腹を探る撲殺魔っ
『…………むっ』
『どうしたの?』
『魔女様……この壁の向こう、誰か居ます』
っ!?
『まさか、聞き耳を……調べるよ』
『はっ!』
ま、不味いですわ!
「リ、リジー、隠れる場所はありますの?」
「ひ、一人分がやっとと思われ!」
一人分……!
「……時間がありませんわ……リジー、貴女が隠れなさい!」
「え。リ、リファリスはどうするの?」
「何とかしますわ。早く!」
「う、うん」
ゴソゴソ……
……よし、上手く隠れましたわね。
「後は、リブラ。大変申し訳ございませんが……」
「え」
ビリィィィッ
……絹を裂く音が室内に響きました。
「この部屋のようです。まずは私が確かめて参ります」
そう言って奴隷Aがドアをそっと開き、中の様子を見る。
「…………」
「……どう?」
「…………」
「誰か居るの?」
「…………」
「ちょっと?」
「え!? あ、はい」
何故か慌てた様子でドアを閉める。
「え、あ、そ、その」
「落ち着きなさい。深呼吸して」
「あ、はい、すぅーっ、はあーっ」
何度か大きく呼吸させてから、奴隷Aに再び問う。
「いい、もう一度聞くわ。何か居たの?」
「え、あ、は、はい。じ、実はその……」
ドアに視線を向けてから、顔を真っ赤にして俯いてしまう。
「ちょっと、ちゃんと報告してくれないと分からないじゃないの。本当にどうしたの?」
「あ、あの…………な、中は……物置でして……」
「物置だったの? なら、中には誰も居ないんじゃないの?」
「え、は、はい。誰も。誰も居ませんでした!」
様子がおかしいと感じたのだろう。奴隷Bがドアを開く。
「……っ!?」
「何かあった?」
「え!? あ、いえ、物置で……あ、はい、物置です、はい……」
ギィ……バタン
「お、おそらく鼠ですね。鼠がゴソゴソしていたんですよ、あははは……」
ね、鼠?
「あ、はい。鼠です鼠。魔女様に見せられるようなものではありませんよ」
「そ、そうそう、鼠、鼠です」
…………?
「……まあいい。貴女達が言うのなら、間違い無いのでしょうし……戻りましょう」
「は、はい」
「……ね、ねえ。あんたは……何が見えた?」
「……か、絡み合う……足」
「そ、そう……わ、私も、それが見えた……」
「そ、それに……あの声……」
「う、うん……聞いてるこっちが恥ずかしくなってきちゃった……」
「……上手く誤魔化せましたわね」
スカートを裂き、わざと絡み合わせて……。
「…………」
「リブラ、行きましたわよ」
「い、いき……」
「何を誤解なさってるんですの? 上手くいった、と言っているのです」
「え、いって、上手くいって、いっている!?」
……撲殺しようかしら。
「貴女の頭が逝ってどうするのですか」
「え、いってたのはリファリス」
「演技ですわ。何もしていないのに、そんな状態になる訳無いでしょう」
「えええ演技!?」
わたくしと同じようにスカートを裂かれたリブラは、太ももを晒している事を気にも留めずにわたくしに食って掛かります。
「ど、どうして演技できるの! ま、まさか、そういう経験がっ」
「ま、まあ、無いと言えば嘘になりますが……」
「あいうええええっ!?」
何ですか、その妙ちくりんな驚き方は。
「けけけ経験があるってあいうええええっ!」
「ですから、同じような危険な状況に陥り、同じような誤魔化し方で事無きを得た経験があるのですわ」
「かきくけええええっ…………え? あ、演技の経験の話?」
「それ以外に何があるのです!?」
「あ、だから、女同士で絡みいったああああああい!」
くだらない事を言ってないで、さっさと戻りますわよ!
「うう、いったああい……」
「…………リブラ」
「いたた……何よ」
「生殺し」
「ううううっさい!」
「……まさか、あのような関係があったなんて……」
わたくしが最後まで対立した案件が奴隷でしたが、アルフリーデは奴隷とは主従関係では無く信頼関係で結ばれていたのですね……。
「リ、リファリス、ただいま戻りました」
「戻りまして候」
「はい、ご苦労様でした。その後の様子が如何でしたか?」
「うん、適当な理由を付けて部屋に行ってきたけど、さっきよりは全然落ち着いてた」
「天井裏に数人の気配あり。但し敵意は無く、どっちかと言えば戸惑った気配がありあり」
それはそうでしょうね。
「どちらにしても、奴隷をあのように遇してらっしゃるのですから、酷使されている事は無いのでしょうし……」
これは正面から堂々と話し合った方が良いかもしれませんね。
コンコンッ
「はい」
『アルフリーデ、わたくしですわ』
「リファリス!? ちょ、ちょっと待って」
慌てて奴隷達を下がらせると、身なりを整え。
「……はい、どうぞ」
ガチャ ギィィ
リファリスと護衛のリジーが入ってくる。
「何か用?」
「そうですわね…………お互い間怠っこしい言い方は避けましょう。貴女、奴隷をどうお思いかしら?」
……確かに間怠っこしくはないけど……絶対に折り合えない話題を振ってきた。何を考えているのやら。
「それは勿論、絶対に必要なものです」
ウチにはこう答える事しかできないと、骨身に染みて分かってる筈だよね、リファリス。
「ですわね、貴女には」
……ん?
「確かに貴女には必要不可欠ですわねぇぇ……上にいらっしゃる、大事な大事な奴隷達は」
っ!?
「な、何の事やら」
「あらぁぁ、いつもわたくしと一緒に居るリブラが、ここに居ない理由……分からなくて?」
……ま、まさか!?
ドタン! バタバタバタバタ!
「天井裏での大捕り物が始まりましたわよ」
な、なぁ!?
魔女、追い詰められる?




