解毒の撲殺魔っ
「も、もう嫌です……」
「し、死んでばかり……」
「ま、魔王様……試練がキツいです……」
もう一度チェックしてみます…………はい、ちゃんと毒素は全て排出されていますね。
「さて、最後に……アルフリーデ。貴女の番ですわ」
「……ウチも撲殺されないと駄目なの?」
「魔草の毒で苦しみ抜いて死ぬか、ここでわたくしに痛み無く撲殺されるか、どちらかですわ」
「…………何なのよ、その究極の選択…………」
頭を抱えるアルフリーデに、奴隷達が寄り添います。
「魔女様、お気を確かに」
「魔女様、怖くありませんわ」
「魔女様、本当に痛くもありませんでした」
「魔女様、ここは聖女様を信頼なさって」
「ち、違うの。別に怖いだとか、死ぬのが嫌だとか言ってるんじゃない」
「で、では、どうなされたのですか?」
「そ、それは……」
何かしら相談なさっているようなのですが……早くしてほしいですわね。
「アルフリーデ、魔草の毒は刻一刻と貴女を蝕んでいるのですよ?」
「分かってる、分かってる…………だけど」
「魔女様! お気を確かに!」
「魔女様! 一瞬ですから!」
「魔女様! ふぁいとーですよ!」
「魔女様! 一欠片の勇気を!」
「わ、分かってるって言ってるでしょ! だから…………うぅ?」
グラアッ
アルフリーデが急に身体を傾けました。
「「魔女様!!」」
奴隷さんが二人がかりで受け止めます。
「不味いですわ、急性中毒を起こしています。今すぐに処置しないと……!」
「魔女様!」
「早く、さあ!」
朦朧としているアルフリーデは、それでも。
「ウ、ウチは、撲殺されるのは……」
「何を言ってるんですか!? このままでは、魔女様は!」
「リ、リファリス……リファリス……」
わたくしの名前をただ呼ぶだけ。これはもう……。
「撲殺が嫌なら刺殺で」
ブスッ
「ぎゃーっ」
………………は?
「リファリス、ほら死んだ。今のうちに、復活復活」
と、突然割り込んできたリジーの剣で、心臓を貫かれて息絶えるアルフリーデ。
「ほらほら」
「え、あ、はい。『彷徨いし魂よ、肉体に戻れ』」
パアアアア……
「……っ……うぐっ…………ごふっ、ごふっ!」
「「「魔女様ぁ!!」」」
無事に生き返ったアルフリーデの身体を調べます…………くっ、しつこい毒ですわね。
「まだ完全に抜けきってませんわ」
「ゲホグホ……ま、まだ、なの?」
「仕方ありませんわね。もう一度」
「あいあいさー」
ブスッ
「ぎゃーっ」
わたくしの杖より先に、リジーの剣が再び煌めきました。
「リ、リジー。わたくしが手を下した方が、浄化効率が上ですのよ」
杖を打ちつけたタイミングで、浄化魔術を体内に直接流し込むのです。
「それは失敬。次回からは任せる」
……まあ、いいんですが……とにかく復活ですわね。
「『再び彷徨いし魂よ、肉体に戻れ』」
パアアアア……
「……ぐふぁ!? ゲホゴボ…………は、はぁ、はぁ、はぁ」
「「「魔女様ぁ!!」」」
生き返った割には顔色が悪いようですので、もう一度チェックしてみます。
「…………あと少しだけ、ですわね。これくらいでしたら」
「待って!」
再び杖を手にすると、またアルフリーデが制止してきました。
「何ですの? 微量でも体内に残すのは危険ですわ」
「そ、それは分かってる。分かってるんだけど……」
何か……言い辛そうなのですが。
「何ですの? 早く治療した方がいいのですから、言いたい事があるのでしたら手早く」
「あ、あのさ、ウチが嫌なのは、死ぬ事でも痛い事でも無くて」
はい?
「ウチは……ウチは……リファリスに殺されるのが我慢できないんだよ!」
…………はいい?
「なら私が」
ブスッ
「ぎゃーっ」
ま、またリジーですの!?
「ぐふっ……い、いいよ。や、やっぱり、リファリスに殺されるより、何倍も、マシだ」
「あ、いえ、そうではなく……今回は解毒魔術で何とかなりそうでしたの」
「え゛っ」
「リファリス、魔女さん、つまり死に損?」
まあ……そうなりますわね。
「無意味に痛くて苦しかっただけ?」
まあ……そうなりますわね。
「は、早く言ってよお」
「同じく」
「まあ、今更仕方ありませんわ……それよりリジー、心臓から外れてますわよ」
「え。あ、本当だ。失敗失敗」
ブスッ
「ぎゃーっ」
「あれ、また違った。えい」
ブスッ
「うぎゃーっ」
「あれれ~、また失敗した~」
ドスブスブスッ
「うぎゃぎゃーっ」
「リジー、遊んでないで早く殺しなさい」
「はーい」
「あ、遊んでたのかよ……がくっ」
「リファリス、あの呪剣士寄越せっ。ぶっ殺す、骨の一欠片も残さん」
「魔女様、いけませんわ」
「魔女様、はしたないです」
「駄目ですわよ。わたくしの大切な聖騎士なのですから」
「そーだそーだ、べー」
そう言ってわたくしの後ろで舌を出すリジー。
「うっがあああああっ! もう下手に出る理由は無い! 城ごと吹っ飛ばしてやるぅぅ!」
そう言って特大の『闇球』を作り始めました。あれは不味いですね。
「本当に吹っ飛ばしかねませんわ、あの大きさは」
「えええっ!? そ、それは流石に……!」
仕方ありません、手加減無しで撲殺するしか……。
「皆、オラに呪いを分けてくれ!」
……はい?
「食らえ、『呪い玉』!」
グゴゴゴゴゴゴゴ……
「なっ!? ウチの『闇球』より大き……」
ガガアアアアアアン!
「うっぎゃああああああ!!」
「……な、何よ、呪い玉って……」
「わ、わたくしに聞かないで下さいまし……」
……ますますリジーが分からなくなりました……。
理屈は元気玉と同じ。




