開園式の撲殺魔っ 1
「今日、聖リファリスこども園は開園致します!」
わああああっ!
パチパチパチパチパチパチ!
「そして皆さん、このこども園では、ある合い言葉が用いられますので、今回を機に覚えて下さいまし」
「合い言葉……?」
「何それ……?」
「では、わたくしの後にご唱和願います」
ザワザワ……
「では最初に……滅殺!」
「「「……は?」」」
「ほら、ご一緒に! 滅殺!」
「「「め、めっさつ」」」
「はい。次は……抹殺!」
「「「まっさつ……」」」
「この箇所はたまに必殺ともなりますので、そこはご注意下さい」
「「「……ひ、ひっさつ……」」」
「そして最後に、撲殺っ!」
「「「ぼくさつ……」」」
リファリスは満足げに頷きました。
「では皆さん、声を合わせて」
「「「はい……めっさつ、まっさつ、ぼくさつ……」」」
「声が小さいですわよ」
「「「め、めっさつ! まっさつ! ぼくさつ!」」」
「聞こえませんわよ!」
「「「めっさつ! まっさつ! ぼくさつ!」」」
「はい、もっともっと! 声が枯れるまで、大きな声で!」
「「「はい! めっさつ! まっさつ! ぼくさつ!!」」」
「……みたいな?」
「あはははははははははは! リジー、それウケる! 面白い!」
………………。
「リファリスの場合、それを真面目に連呼するのがポイント…………あ」
「ん、どうかした…………あ」
「……二人とも、元気が有り余ってるようですわね」
「「あ、いや、その……」」
「あと一時間もしないうちに開園式を迎える現在、貴女達を撲殺する訳にも参りませんから……」
「「…………はい」」
「…………三日間絶食して頂けますか?」
「「み、三日間……」」
「それともお二人で、滅殺抹殺撲殺の挨拶をお手本として披露して下さいますか?」
「……三日間絶食でいいです……」
「……私も……」
はい、宜しい。
式典は礼拝堂で行う事にし、園長のわたくしと保育士となるリブラ、リジー、それに臨時で参加して下さるルディの四人が園側として出席します。
他は入園が決まっているお子さんの両親や親族、後は来賓の方が数名いらっしゃいます。
「んーふ、来賓楽しみだねぇ、来賓」
「……ルディ……本当にお呼びしたんですの?」
「勿の論。第一王位継承者・マリーゴールド王女と次期大司教候補・シスターメリーシルバー。豪華な顔触れだねぇ……にゃは♪」
マリーゴールド王女…………本当にいらっしゃるのですね……。
「大丈夫だよ、リファっち。メリっちが防壁になってくれる筈だから」
大司教猊下の直弟子になると言う、近年稀に見ぬ大冒険をなさったメリーシルバー、さぞかし陶冶された事でしょう。
……ガタガタガタガタ
あら、馬車が。
「相変わらずリファっちん家の前は、道がガタガタみたいだね~」
「この教会の建設を指揮なさった方が、異常に石畳に拘られたお陰ですわ!」
「あ、あはははは……あの時はアタシも変なテンションだったから」
そのテンションのお陰で、わたくしを含め近隣住民の皆様も大迷惑を被ってるんですのよ。
一応道に説明しておこうかの。
人通りが多い道は魔術による圧縮によって舗装されておる。田舎じゃと土の道や石畳がまだ見受けられるが、舗装路はかなり整備されておるの。
当然じゃが、聖リファリス礼拝堂周りは人通りも多い故、普通なら舗装されるべきなのじゃが……これは大司教猊下……いや、代行の個人的な趣味じゃろうな。
馬車が赤い絨毯に合わせる形で停車し、騎士によって扉が開かれます。
パンパカパーン♪
ファンファーレが鳴り響き……誰ですの、吹奏楽隊を呼んだのは。
「やっぱりファンファーレ必要だねぇ、にゃは~♪」
ルディ……。
「……費用は……貴女持ちですわね?」
「にゃは~、資産凍結されてるから……」
ま、まさか。
「わたくしにツケを回したのではないでしょうね!?」
「まさか。リファっちの金欠振りは把握してるよ」
悪かったですわね!
「だから、ルドルフに送っておいたよ、にゃは~♪」
……知りませんわよ、怒られても。
「マリーゴールド・フォン・ゴールデンメアリー殿下のおなーりぃ」
ゴールデンメアリーは王家の姓です。マリーゴールドにゴールデンメアリーですから……金ピカですわね。
「お姉様、お久しぶはがっ!?」
「おほん、聖女様、お招き頂きありがとうございます」
わたくしを見て暴走しかけた王女殿下を、メリーシルバーがガッチリとキャッチします。ナイスですわ。
「続きましては、王女殿下の妹君でいらっしゃるメリーシルバー女史のおなーりぃ」
もう馬車から出てきてますわよ、姉の暴走を止める為に。
「続きましては……」
「へ?」
ルディが怪訝な表情を浮かべます。
「わたくしもお一方お招きしてますのよ」
「リファっちが……?」
ルディが聞きたがっているのを無視して、聖心教での最敬礼をして待ちます。
「え、それって……まさか」
わたくしを見て察したらしいリブラとリジーも、同じ姿勢を取りました。
「ま、まさか……」
「そのまさかだ、我が半身よ」
馬車の奥、上座からもう一人が姿を現しました。
「ルドルフ・フォン・ブルクハルト大司教猊下、おなーりぃ」
「ルルルルルドルフゥ!?」
「シスターリファリスからご招待頂いてな。王女殿下が馬車に相乗りさせて下さったのだ…………さて、それより」
大司教猊下は何やら紙切れを取り出し、ルディに突き出しました。
「吹奏楽隊の費用、何故に我が負担せねばならぬ?」
「あ……う~……」
「……我が半身よ。小遣いから差し引かせてもらう」
「そんなああっ!?」
……自業自得ですわよ。




