、皆様に主の聖なる光が届く事を願いつつ、わたくしの話は終わらせて頂きます。ご静聴ありがとうございました」
パチパチパチパチ!
園長としてのわたくしの話が終わった頃、メリーシルバーがこっそり戻ってくるのが見えました。ルディは……居ませんわね。
「リブラ、貴女は何か知りませんか?」
席に戻ると、隣に座っているリブラが顔を赤くしていましたので、何か気付いているのかと尋ねました。
「……まあ……物音が……ね」
「物音? どのような?」
「…………軋むベッドの上で」
ああ、もう結構ですわ。
「……という事があり、その時……」
次は大司教猊下のお話です。少々長いのですが、そこは修行だと思って耐えましょう。
「……お尻痛いぃ……」
するとリブラが一番最初に音を上げました。元々ジッとしている事が苦手なリブラには、大司教猊下のありがたいお話は苦痛でしかないようです。
「うぅ~、飽きたぁ」
「リブラ、大司教猊下のお話中ですわよ」
「だって~、長いんだもん……」
確かにわたくしの倍以上は話していますが、それくらい耐えなくては駄目ですわよ。
「うぅ~……痛い痛い……」
モソモソし始めて、周りから睨まれます。あぁ、この調子では……。
「……リブラ、大司教猊下に睨まれてますわよ」
「で、でも、痛いものは痛い……さっさと終わってよ、もう……」
ススススッ
ほらぁ……貴女が騒ぐものですから。
ガシッ
「ふぐっ!?」
メリーシルバーが背後から忍び寄ってましてよ。
「むーっ、むーっ!」
口を塞がれて暴れるリブラを。
きゅっ
「ふぐうううううう!?」
……何かして、大人しくさせ。
「ふ、ふくぅ……」
ズル……ズル……
そのまま引きずって退場しました。
「……では、ご静聴ありがとうございました」
パチパチパチパチ……
心無しかわたくしの時より、拍手がまばらな気が……。
「…………」
あら、今度はリブラの隣のリジーが、真っ赤な顔をして俯いています。
「リジー、どうかなさったのですか?」
「え…………あ、うん」
……?
「体調が悪いんですの?」
「あー、違う違う。そ、その……」
……??
「辛ければ、部屋で休んできても構いませんわよ?」
「あ、そう言う訳じゃなくて…………その……音が」
音?
「リブラが引きずられていってから、ずっと指向性聴力で探ってたんだけど」
貴女、サラッと凄い事を仰ってますわよ。
「そしたら…………リブラの声と」
「リブラの声……」
「軋むベッドの上で」
あーもういいですわ。
「あ、あふぅ……」
他の来賓の皆様のお話が続き、流石のわたくしもお尻が痛くなってきました。い、いけません、思わず欠伸が……。
「わ、私も痛い……」
リジーも限界のようです。これ以上メリーシルバーの餌食になる訳にはいきませんね。
「『癒せ』」
パアアア……
わたくしとリジーに癒しの光が降り注ぎ、痛みが急速に消えていきます。
「ふはぁ……リファリス、ありがとう」
「いえいえ、リブラと同じ事にはなってほしくありませんから」
「……っ」
思い出したようで、リジーが再び頬を赤く染めます。
「……ぁぁぁぁああ! 長い長い長あああい!」
そして、ついに王女殿下まで痺れを切らしました。
「いつまでくっだらない話してるのよ! もう皆ウンザリしてるわよ!」
それは否定しませんが、大司教猊下が見てますわよ。
「ダラダラダラダラと有り難くもないお説教、もう願い下げむぐっ!?」
ああ、再び暗闇からメリーシルバーの手が……。
「ふぐ! むーっ、むーっ、むーっ! ふぐぁぁああぁぁ…………っ……」
ズル……ズル……
……また……犠牲者が……。
「おそらく、軋むベッドの上で」
あーもう結構ですわ。
少し休憩時間が設けられたので、その隙にルドルフの元へ。
「ちょっと、貴方はメリーシルバーに何を教えてるんですの!?」
「……無論、聖心教の教義だが?」
「あんなアサシンみたいな行為が教義ですの!?」
「世の中綺麗事ばかりでは罷り通らぬ」
大司教の貴方が一番言っては駄目ですわよ!!




