開園準備の撲殺魔っ
大司教猊下……いや、今回はルーディアでいいかの……の活躍もあり、新たな託児所は猛スピードで形になっていっておる。流石は天才と持て囃されておっただけあるわい。
色々な意味で刺激になったようで、首だけ令嬢も真面目に働いておるようじゃしの。これは開園が楽しみじゃ。
「はーい、ゆっくり、ゆーっくりね」
ルディの差配により、次々と家具が持ち込まれていきます。
「……意外と落ち着いた色合いですわね」
「リファっち、意外とって言い方に棘を感じるんだけどさっ」
いえ、普段の貴女を見ていれば……。
「……ショッキングピンクで統一されるかと」
「そんな託児所、誰も預けてくれないよ!?」
確かにその通りなのですが……。
「……ルディですから」
「だーかーらー、リファっちはアタシの事を何だと思ってるの!?」
「天才的な変態、ですわね」
「誉めてない! 一切誉められてない!」
そう言いながらも、目は重いタンスを運ぶ二人に向けられています。
「お、重いって! リジー、ちゃんと持ってよ!」
「それはお互い様……あ、傾いてる傾いてる傾いてるぅぅ!」
バランスを失って倒れるタンスが、スローモーションに見えてきます。
「……聖女の戒『茨』」
パシッ! シュルシュルシュル
壁から生えた茨がタンスを捕まえ、地面に触れる前に停止させます。
「ふ、ふぅぅ……あ、危なかった」
「ギリギリだっと思われ……助かった、リファリス」
「いーえ、無事で何よりですわ。それより」
隣でユラユラと髪を逆立ているルディを見やり。
「謝る相手を間違えてますわよ」
「え……ひっ!?」
「む……ひぃ!?」
怒髪天を突く、をそのまま体現したかのようなルディが、少し身体が浮く程の闘気を纏わせて、二人を睨んでいました。
「リブっち! リジっち! そんなへっぴり腰でどうするの!」
「「あ、はい」」
雰囲気の割に、口から出てくるのは可愛らしい声と幼い口調。そのアンバランスさが、怖さを半減させます。
「安い物じゃないんだからね、メッ! ちゃんと丁寧に運ばないと、メッ!」
「「すいませんでした」」
しかも大の大人相手に「メッ!」ですからね……間違い無く二人には響いてませんわね。
「むぅ、あまり応えてなさそう…………なら」
ルディは突然わたくしを指差し。
「次やったら、聖女の杖で二人のお尻をペチンペチン」
「「待って、執行役は!?」」
「無論、リファリス」
「「ペチンペチンじゃ済まないって! 死ぬって!」」
「ふむ、聖女の杖をフルスイングでお尻に……………………それも悪くないかもしれません」
わたくしの呟きを聞いた二人は、顔色を悪くしつつも、直立不動の体勢になり。
「「誠心誠意、大切に大切に運ばせて頂きます」」
「むふ、それで宜しい、にゃは~」
業者様が次々に運んでくる荷物を、二人は率先して運んでいきます。
「……ルディ、わたくしを出汁に使わないで頂けます?」
「ごめんごめん。でもさぁ、迫力無いのはどうしようもなんないから」
確かに仕方無いのです。ドッペルゲンガーのルディは、ルドルフから大半の魔力を与えられたのですが、感情は喜怒哀楽のうち怒哀がかなり少なくなされています。それはルドルフ曰わく「力を与えた代償」という事なのです。
「あまり怒れない、哀しめないじゃ、迫力なんて要素はほぼあり得ないからね、にゃは~」
リブラとの剣の修行で身に付けた闘気の操作を駆使し、迫力の無さをカバーしようとしたのでしょうが、逆効果でしたからね。
「……ならばルディ、今回の件は大目に見ますから」
「ありがと~…………って、何で聖女の杖構えてるの?」
「いえ、頭では無くお尻で勘弁して差し上げますわ」
「え゛っ」
サッとルディの背後に回り、可愛らしいお尻に杖を振り下ろし。
ブゥンッ
「あら、手応え無し?」
「あ、あっぶないよ! 今の本気だったよね!?」
「当たり前ですわ、わたくしはいつだって本気ですわよ……ほら」
再び背後に移動しますと、ルディは『進脚』で距離を取ります。
「リ、リファっち、いつの間に『進脚』覚えたの!?」
「いつの間にと言われましても……リブラと貴女のを見ていたら、いつの間にかできてましたわ」
「……み、見ただけで……」
「ほらほら、ボーッとしてますと、背後に回られますわよ?」
「っ!? くっ」
シュタタタ、タン、シュタタタタタ
「……リブラ、リファリスの速さ、もう『進脚』超えてない?」
「あー、うん、あれは『神速』……いや、『縮地』かな」
「きぃやああああ! リファリスにお尻狙われてるぅぅぅ!」
「待ちなさいな。試させて下さいな」
「試されたくなああああい!」
「ちょっと爆散する程度ですわ」
「爆散したくなああああい!」
「ちゃんと生き返らせてあげますわ」
「そういう問題じゃぬゎああああああい!」
「爆散って……要は木っ端微塵って事だよね?」
「嫌だわ~、お尻ど突かれて木っ端微塵で死亡って嫌だわ~」
「いやああああああ! リファっちにお尻を狙われてるぅぅぅ!」
「待ちなさいな! あ、こら、外に逃げたって無駄ですわよ!」
そのままルディとの追いかけっこは、市街戦へと突入しました。
「リファリス、変な噂が流れてたよ?」
「聖女様が幼い女の子のお尻を狙ってるって」
何故ですの!?
聖女様、ロリ疑惑浮上。




