手を組む魔女と撲殺魔っ
「き、北大陸で魔物が確認されたぁ!?」
魔国連合大使館(仮)に突然やってきたルディとライオット公爵様は、最悪な凶報をもたらしました。
「うん。ライオンちゃ……じゃなくてライオットの『千里眼』で確認した。場所は〝魔王城〟の麓で」
「〝魔王城〟の!?」
アルフリーデが大きく反応します。魔王教にとっての聖地ですから、無理はありませんが。
「うん。魔物は真っ黒な狼で、他の大陸でも確認されたポピュラーなヤツだね」
「……生きとし生ける者全ての敵相手に、ポピュラーも何もあったもんじゃないような……」
「まあ確かにそうなんだけど、実際に一番目撃例が多いのが狼なのよね」
ルディの言う通り、狼型の魔物が一番多いようです。絶滅に近い被害を受けた大陸からも、無事に逃げおおせた方々はいらっしゃって、その目撃証言が貴重な魔物対策の根本となっています。
「それより、何故魔王のお膝元に魔物が……?」
リブラの一言は、わたくし達全員の気持ちを代弁したものでした。
「…………魔女っちさん、アタシの推測を話してもいいかな?」
「……大司教……様が?」
「うん。ただね~……魔王さんの悪口になっちゃうかも……って内容なんだよね」
魔王の悪口、それは魔王教信者にしてみれば、わたくし達の主を辱められるのと同等の行為です。
「……言おうとしている事は分かる。ウチですらも、考えてしまったし」
「……魔女様……それはつまり……」
「魔王様も……既に?」
「いや、その方がマシかもね、にゃは~……」
魔王の魔物化、の方がまだ救いがありますものね。
「つまりルディは、魔王が魔草をばら撒いているのではないか、と言いたいんですの?」
ザザッ
わたくしの一言で、聖心教と魔王教の壁が現れました。
「聖女様! いくら魔女様の命の恩人とは言え、魔王様を愚弄するならば許しませんぞ!」
「言って良い事と悪い事があります!」
奴隷さん達が各々で武器になりそうなものを手に取り、わたくしを睨みつけます。
「リファリスに刃を向けるつもりなら、命の保証は無い」
「聖騎士である私を倒さずに、リファリスには指一本触れられないと思え」
リブラとリジーが愛剣を携えて、わたくしの前に立ちはだかります。
「止めなさい」
「お止めなさいな」
わたくしとアルフリーデの言葉によって、一触即発だった空気は霧散しました。
「ま、魔女様!?」
「争ったって、貴女達が勝てる相手だと思う?」
武家出身のリブラ、本職が剣士のリジー。戦い慣れていない奴隷さん達では歯が立たないでしょうね。
「で、その後に血祭りにあげられるのは、ウチになるね」
「なっ!?」
「そうなるんじゃない。逆の立場だったらって考えてみな」
主人であるアルフリーデに諭され、奴隷さん達は手にしていたものを離しました。
「……リブラ、リジー、もういいですわ」
「……了解」
「ういー」
二人も武器を仕舞い、ようやく剣呑な空気が消えました。
「大変無礼な事を申し上げたのは理解しています。ですが、その可能性を考慮しなければならないのです」
「リファっちが代わりに言ってくれたけど、実はアタシもそう言おうと思ってたんだ」
「……く……な、何故そう考えるのですか!?」
「じゃあ聞くけど、貴女達が崇拝しているであろう魔王様は、自分の本拠地の周りを敵に彷徨かせるような、愚か者の昼行灯?」
「なっ!? 言うに事欠いて、愚か者!?」
「そんな筈が無いでしょう!」
「なら、城の周りを狼がウロウロしてるのは何故?」
「そ、それは……」
「どちらにしても、魔王に何か起きているとしか考えられないの……ゆーあんだーすたん?」
魔王が魔物化している可能性があるのでしたら、しなければならない事は沢山あります。
「ルディ、北大陸からの」
「分かってるよーん。もう陸路は封鎖してるし、港でも北大陸からの便は接岸拒否ってる」
流石に早いですわね。
「あ、魔国連合には?」
「さっき念話で警告した。どうするかはあちらさん次第だけど、上に賢明な人が居れば大丈夫じゃないかな」
上に、賢明な人……。
「……言っとくけど、ウチは今回の戦争には反対だったからね」
「「はい、賢明な人発見」」
「は?」
……成る程、ルディとリブラの言いたい事が分かりましたわ。
「既に魔草の危険度を体感したアルフリーデを帰国させ、検疫強化の旗振り役を担ってもらうのですね?」
「にゃは~、そのとーりぃ。こっち側で魔草の存在を確認したって事で帰国したんなら、魔国さんは何も言わないって」
「逆に感謝されるだろうねー」
それに魔女の立場にあるアルフリーデなら、魔王教信者の信頼は絶大……な筈。旗振り役としてはもってこいですわね。
「魔女様、大司教様や聖女様の仰る通りです」
「一日も早く帰国して、対策を検討しませんと」
奴隷さん達もプッシュしてくれます。
「…………そうね。北大陸がその状態ならば、魔国連合も時間の問題。ならば、今のうちに手を打たなければ」
そう言ってアルフリーデが立ち上がります。それを合図に奴隷さん達が急いで荷造りを始めました。
「……リファっち、アタシ達も準備を始めないと、だね」
「そうですわね。港での水際対策を万全にしなければ」




