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聖女様の幕間

 さて、こうして見ると血を見る事が多いシスターの私生活じゃが、それだけでは無いところが聖女様と讃えられる由縁なのじゃ。

 例えば、今回シスターに色々と手を貸してくれた諜報部隊長は。



「……何方ですか。レディの部屋に忍び込む等、万死に値しますよ」


「お前が聖女リファリスだな」


「……何度も訂正してますのに……わたくしは聖女ではありませんわ」


 せっかくの読書の時間を邪魔されてしまいました。


「で、貴方はわたくしをどうするつもりですの?」


「無論、死んで頂く」


 わたくしを? 殺す?


「つまり貴方はアサシン様ですのね?」


「アサシン……様ね。こんな職業してて様付けされたのは、流石に初めてだな」


「そうですか。ではアサシン様、わたくしを害しようとする理由を教えて頂けます?」


「ああ、それは無理だ」


「どうしてですの? 死に逝く者への餞と思えば、安いものではございませんか?」


「餞、ねえ……とてもあんたが死に逝く覚悟をしているとは、思えんがね」


「そうですか。ならば…………聞き出すしかありませんわねぇぇ」


 聖女の杖を手に取り、一歩前へ進みます。


「聞き出す? 俺から? これはこれは……まさか俺を調伏なさるおつもりか?」


「いぃえぇ、調伏なんてしません」


「なら、どうするつもりで?」


「……屈伏させますわ」

「っ!?」


 ザッ ザザザッ!


 わたくしの声を耳元に感じたアサシン様は、焦って飛び退きました。


「い、いつの間に俺の隣に!?」


「いつの間にと言われましても……」

 ス……

「目の前で、堂々とですが?」


 再び懐に入り込まれ、アサシン様は動く事もできません。


「ば、馬鹿な」


「馬鹿な、と言われましても……これが現実ですわ」


「そ、その動きは、幻の歩法『縮地』ではないか!」


 縮地、と言うのですか。


「このような動き、普通ではありませんの?」


「普通な筈があるか! 世界中の武術家が到達しようと志す極地だぞ!?」


「あらまあ、そうなのですか。わたくしは毎日階段を上り下りしているだけなのですが」


「階段の上り下りで究極の一に達するのなら、全世界誰でも縮地できるわ!!」


「そうですか。わたくしは地下の井戸から汲み上げたお水を、最上階まで運んでいるだけですが」


「地下の水を……最上階まで?」


「はい。修行の一つとして、毎日冷水を浴びていますので」


「さ、最上階とは……この教会の最上階か!?」


「ええ。流石に修行であっても、殿方に見られたくはありませんので」


 最上階の鐘がある場所ならば、誰にも覗かれる心配はありません。


「……ど、どれだけ水を……浴びるのだ」


「そうですわね……浴槽一杯分は超えますわね」


 それを聞いたアサシン様は、武器を床に投げ。


「そのような荒行に耐える貴女様に、私のような生半可な鍛え方しかしていない三流が敵う筈が無い……」


「あら、降伏なさりますの?」


「私の負けです……後は衛兵に引き渡すなり、好きにして下さい」


「そうですか……ならば」


 影になったわたくしの顔に、紅い三日月が浮かび上がり。


「今までの過去を殺し、新たな人生を歩んで頂きましょうか」

「え?」

「あはは、あはははは、あははははははは! では、撲殺ぅ♪」

 バキャア!

 ベチャ……ゴトッ

「あはははは、あはははは、あはははは! では『身体修復』『迷える魂よ、戻れ』」


「……ぅあ!? あ、あが……え?」


「死の世界からの帰還、おめでとうございます」


「せ、聖女様?」


「貴方は明日から、この町の平和の為に働いて頂きますわよ……あはははは!」



 こうしてアサシンは衛兵になり、現在は諜報部隊の隊長となって活躍しておるのじゃ。

 そう言えば出前の男、あれもシスターによって調伏された元悪党じゃったな。足腰が強靭な事を買われて、出前の仕事をしておったはずじゃ。

 ちなみにじゃが、調伏後の仕事先を世話しておるのもシスターじゃよ。



「あ、おはようございます、聖女様」


 お買い物の為に町を歩いていますと、よく声を掛けて頂きます。


「おはようございます。何度も言っていますが……」


「あ、聖女様では無いんでしたね」


 お針子さんをしていらっしゃる女性は、元スリです。わたくしが捕まえて撲殺し、手先の器用さを活かせる仕事を紹介致しました。


「あ、おはよう、聖女様」


「おはようございます。ですからわたくしは」

「聖女様じゃないってんだろ。わかったわかった」


 この気っ風のいい男性は、元詐欺師です。この方もわたくしが捕まえて撲殺し、口の上手さを活かせる販売員の仕事を紹介致しました。


「あ、聖女様、うぃーっす!」

「「「うぃーっす!」」」

「おはようございます。ですから」

「あ、失礼しやした、姉御!」

「「「姉御、うぃーっす!」」」


 姉御でも無いのですが……こちらの方々は元盗賊団でした。わたくしが壊滅させまして撲殺し、団結力を活かして町火消しと見回りをしてもらっています。


「皆さん、その後の生活は如何ですか?」


「そりゃあ、もう」

「お天道様の下で堂々と働くってのは気持ち良いもんでして」

「姉御のお陰で真っ当に生きてやす!」

「「「あざーっす、姉御!」」」


 それは良かったです。それと、姉御ではありません。



 この町は元は「犯罪の巣窟」と言われていたのじゃが……シスターが赴任してからは「贖罪の町」「奇跡の町」「聖なる加護の町」等々、真逆な別名で讃えられておる。

 これが聖地サルバドルの近くにある港町セント・リファリスに佇む聖リファリス礼拝堂に住むシスター・リファリスの功績の一つじゃ。

もしも高評価・ブクマして頂けますと、私も救われますのでよろしくお願いします。

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