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〝魔物〟と撲殺魔っ

 聖心教の内部分裂を起こそうとしていた〝魔女〟アルフリーデの潜入工作は、わたくしの妨害によって破綻しました。


「い、命は助けてもらったけど、悔しい! 口惜しい!」

「魔女様……このような狭い空間に押し込められて……ポッ」

「魔女様……肌と肌が触れ合って……ポッ」


「ポッ、じゃないよ! あんた達は悔しくないの、この状況!?」


「悔しがる魔女様も……ポッ」

「全てを曝け出して下さる魔女様も……ポッ」


「だから、ポッじゃなくて……ひぅ!?」

「魔女様ぁ」

「魔女様ぁぁ」

「ちょっと、何処を触ってるのよ、奴隷A!」

「魔女様ぁぁぁ」

「だ、だから、変なとこを触らないでひゃん!」

「魔女様ぁぁぁぁ」

「な、舐めるな、摘まむなぁぁ、な、何で脱がせて…………あ」


 ……牢に閉じ込められた魔女は、何故か一日中艶っぽい声を放ち、看守達を悩ませたそうです。



「……という訳ですわ。これで魔王教の企みも露見しました」


 大司教猊下はわたくしの報告を聞き終えますと、深い深いため息を吐かれました。


「……まさか禁忌の草を持ち出してくるとはな……」


「ええ。わたくしも想像もしていませんでしたわ」


 その後、アルフリーデに魔草の毒を渡した者が居る事を魔国連合側に伝え、徹底的な取り締まりを依頼しました。如何に敵国とは言え、一度は世界を滅ぼしかけた猛毒が関わっているとなると、話は別です。魔国連合も事の重大さを理解し、国を挙げて対応すると約束して下さいました。


「いくら魔王教とはいえ、魔草まで持ち出してくるとは思えぬ。やはり内部に過激派が居るのであろうな」


「はい。どこにも跳ねっ返りは居るものですわ」


 聖心教内にすらも「跳ねっ返り」は存在します。魔王教内にも居て当然でしょう。


「……魔国連合に派遣した駐大使より、その件に関わりがありそうな報告があがっておる」


 駐大使……ジョウさん夫妻ですわね。


「まずは過激派についてだが、真魔王教を名乗る者共が急激に勢力を拡大しておるそうだ。話を聞く限りでは、此奴等が魔草をばら撒いていると考えるのが自然だな」


「……大司教猊下は何故にそう考えますの?」


「簡単だ。真魔王教の教義は『魔王による世界統一の実現』だからな」


 魔王による世界統一、ですか。


「別に今更感しかありませんが?」


「問題は、その手段だ。現在の力関係を考えて、魔王に世界統一が可能だと思うか?」


 ……現在の勢力は、魔王教側と聖心教側で拮抗している状態です。おまけにどちらも一枚岩とは呼べないのですから、どうにか均衡を保っている、と言うのが正解でしょう。


「……魔王教の全ての勢力が結集したのならば……あるいはそれは可能なのかもしれません。しかし穏健派が主流になりつつあると聞いていますから……」


 穏健派、いわゆる保守派の台頭により、最近は魔王教との戦闘は随分と少なくなっていたのです。今回の戦闘も本当に久し振りでした。


「うむ、そうだな。その通りだ。しかし魔草が持ち出されたとなると、話は変わってくる」


 魔草の本当の恐ろしさ。それは致死率でも常習性でも無く、その毒によって死んだ後に起きる事なのです。


「肉体の大幅な変容、理性の崩壊、そして…………生物であれば何でも食らおうとする……凄まじい食欲(・・・・・・)


 そうです。他の大陸が滅亡した理由が、この魔草による魔物化なのです。


「食われた者は息絶えたとしても、魔草の毒によって魔物化する。その連鎖によって生物は次々に魔物化していき……最終的に食べるべき者が居なくなると魔物同士が共食いをし……」

「全て居なくなる、でしたわね」


 この連鎖によって他の大陸は生物が何も居ない、真の荒れ地になったのです。


「南西諸島で魔草の被害が出た折、当時の魔王が軍を動かして徹底的に隔離した事により、南北大陸への侵入を阻止したのでしたね」


 その後、魔王教と聖心教が手を組み、大陸内に自生していた魔草の徹底的な駆除を行いました。


「そうだ。この大陸からは、魔草は根絶させた筈……だった」


「……だから申し上げたではありませんか、四百年前のあの日に」


「……そうだったな。四百年前の、あの日か」



 ……うぬぬぬ……やはり違うのう。


「どうかな~、ライオンちゃん」

「……ルーディアよ、何回も言うておるが」

「はいはい、ワシはライオットだ、って言いたいんでしょ、にゃは~」

「全く……耳にできたタコが穴を鬱いでおるのではないか……ん?」


 此奴らは……魔王教の幹部連中じゃな。


「ふむ、追ってみるか」


「ごめんねーライオンちゃん。急な頼みで」


「流石に魔草が関わっておるなら、文句は言えんからの…………む?」


 あの山は魔王教の聖地〝魔王城〟ではないか?


「確か現魔王は魔王教信者が近付くのを禁じておる筈……どういう事じゃ?」


 うーむ、流石にこれだけ距離が離れておると、ワシの『千里眼』も届きにくい……。


「…………ん? んん?」


 お、狼の群れかの? 急に魔王教の連中を囲んで…………なっ!?


「狼が魔王教信者を襲い始めおった!」

「まあ……狼が人を襲うのは、珍しくないでしょ」

「いや、ただ襲っておるのではない! 人間を……食ろうておる!」


 ワシの目の前で、女の首筋が食い裂かれておる。


「……どんな狼?」


「……黒い……真っ黒な狼じゃ。古より伝わる、魔物と同じ特徴じゃな」

新たな敵が。

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