先生になった撲殺魔っ
「「「えんちょうせんせー! おはよーございます!」」」
「はぁい、おはようございます! 皆さんとってもお元気ねー!」
な、何故……!
「そんな皆さんに、とっても素敵なお知らせがありまーす!」
「おー、なんだろー」
「どきどき」
「わくわく」
「それはですねぇ……新しい先生がいらっしゃいましたー!」
「「「わー、やったー!」」」
わ、わたくしは、一体何故このような……!
「はーい、では皆さんでお呼びしましょう。園長先生と声を合わせて、大きな声で。いいですね?」
「「「はーい!」」」
く……し、仕方ありませんわ! ここは覚悟を決めて……!
「では、せーの! リファリス先生ー!」
「「「リファリスせんせー!」」」
じ、時間ですわ! 腹は括りました。さあ、この試練を乗り越えますわよ……!
「え、教会にですの?」
「にゃは。何か造ろうと思って」
戦争が終わり、人々が再び平和な生活を取り戻し始めた頃、突然やって来たルディがそんな事を言ってきたのです。
「何か造るのは一向に構いませんが、そんなお金はこの教会には無くってよ?」
「にゃは~、そんなのは分かってるよ。元々ある建物を使うんだからそこまで費用はかからないし、お金はアタシが出すから」
元々ある建物って……まさか。
「教会の空室を?」
「そう。無駄に広いからね、リファリスの教会……」
ルディの仰る通り、わたくしが住む教会はとても広いです。実際、わたくしが生活の場で使用しているのは、全体の一割も満たしていないくらいなのですから。
「先程も言った通り、諸問題が解決できるのでしたら、わたくしは一向に構いませんわ」
「そう? なら良かった良かった。これでアタシも怒られないで済むよ、にゃは~♪」
……怒られる?
「どういう事ですの?」
「あー、うん。実はね、この教会に関しては、前から色々言われてて」
ああ、成る程。
「当たり前です。だから言ったのです、立派すぎると」
「うっ」
ルディは珍しく困り顔を晒していました。
この聖リファリス礼拝堂はわたくしが聖女に認定された際に、わたくしが住まう場として建設されたわたくし専用の教会です。
最初はやんわりとお断りしていたのですが。
「聖女が住まう場が無いのでは、我々の威信に傷が付く。ここはどうか大司教の私を立ててくれないだろうか」
そうルドルフから説得をされまして、渋々受け入れたのです。
「但し、立派なのは御免ですわ。礼拝堂さえちゃんとしていれば、わたくしが最低限生活できる程度の広さがあれば」
「分かった。その辺りは我が半身に任せよう」
ルディに任せる、と聞いた時点で嫌な予感がしていたのですが……。
「にゃは~、広さはバーンとこれくらいで」
「にゃは~、高さはこの町を見下ろせるくらい、バーンと、バーンと」
「にゃは~、礼拝堂はバーンと広くて、バーンと天井高めで」
「にゃは~、画家さんに壁画頼み込む♪ 窓はステンドグラス職人に頼み込む♪」
……わたくしが諸用で半年程離れていた隙に、ルディは私財を惜しげもなく注ぎ込み、計画も使用する土地も規模も際限無く膨らんでいき……。
「な、何ですの、これは!?」
「にゃ、にゃは~、やりすぎちゃった?」
戻った時には、荘厳なお城を思わせる純白な巨大建造物が建っていたのです。
「こ、これのどこが質素なのですか!? これのどこにわたくしの要望が叶っているのですか!?」
「ニャハハハ…………ごめんなさい」
結局わたくしは礼拝堂と、物置として使われる予定だった狭い部屋のみを使い、後は一切手をつけていません。
「あの時の公開撲殺はしんどかったなあ」
「当たり前です。あれでも加減しましたわよ」
「いやいや、五回は死んだからね!?」
それ以来、ほぼ使われない九割の使い途については、散々議論を交わされていたようです。その間ルディはルドルフからも枢機卿様達からも、暴走した事を再三咎められていたようで。
「……これでアタシの苦行も一区切り。にゃは……」
まあ、自業自得なのですが。
「しかしルディ。ほんの少しですが、役には立っていましたよ」
「え、何が?」
「町の観光名所にはなってましたわね」
「う……」
「それと、集合する目印にはうってつけでしたわね」
「うう……」
「それと、西日が遮られて涼しくなったと、裏のお婆ちゃんが」
「うわーーーーん! リファっちが苛めるぅぅぅ!」
それはさておき、本題に戻りましょう。
「で、空いたスペースに何を造るつもりですの?」
「にゃは、それはね……託児所なのさっ」
託児……所?
「何ですの、それは」
「え、託児所、分かんない?」
「子供を預かる場所なのは理解できます。しかし、何故その必要があるのか、理解に苦しみます」
孤児院の方が良いのでは?
「……あー……リファっちには難しいか」
「?」
「あのさ、リファっちはこの教会ができてからずっと、あちこちの孤児を保護する活動を頑張ってたよね?」
ええ。聖心教のシスターとしては、当然ですわ。
「その最初の孤児達は、今や子持ちなんだよ」
時が過ぎるのは早いものです。
「そのお陰で、子供を昼間預けて外で働きたいって需要が急増しててね」
成る程、働く女性を助ける為に必要なのですね。
「理解しましたわ。でしたら喜んで協力しますわ」
「本当に!? 良かったー、これで先生不足も解消されるぅ」
……はい?
……という訳で、冒頭に戻り。
「わ、わたくしがシスターリファリスでございます。よろしくお願いします」
……となったのです。ああ、主よ、これもわたくしへの試練なのですか?
リファリス、保育士に。




