追及する撲殺魔っ
ドサドサッ!
天井裏に潜んでいた奴隷達は、全てリブラが捕らえてきました。
「つ、疲れた……流石に狭い天井裏で逃げ回る連中を、殺さず怪我をさせずに捕まえろって、無茶すぎよ!」
「悪かったですわ。後で何かご褒美を考えておきますから」
ご褒美、という言葉を聞いた途端、リブラは妖しい視線をわたくしに向けてきました。
「……いいの?」
「え?」
「本当にご褒美を考えてくれるの?」
「え、ええ……な、何ですの?」
「…………まあいいや。後から話そう」
リ、リブラがいつもと雰囲気が……?
「わ、分かりましたわ。この話は追々……」
そう言うとわたくしは、怯えて身を寄せ合う奴隷達に視線を向けました。
「それでは……まず貴女方に伺います。アルフリーデ直属の奴隷という事で、間違いありませんわね?」
そう問われた奴隷達は、戸惑いながら何かを話し……。
「……はい、私達は魔女様にお仕えする奴隷でございます」
認めました。
「では、何故に天井裏に潜んでいたのですか?」
「……魔女様の、お世話をさせて頂く為でございます」
……質問を変えましょうか。
「では、何故に天井裏に潜む必要があったのですか?」
「……と、言いますと?」
「主人であるアルフリーデの世話、という目的があるのでしたら、正々堂々と聖心教側に打診すれば宜しかったのではありませんの?」
「そ、それは……」
「待って、そこからはウチが説明するから」
アルフリーデはいつものようなふてぶてしい面構えでは無く、少し焦りが混ざっているように思えます。
「はい、何でしょう」
「魔国連合大使として、無断で奴隷を連れ込んだ事は謝罪します」
「では、先程と質問内容は重なりますが、何故申告されなかったのですか?」
「それは……ここが聖心教の影響下にあるからです」
……そう言い訳するおつもりですのね。
「つまり、普段連れている奴隷達を自分の側に置く事は、奴隷そのものを禁止している聖心教側では難しい、と判断したと?」
「そう。魔王教では当たり前の事が、聖心教では禁忌となっている。絶対に折り合えないと分かっていて、正面からぶち当たる意味がある?」
「……つまり、聖心教側から許可が出る筈が無い、と仰りたいのですわね?」
「そうよ。だから無断で連れてきた」
嘘ですわね。
聖心教側とて頑なに拒否するつもりはありません。特に、事と次第によっては再び戦火が上がる可能性がある、一触即発の今は。狡賢いアルフリーデが、その辺りの事情を理解していない筈がありません。
「……ですが、無断で奴隷を連れ込んだ事実が消える事はありません」
「それは……それこそ超法規的処置をお願いするしかありません」
「超法規的処置を望むのでしたら、最初から外交ルートでそれを要求すれば良かったのではありませんの?」
「これはあくまでウチ個人の事情。国対国のテーブルに乗せる事はできません」
「なのに、勝手に奴隷を連れ込んで、見つかったら超法規的処置の要求。あまりにも自分勝手ですわね?」
「……責任はウチが取る。奴隷達はウチの指示に従っただけ。だから」
「奴隷にはお咎め無し……という訳には参りませんわよ」
アルフリーデの表情が歪みます。それはそうでしょうね。
「今回の場合、奴隷達は密入国したと見なされます。貴女方魔王教では、国家間を無断で往来した奴隷は、弁明の機会も与えられずに縛り首でしたわね?」
「……っ」
アルフリーデが泣きそうな顔をしています。おそらく、それを一番恐れていたのでしょう。
「大使であるアルフリーデ自身が今回の密入国に加担していたのならば、その責任を魔国連合に問う事になります。つまり、貴女方のせいで再び血が流されるのです」
スパイ行為と見なされても仕方が無い今回の案件、停戦合意の条文に明らかに違反しています。つまり、聖心教側にとっては、再び攻め込めるだけの大義名分ができた訳です。
「さあ、それを踏まえた上でもう一度問いましょう。奴隷の貴女方はアルフリーデの指示によって密入国しましたの? それとも、己の意志で密入国しましたの?」
「だから、それはウチが」
「私達の意志で密入国しました!」
奴隷の一人が上げた声が、アルフリーデの口を一瞬縫い付けました。
「私も自分の意志でアルフリーデ様を追いかけてきました!」
「わ、私もです!」
「私も!」
「私もです!」
「な……黙りなさい!」
「いえ! ここで再び戦端が開かれてしまっては、魔女様の責任を追及されるのは必至。ならば私達が勝手に密入国をし、勝手に処分されたのならば、その責任は強く魔女様に及ぶ事はありません!」
「だ、だからって!」
「……宜しいんですの? 先程言った通り、その身は縛り首。つまり、命はありませんわよ?」
「元よりその覚悟! 魔女様の足枷になるくらいでしたら、我等は喜んで処刑されましょうぞ!」
「黙りなさい! 命令です、黙りなさい!」
「いえ、今回ばかりは命令に従えません!」
そこまで聞いてからわたくしは、賛辞を込めた拍手を送ります。
「敵ながら天晴れな覚悟ですわ。ならば、その命と引き換えに、今回の事は不問に致しましょう」
「あ、ありがとうございます!」
「駄目! 駄目駄目駄目駄目! そんなの駄目ェェェェ!」
アルフリーデが感情を露わにするなんて、久々に見ましたわ。
「アルフリーデ、貴女が何を言っても、もう無駄ですわよ」
「リファリス、お願いだから見逃して!」
「もう一度言います。無駄ですわよ」
そう言ってわたくしは、聖女の杖を取り出し。
「……せっかくですわ。わたくし自ら、貴女方に引導を渡して差し上げますわ…………あははは、あはははははははははははは!」
……嗤いました。




