大量殺戮と撲殺魔っ
「ケガレグサが……三つの大陸を?」
「リジー。先程も言った通り、その呼び名は禁句ですの。普段は魔草と呼んで下さいな」
「ま、魔草……分かたある」
わかたある?
「…………ま、まあ、気にしても仕方ありませんわね。リジーの不思議語は今に始まった事ではありませんし」
「リファリス?」
「あ、ごめんなさいね。魔草の話でしたわね……一言で言ってしまえば、恐ろしく常習性のある猛毒です」
「常習性のある猛毒? 猛毒の時点で常習性も何もあったもんじゃないと思われ」
「毒と言っても即効性がある物ばかりではありませんわ。遅延性の猛毒もありますのよ」
「……でも、そういう毒物だったら、摂取しなければ問題無いのでは?」
「それが魔草の恐ろしいところなのです。一度摂取しただけで、凄まじい中毒症状を引き起こすのです」
「だから、摂取しなければ無問題では?」
「魔草、旧名ホマレグサ……それはこの世界で広く親しまれていた、砂糖の原料だったのです」
「………………は?」
「魔草は根に大量の糖分を含んだ球根を作り出します。球根から抽出したのが、当時一般的に出回っていた砂糖でした」
「さ、砂糖? 砂糖さんが猛毒?」
「いえ、元々猛毒だった訳では無く……ある日突然猛毒化したらしいのです」
「…………何故に?」
「それが分からなかったから、事態は重大だったのですわ。何せ砂糖は全世界に当たり前のように使われていたのですから」
「じゃ、じゃあ、普通の砂糖が突然……猛毒に?」
「……はい。微量に摂取していた者も、毒の常習性に負けて……」
「し、死ぬと分かっていて、自ら毒を?」
「…………最初に始祖大陸が滅び……その後に聖大陸と人外大陸、更にその他の島国も……。結局サトウキビの砂糖が一般的だった南北大陸のみが滅亡を免れたのです」
「つまり……ここ?」
「はい」
わたくしの説明を聞き終えたリジーは、若干顔色を悪くしながらも、気丈に顔を上げました。
「それ、聞いた事がある。他の世界に『麻薬』って言われてるのがあって、よく似てる」
「麻薬……ですの?」
「うん。毒性は魔草程じゃないけど、それでも常習性があって恐ろしい薬だった」
「……解毒する方法は……ありますの?」
「…………分からない。そこまで深く調べなかったから」
そう……ですか。
「それより手紙の中身じゃないの?」
「あ、そうですわ! 中身は魔草の花の粉で、持っていた方々にも影響が及ぶ程の量なのです!」
「ええっ!?」
「わ、私達に猛毒が!?」
周りにも影響、と聞いた奴隷さん達がざわめきます。
「ウ、ウチの奴隷達に、魔草の花の粉が!?」
ブウウウンッ!
殺気立つアルフリーデが、怒りのままに『闇球』を作り出しますが……。
「待って。ここでそれを作り出しても、何の意味も無いでしょ」
「う……そ、そうだね……」
ウウ……ン
リブラに諭されて魔力球を霧散させます。
「どちらにしても、ここで手紙を出した時点で、部屋に居る全員に影響が及んでいる筈です」
「そ、そんな猛毒が私達の体内に!?」
奴隷さん達だけではなく、リブラとリジーも顔色が悪くなります。
「し、死んじゃう!? 私達、死んじゃうの!?」
「リジーはともかく、リブラは大丈夫じゃありませんの?」
デュラハーンであるリブラは、アンデッドですからね。
「いや、魔草の毒って何が相手でも関係無いんじゃない?」
「まあ……それは否定できませんが」
「そそそそれより、わわわ私達死んじゃう死んじゃう死んじゃううっ!?」
焦るリジー、呆然とする奴隷さん、泣く奴隷さん、主人に寄り添う奴隷さんと奴隷さん、寄り添われる主人。
「……効果があるかは分かりませんが……わたくしが浄化してみましょう」
今まで魔草の花の毒を浄化できた例はありませんが、狭い空間で対象が絞り込めていますから、反響を利用すればあるいは……。
「『聖域展開』」
魔術を阻害する結界を部屋中に張り巡らせます。
「結界? 一体何のつもり?」
「シッ、今はリファリスを信じて待とう。集中を切らせては駄目」
リブラは信じてくれているようですが、上手くいくかは不透明です。
「……『邪悪なる毒を清めたまえ』」
パアアアア……
解毒魔術を壁に向けて放ち、結界によって反響を起こさせます。
「『浄化』『解毒』『浄化』『解毒』」
解毒魔術を繰り返して唱え、反響させてはわたくしに集中させます。
「……これは……『癒せ』」
最後に回復魔術を自らに掛けて……完了です。
「ふう……わたくしで試してみましたが、何とか解毒できました」
「本当に!?」
「流石は聖女様!」
……しかし……。
「……わたくしとリブラ、リジーはそこまで被毒してませんので……」
「え……ま、まさか……」
「はい……アルフリーデと奴隷さん達は、毒が既に全身に回っていますわ……」
「つ、つまり……」
「もう……解毒は不可能です」
それを聞いた奴隷さん達が崩れ落ちます。
「ですから……荒療法を施します」
「「「荒療法?」」」
聖女の杖を構え、宣告します。
「はい。一度死んで復活すれば、体内の悪い物も消えます」
「「「……え?」」」
「ですから……皆さん、撲殺致しますわ♪」
「「「へっ!?」」」
「さあさあ、意外に楽しい時間になりそうですわ……あはははは、あははははははは!」
悲壮感漂う空間に、わたくしの笑い声と奴隷さん達の悲鳴が響きました。




