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保育士の撲殺魔っ

 ぶふぉ!?

 シ、シスターが、エプロンを着けておる!

 ひ、久々に覗いてみたが、一体何があったんじゃ!?



「では皆さーん、お歌の時間ですよー」

「「「はーい!」」」


 わ、わたくし、教会で賛美歌をよく歌っていますから、これは得意でしてよ!


「ではリファリス先生………………あの、シスター?」

「あ、はい?」

「顔が強張ってますけど、大丈夫ですか?」

「ははははい、大丈夫ですわっ」

「…………では、子供達と一緒に歌ってあげて下さい」

「は、はい!」


 不安げな園長先生の心配を吹き飛ばす為にも、ここはわたくしが踏ん張らねば……!

 園長先生、オルガンに座って。


 ぽーん……


「……はい、この音をラで声出ししましょう」

「らー」「ラー」「ら~」「らああ」「ラー!」


 あら……子供達、初めてなのか、個性的な方ばかりですわね。


「……ここはわたくしがちゃんとしたお手本を示して、皆さんを導いて差し上げないと……」


「ではリファリス先生、どうぞ」

「はい!」


 さあ、来ましたわ。空気をお腹いっぱい吸い込みまして、限界まで喉を震わせて、少し魔力を込めまして…………!



「…………らんぁぁぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁんんっ!」



「「「っ!?」」」


 う、上手くいきましたわ! 子供達がわたくしを注目して……!


「シスター! シスター! ちょっとすいません!」

「え? あ、はい」

「何ですか、今のは!?」

「え? な、何と言われましても」

「託児所が揺れましたよ!?」

「ゆ、揺れましたか?」

「何より、それは『エンカ』とか『ミンヨー』とかいう東洋の島国の発声方法ですよ!」


 エ、エンカ? ミンヨー?


「とにかく、今のは違いますから。もう少し優しい声でお願いしますね?」

「は、はい……」


 優しい声、ですの? もう少し声量を下げて、喉の震えを強くしてみましょう。


「ではもう一度リファリス先生。せーの」

 ぽーん



「ん、んみょいぃいぃいぃいぃいぃいぃいぃいぃいぃいぃ……」



「「「……?」」」

「シスター! ちょっとちょっと!」

「は、はい?」

「何なんですか、今のは!?」

「え?」

「それは草原の民族の間に伝わる『ホーミー』ですよ!?」


 ほ、ほーみー?


「それもこの場には合いませんから、ちゃんと声出して下さい!」

「こ、声を出せば良いのですね」

「但し普通に、普通にですからね!?」

「あ、はい」

「お願いしますよ、シスター」


 …………普通って……一番難しいですわね。



 こ、子供との合唱で、ホーミー……ぶくくっ。

 さ、流石はシスターじゃ。一般人とはひと味もふた味も違うのぅ。



「……リファリス先生は……オルガンは弾けますか?」


 何度か歌ってみてから、園長先生が大きなため息を吐き、そう聞かれました。わたくし、歌が下手なのでしょうか?


「エンカ・ミンヨー・ホーミー。そして最後に超ソプラノ……子供に合わせるのは無理ですね」


 …………申し訳ありません。


「オルガンでしたら、教会のパイプオルガンを弾いてますので」


「パイプオルガンとはかなり違いますけど……まあ大丈夫ですね。ではお願いします」


 そう言って園長先生はオルガンの前を離れ、子供達と一緒に並びます。


「ではリファリス先生、何か一曲弾いてみて下さい」


「え? な、何かと言われましても」


「とりあえず指慣らしです。子供達に聞かせるつもりで、何か一曲」


 聞かせるつもりで……ですか。


「でしたら、指の練習でよく弾く曲を…………」


 指を鍵盤の上に置き、一気に滑らします。



 お、おおお……!

 高速じゃ……とても高速じゃ……。



「……ふう、指慣らし終わりましたわ」

「シスター、シスター!」

「はい?」

「今の、剣の舞ですよね!?」

「はい、そうですが?」

「パイプオルガンで剣の舞を!?」

「はい、そうですが?」

「…………」


 な、何か?


「…………シ、シスター、もう一曲何かお願いします」


 もう一曲ですの?


「何にしましょう?」


「えっと、何が弾けます?」


「そうですね、得意なのは幻想即興曲でしょうか」

「幻想即興曲が得意……ですか……はははは」


 あ、あの?



 幻想即興曲が得意……じゃと……!?

 さ、流石はシスター、何もかもが斜め上じゃのう……。



「シ、シスター、なるべく易しい曲をお願いします……」

「優しい曲、ですの?」


 優しさを感じさせる曲、という意味ですわね。


「でしたら、春とか如何でしょうか」

「春ですか、いいですね」


 では……やってみますか、本気で。



 ううむ……オルガンだけの筈なのに、まるでフルオーケストラを聞いているような重奏感じゃ……。



「あ、あの」

「はい?」

「もういいです。もう結構です」

「はい?」

「これ以上私達の何かを折らないで下さい」

「……はい?」



「……ただいま」

「あれ、リファリス? 託児所で体験奉仕じゃなかったの?」

「……もう……来ないでくれと言われまして」

「…………はい?」



「せんせー、みんよー! みんよー!」

「えんかやって、えんか!」

「ほーみーがいい、ほーみーが!」

「そーぷーらーのー!」

「えー、おるがんだよー! あのはやいの! はやいの!」

「げんそーそっこーきょくだよー」

「はるききたい! りふぁりすせんせーのはる!」


「シ、シスター……恨みますよ……!」



 この託児所、半年くらいで歌唱力とオルガンの演奏がプロ並みになったらしいのじゃが……何かあったんじゃろうな。

ハードル上げまくり。

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