様子見の撲殺魔っ
「もういい。もういいわ」
そんな楽しい(?)毎日が続く中、ついにアルフリーデが音を上げました。
「……どうかしましたか?」
「どうかしましたか、じゃないよ! 何で魔国連合大使であるウチが、こんな山城で何日も籠もってなくちゃならないの!?」
「……何で、と言われましても……ねえ?」
「私達は大使様をお持て成しするように、と言われただけだし……」
「私は護衛するように言われた。うむ、異常無し」
「……持て成してるつもりなの、これで?」
「そう言われましても……ねえ?」
「私達は精一杯……ねえ?」
「うむ、異常無しで……ねえ?」
「何が『ねえ?』なんだよ! 一国の大使を持て成す立場なんだから、もっとウチを楽しませてよ!」
「楽しませて……と言われましても。こんな何も無いド田舎ですから、娯楽と言えるものに乏しいのは仕方ありませんわ」
「そう思うんだったら、大使館を他に移してよ!」
「「それは無理」」
「即答!?」
リジーとリブラの反応は至極当然ですわ。
「貴女、今の自分の立場が分かってらして?」
「だから、ウチは魔国連合の大使……」
「敵国の魔国連合の大使、ですわね」
「う……」
「敵国の大使なのですから、無闇に国内を見て回られては困ります」
大使であるアルフリーデに見せたものは、全て魔国連合に情報として渡ると思わなくてはならないのです。そして、それが如何なる事態を招くかは……想像に難くないでしょう。
「魔国連合に渡ったこちら側の大使も、おそらく貴女と同様の待遇を受けているでしょう」
尤も、諜報部隊を束ねていた隊長と元忍者の二人です。必要な情報は上手く集めているでしょうが。
「つまり大使となった貴女は、最初から『籠の中の小鳥』になる運命でしたのよ」
「っ……!」
「……これだけハッキリ言えば、現在の自身の立場はお分かり頂けたでしょうね……では大使様、どうかお心穏やかに、大人しくお過ごし下さいませ」
アルフリーデに何か言い返す間を与えずに、わたくし達は部屋を後にしました。
バタン
「…………」
……ギリッ
「…………ソが」
ギリリッ
「……クソが」
ギリリッギギギギッ
「クソがクソがクソがクソがクソが!」
ギギギギギギッメキッ
「クソが! クソが! クソがクソがクソがクソが!」
メキメキメキッ バギィ!
「クソがああああああああああああっ!!」
「……暴れますわね、あれは」
「リファリス、煽るねぇ」
「でも、煽りたくなるの分かる」
ゴガンッ! ボキィ
『いったああああああああい!』
「あ、またやりましたわね」
「骨折れたんじゃない、あれは」
「痛そう」
アルフリーデの部屋を出てすぐに、隣の物置部屋に入り、聞き耳を立てていたのですが。
『いったいいったいいったああああああい! 何だってのよおおおおおお!』
……相変わらず八つ当たりが酷いみたいですわね。
「で、どうするの、あれ?」
「どうするも何も、このまま面倒を見続けるしかありませんわ。腐っても魔女です、放っておいたら何を仕出かすか分かったものじゃありません」
「リファリスから魔女が腐ってる判定頂きました」
いえ、実際に腐ってますから。
『うああああっ! 聖心教のヤツら、ウチから奴隷共を引き剥がしやがってえええっ!』
「……あの様子ですから、おそらくは奴隷達に当たり散らしていたのではないでしょうか」
「……もしそうだとしたら、本当に腐ってるわね」
「うんうん」
しかし……このままアルフリーデに手を焼かされるばかりでは、わたくし達もここに縛られ続ける事になりますし……。
「……奴隷……でしたわね」
少し、泳がせてみるのもいいかもしれません。
「……クソクソ……奴隷と連絡がつかないぃ……」
何だって聖心教は、奴隷を禁止してるのよぉぉ……!
「ちくしょうちくしょう…………ん?」
コンコンッ
この合図は……まさか!?
「魔女様! 魔女様! 聞こえますか!?」
その声は……間違い無く!
「遅いよ、奴隷A!」
「申し訳ございません、どうも聖心教側の警戒レベルが高くて」
「言い訳は無用。それより首尾はどうなの?」
「難航しております。やはり魔王教への反発は高く、聖地近くで協力者を得るのは難しいかと」
「そう……分かった。無理をしてバレたら元も子も無い、撤収しなさい」
「宜しいので?」
「同じ言葉を繰り返したくは無い、撤収しなさい」
「……御意」
「…………そして、今夜には全員集めるように」
「御意」
警戒レベルを緩めたら、早速引っ掛かりましたわね。
「あの奴隷、なかなかの動き。おそらく隠密か何か」
隠密ですか。奴隷がそのような地位にあるなんて、珍しいですわね。
「リファリス、何人か侵入してきたわ」
リブラからの報告では、黒装束に身を包んだ五人程の隊が、この城に忍び込んできたそうです。
「目的は……アルフリーデの解放、ですか」
しかし、それは悪手中の悪手。まだ講和に至っていない敵国内での蠢動がバレれば、決裂は決定的なものとなる。
「それが分からないアルフリーデでは無い筈ですが……」
「永く閉じ込められたから、ちょっと焦っちゃったんじゃない?」
それくらいで焦るような人物では……。
「あ、リファリス、侵入者が魔女の部屋に侵入した」
よし。また隣部屋から様子を窺いますわよ。
『うぁぁぁぁん! あのクソ共がウチを苛めるんだよぉぉぉぉ!』
『大変でしたね、魔女様』
『お労しや、魔女様』
『私達が居ますわ、魔女様』
『よーしよしよし、魔女様』
「「「……?」」」
『あんた達が居なかったから、八つ当たりするしかなかったんだよお!』
『魔女様、八つ当たりはメッ、ですよ』
『うぁぁぁぁん! ごめんなさいいい!』
『でも奴隷が居なくても、今まで頑張ってきたのは立派ですわ』
『え、そ、そう? えへへへへ』
「……見なかった事にしましょう」
「……そうね」
「あれなら、悪さする心配無い」




