喧嘩腰の撲殺魔っ
手早く動き回る奴隷さん達の中に、〝魔女〟であるアルフリーデの姿もありました。
「魔女様、そこは私が!」
「いいからいいから! それよりBはドレスを片付けて!」
「それは既にCが」
「Cはまだ慣れていない筈だから、手伝ってあげて!」
「わ、分かりました!」
「……へえ、主人である魔女自ら動き回ってるんだ」
「相変わらずですわね。口より先に手が動くタイプでしたから」
「ま、魔女様! 何をなさってるんですか!?」
「何をって、ドレスを片付けて」
「そんな事をしたら、皺が入ってしまいます!」
「え、ええ。そ、そうなの?」
「そこは私がやりますから、魔女様は向こうで座っていて下さいな!」
「但し、本人は自覚していないようなのですが、非常に不器用なのですわ」
「ああー、結局は黙って座ってた方が、スムーズになるってヤツ?」
「いえ、不器用ではあるのですが、全体の流れを掴んで人を必要な場所に配置する事には長けていますの。だから」
「Aはそれが終わったら馬車の手配を! BとCはドレスが終わり次第、旅で必要な物を確保しなさい! Dは自分達の荷物を纏めなさい!」
「「「「はい、魔女様!」」」」
「アルフリーデはふんぞり返って指示を出していた方が、結果的に時間が短縮されるのです」
「……まあ、下手に口出して、現場を混乱させる能無しよりはマシね。それよりさ、リファリスと魔女さんって付き合い長いんだっけ?」
「ええ、まあ。同じ釜の飯を……というのですわね」
それを聞いていたリジーが、目をキラーンと光らせました。
「つまり魔女さんは、リファリスと寝食を共にしていた?」
「そうですわ」
「ねえねえ、昔のリファリスって、どんな感じだったの?」
「え、どんな感じだった、と言われましても……」
リジーのプッシュに、リブラも乗っかってきました。
「あ、私も気になる。特にこっち側に張られた結界の件で」
結界……ああ、アルフリーデが張った『隷属否定』のですか。
「あれは修行を終え、各々が自分達の国に戻ろうとしていた時に、国境での口論が原因で張る事になったのですわ」
あれはわたくしが〝聖女〟に、アルフリーデが〝魔女〟となる少し前でした。
「……ここでお別れですわね」
「ああ、やっと口五月蝿い管理ババアから解放される」
「こちらも、手の掛かるお子様からようやく解放されますわ」
バチバチッ
お互いに球と杖を取り出して、しばらく睨み合ってから。
「……止めましょう。ここで争って地形を変えてしまうと山の動物さん達に迷惑ですわ」
「……そうだね。山の動物には罪は無いからね」
お互いに武器を退きました。
「……さて、ではここでさよなら」
「だったらさ、魔術勝負にしよう、魔術勝負に」
「あの、さよならですわね?」
「さあ、勝負だ勝負だ。そうだな、お題は……」
「わたくしの話を聞いてますの!?」
さっさと故郷に戻り、手にした力を振るいたいのですが。
「そうだなあ、だったらお互いに、大陸を対象とした魔術を掛け合おう」
「大陸対象の、ですの?」
「ああ。ウチは…………南大陸に結界魔術を使う。リファリスは……」
「でしたら北大陸に向かって復活魔術を掛けますわ。まだまだ群雄割拠の途中ですから、亡くなる方には事欠かなくてよ」
「…………そうだね。それでいいや」
「でしたらアルフリーデ、聖心教で問題になっている闇賭博に対して、何かしら影響を及ぼせる結界を張って下さいな」
「は? な、何か滅茶苦茶ハードル上げてきたね?」
「そうですか? でしたらわたくしは百年遡って死者を現世に戻しましょう」
「……えーっと……百年遡って?」
「これでしたら、お互いに条件は同じくらいですわよ?」
「…………はあ……分かったよ、それで行こう」
「しゅ、修行を終えたばかりの新米が、いきなり大々々魔術を!?」
まあ……そうですわね。流石にわたくしも大変でしたもの。
「それって戦死だけじゃなく、病死や事故死、老衰も含めてって事だよね!?」
「勿論ですわ」
「……それを百年遡ってって……人口爆発で大変な事になったんじゃ……」
「ええ。戦争どころでは無くなり、群雄割拠の時代は終わりましたわ」
「……リファリス、それを狙ってた?」
「無論ですわ。北大陸の戦争の多さは、当時のアルフリーデが一番悩やまされていた、頭痛の種でしたもの」
「か、解消方法が斜め上すぎるんだけどっ」
「まあ、それに伴ってわたくしの長年の悩みも多少は改善されましたが」
「……リファリスの悩み?」
「はい。当時は禁忌である賭博行為が横行してまして、そこからの奴隷堕ちが社会問題になってましたの」
「……はい、終わりましたわ。これで人口爆発確定ですわよ」
「ウチも終わった。言われた通り、賭博行為をした者には制限を掛けたよ」
「制限とは?」
「お金の代わりに奴隷になる事を強要しないよう、隷属を否定する言葉を唱えるよう強制できる」
「隷属否定の言葉を?」
「ああ。唱えないと、色んなバッドステータスが降りかかる」
「……根本的な解決にはなりませんが……ある程度の抑止力にはなりますか」
「いやいや、リファリスのも根本的な解決にはなってないからね!?」
「……その結界が、今も生きてて?」
「はい。『隷属否定』の習慣になっていったのです」
「……新米魔術士同士の喧嘩が、現在まで影響を及ぼしてるのね……」
「流石はリファリスの幼友達、やる事が規格外」
そうでしょうか?
明日は閑話です。




