鬼ごっこの撲殺魔っ
「さあ、来るべき時が来ましたわ。わたくしの生徒達、準備は宜しくて?」
リファリスの問いかけに、修道服姿の集団が応える。
「「「はい、園長先生!」」」
「……貴女達は厳しい試練に耐え抜き、今ではわたくしと肩を並べるまでに成長しました」
「「「いえ、園長先生にはまだまだ及びません」」」
「個々の力では、そうかもしれません。ですが貴女達が力を合わせれば、わたくしだけではなく、どのような存在をも凌駕する、鬼神が如き強さを発揮できるのです」
「「はい、園長先生!」」
「では参ります。準備は宜しいですわね…………聖リファリス大隊、前へ進めええええっ!」
「「「滅殺! 抹殺! 撲殺! うおおおおおおっ!!」」」
「……という夢を見た、と思われ」
「ちょ……! か、開園式前に余計な事を言わないでよ……ぶくくっ」
最終確認に余念が無いわたくしの後ろで、弟子二人が何やらコショコショと駄弁っていますね。
「突撃しながら『滅殺! 抹殺! 撲殺!』を連呼するのがミソ」
「や、止めて……! 想像しちゃうじゃない……!」
「聖リファリス大隊、勿論別名は『撲殺大隊』」
「ぶふぅ! あはははははははは!」
「あらあら、とっても楽しそうな話をしてますわね?」
楽しそうな二人は、わたくしの言葉で固まりました。
「貴女達には掃除をお願いしていた筈ですが……こんなところで喋っているのですから、もう終わったのですね?」
「え、あ、いや……」
「あ、あの、まだ……」
「まだ……何ですの?」
小麦色の肌を真っ青に染めながら、リジーは震えています。
「ま……まだ……掃除始めてない……」
「……………………はい?」
コトンッ
壁に立てかけてあった、聖女の杖を手にします。
「ひいっ」
「つまりぃ、貴女達はぁぁ、わたくしからの指示を無視してぇ、ここでサボっていたのですねえぇぇぇぇ?」
リブラも顔色が悪くなっています。
「いやいや、そういう訳じゃ」
「では、どのような訳なんですのぉぉぉ?」
「え、えっと…………ご、ごめんなさいぃぃ!」
ダッ!
「あ、待って!」
リブラが逃げ出し、それに釣られる形でリジーも駆け出しました。
「あらぁぁ……うふふふふ……わたくしから逃げられると思っているのかしらぁぁ…………あは、あはははは、あはははははははは!」
「は、はあ、はあ……」
一緒に逃げるのは不味い。そう言ってリジーと別行動してるんだけど……。
「はあ、はあ……しまった、一人は心細い……」
夜の教会は、結構不気味な雰囲気を醸し出している訳で……。
……ギィィ
ビクッ
ミシミシ……ギシィ
「……ふぅ、家鳴り、家鳴り、よくある事だよ、よくあるよくある……」
ギシィ ミシィ
「家鳴りだ家鳴りなんだって家鳴りに決まってる」
ギィィ ダン!
「はいぃ、家鳴りですわ」
「きぃあああああああああああああっ!!」
「あはははは、あはははははははは!」
「いやあああああああああっ!!」
あ、リブラ捕まった。
「ほらほら、お望み通りの滅殺フルコースですわ!」
「助けてえええええええええっ!!」
ごめん、リブラ。後から骨は拾ってあげる。
「では参ります。ソフト滅殺!」
ばしぃぃん!
「んみゃあああああああああ!」
「ソフト抹殺!」
ばしぃぃん!
「いったああああああああい!」
「ソフト撲殺!」
ばしぃぃん!
「ごめんなさいいいいいい!」
ソ、ソフト?
「はい、もう一度、ソフト滅殺!」
ばしぃぃん!
「うきゃあああああああああ!」
「倍の力でソフト抹殺!」
ずばしぃぃん!
「いったい! いったいって!」
「三倍のミディアム撲殺!」
ばっちぃぃぃぃん!
「んぐぅおおおおおおおおお!?」
…………し、静かになった。
……ガチャン
背に腹は代えられない。殺すつもりでリファリスを迎え撃つ。
「…………」
極限まで集中し……辺りの気配を探る。
「…………」
あの人がよく言っていた、身体で空気の流れを感じる……。
「…………」
空気の流れを……。
「…………」
流れを……。
「……だあああ! 鎧着てると何も分からないと思われ!」
「そうですわねぇ」
ビクゥ!
「それだけガチガチに鎧を着ていては……肌で気配を感じられませんわよぉぉぉ?」
ひ、ひぃぃぃ!
「ではぁ、肌で感じられるように……『浄化・強』」
パアアア……
あああ!? 私の呪われアイテムが!
「浄化されて消えていくぅぅぅぅぅぅ!!」
「はぁい、これでお尻丸出しですわね……聖女の戒『茨』」
ピシュ! シュルルッ
わっ!?
「はぁい、身体も固定させて頂きましたぁ♪」
「リ、リファリス? 一体何を……」
「うふふふふ、あはははははははは! お尻撲殺ですわ!」
え゛!?
「ほぉら、行きますわよ……ソフト滅殺!」
ばちぃぃぃん!
「いったあああああああああい!」
「ソフト抹殺!」
ばちぃぃぃん!
「いやあああああああああああ!」
「ややソフト撲殺!」
ばっちぃぃぃん!
「ごめんなさいいいいいいいい!」
……滅殺や抹殺の時点で、ソフトも何もあったものでは無いのじゃが……。
この二人、しばらく椅子に座る事も叶わなんだそうじゃ。
あ、それとの、この事件が切っ掛けかは分からぬが、聖リファリスこども園の鬼ごっことかくれんぼは、見つけた鬼がお尻を叩くという、変わった風習が残ったそうじゃ。
リジーとリブラのお尻撲殺は、当然バット型聖女の杖によるフルスイングです。




