聖女様の閑話
ウチは忘れない。
ウチは忘れない。
この屈辱を永久に忘れない。
奴隷の四人。
リブラ・リブラ元侯爵夫人。
リジー。
そして、リファリス。
この屈辱、未来永劫忘れない。
あれは、ウチ達が出発の準備が整い、明朝には発つ事が決まった日の夜の事だった。
「あーっはっはっは、それそれ飲め飲め」
「はーっはっはっは、それそれ飲む飲む」
笑い上戸気味なリブラ元侯爵夫人が酒瓶を担いで歩き回り、空いた器に注いでいく。無表情で笑うという、ある意味器用な真似をするリジーは、やはり無表情で器を空けていく。
「何でさっきからリジーの周りばかり、グルグルしていらっしゃるの?」
酒癖が悪いから、という理由で一滴も口にしないリファリスは、おつまみを用意したり片付けをしながら、元侯爵夫人の奇行の理由をウチに求めてきます。
「知らないよっ」
「魔女様ぁぁ、ヒック」
「魔女様ぁぁ、ウィィ」
「魔女様ぁぁ、ハァン」
「魔女様ぁぁ、アファ」
「ていうか、あんた達。誰の許しを得て、お酒を口にしているの!?」
北大陸だったら、酒を口にした時点で懲罰ものだよ!?
「「「「無論、聖騎士様ですわ」」」」
聖騎士様……つまり。
「うぃーっ」
リジーか!
「ちょっとリジー! ウチの奴隷に飲酒の許可を勝手に出さないでくれる?」
「うぃ? うぃーっ」
うぃーって、何が言いたいのかよく分からないんだけど。
「うぃーっ、うぃーっ」
「……リファリス、何でリジーはうぃうぃ言ってるの?」
「リジーの事は理解しようとしても無駄ですわ」
聖女様が匙を投げた!
「それよりアルフリーデ、貴女はお酒が好きでしたでしょう? どんどん飲みなさいな」
「え、あ、うん、頂きます」
再びなみなみと注がれるお酒。昔からリファリスは飲ませ上手だったな……グビ。
「う……気持ち悪い」
「う……吐きそう」
「う……リバースする」
「う……うええっ」
奴隷達が顔色を悪くする。飲んだ事が無いのに、あんなにガバガバ飲むから……!
「あら、いけませんわね……『内なる毒素を清めよ』」
パアアアア……
リファリスの浄化魔術がアルコールを完全に分解し、悪酔い状態だった四人を元に戻します。
「つまり素面に戻ったのだ。だからまた飲むのだ」
「せ、聖騎士様、流石にこれ以上は」
遠慮をするものの、注がれた器に手を伸ばすA……って、結局飲むのかよ。
「あっはははは、飲め飲め!」
「はっはははは、飲む飲む」
「ヒック、魔女様ぁ」
「ウィィ、魔女様ぁ」
「ハアン、魔女様ぁ」
「グーー、魔女様ぁ」
待って。D、寝てるよね。
散々飲み明かして全員が寝入った頃、ウチだけで大浴場へと向かう。
「酔い醒ましに長湯、これが堪らない」
あまり身体には良くないけど、たまにならいいでしょ。
スルスルッ
脱いだ黒い法衣を籠に入れ、ガラス戸を開く。
がらっ
「うっ、熱」
温泉の熱気が火照った身体を覆い、サウナに籠もってたくらいに汗が噴き出す。
「あっつ、あっつ」
ジャアアッ バシャア
「あ~~…………整うぅ……」
サウナ好きなウチにはこれが堪らない。うん、全身が整っていく。
「さぁぁて、じゃあお風呂に」
ガラッ
「「「「魔女様、ご一緒させて下さい!」」」」
……一人でゆっくり浸かろうとしている時に……!
「…………まあいい。許可します」
「「「「ありがとうございます!」」」」
四人は喜び勇んで、ウチの元へ駆け寄ってくる。
たゆんったゆんっ
ゆっさっゆっさっ
ばいんっばいんっ
ぶるんっぶるんっ
「っ…………が、我慢、我慢」
な、何でウチの奴隷達は、揃いも揃って立派なモノを……!
ガラッ
「あ、居ないと思えば」
「やっぱりここだったと思われ」
今度は元侯爵夫人と聖騎士かぁー!
「おーおー、仲が良いねえ。おねーさんも混ぜてよぉ」
リブラ元侯爵夫人も湯船に駆けてきて……。
ぶるるんっぶるるんっ
ぐぅ……! 聖心教内で一位二位を争う剣豪の身体は、それはそれは引き締まっていて、その割に出るとこ出てて……!
「あーもう、剣振るのに邪魔なんだよね……削ぎ落としたいくらい」
頂戴! 削ぎ落としたの、ウチに頂戴!
「うい、それは私も賛成と思われ」
徹底的にバスタオルで巻かれてる割に、綺麗なS字を描くリジーにも殺意が沸く。あ、だけどリジーの場合は、胸はそこまででは……。
「ちょっとリジー、バスタオル巻いたままで湯船に浸かるのはマナー違反よ」
「う、うい、取ります」
ハラリ
ばいいんっ
くああああああああっ! バスタオル外しただけで揺れる胸って何なの!? 重力無視するか!? 万有引力の法則覆すか!?
ガラッ
「あら、皆さんいらっしゃらないと思えば、こちらでしたの」
来やがったよ最終兵器! リーサルウェポン! ウチのトラウマの原因!
「ふう、わたくしも汗をかきましたから、少しお邪魔しましょうかしら」
そう言って法衣を脱ぎ、ブラのホックを外すと。
ばいんぶるるんたゆんたゆんっ
うぐああああああああ! 若き日の心的外傷が疼き出すううう!
「……どうかしましたか、アルフリーデ」
スタスタッ
ゆっっさっゆっっさっ
ぎゃひいいいいい! あり得ない擬音が響く! 歩くだけで響く!
「ちっくしょおおおおお! 覚えてやがれええええええ!」
現実に耐え切れず、湯船を飛び出す。
……………………。
ちっくしょお! 何でウチが走っても、何の反応も無いんだよおおおお!
ウチは忘れない。
ウチは忘れない。
この屈辱を永久に忘れない。
奴隷の四人。
リブラ・リブラ元侯爵夫人。
リジー。
そして、リファリス。
この屈辱、未来永劫忘れない。
明日から新章です。




