お城の魔女と首だけ令嬢とキツネ娘と撲殺魔っ
「はい、お茶ですわよ」
「ありがとう」
「サンクス」
「っ…………どうも」
陛下のご温情によって貸して頂けたお城を、現在は魔国連合大使館として使用しています。
お城とは言っても、聖地サルバドル近くに建てられた、現在は使われていなかった貴族の別荘ではありますが。
「残りの掃除は明日からにしましょう。今日は寝る部屋と食べる部屋を確保できたのですから」
「そうね」
「そだねー」
「は、はい」
貴族の別荘ですから、お城とはいえ規模は小さい方です。ですが、部屋は数多くあります。使われていない間に溜まった埃を払い出すには、まだまだ時間がかかりそうです。
「……ねえ、リファリス。話相手だったら、この二人だけで充分なんだけど」
「ええ、話相手だけならば、ですが」
「話相手だけ……なら?」
「はい。リジーは分かりませんが、少なくともリブラは料理の経験は皆無ですわよ?」
「え?」
「リファリスに期待してもらって光栄だけど、私もほぼほぼ経験無しと認識されたし」
「え?」
つまり、わたくしが居なくなれば、料理できる面子も居なくなってしまうのですわ。
「っ…………な、なら、新規で料理人の募集を」
「こんな街から離れたお城に来てくれる料理人は、そうそう居ませんわよ?」
「な、なら王様に頼んでっ」
「あらあら、敵国の長にこれ以上借りを作るんですのぉぉ?」
「ぅぐ……!」
大体敵国の大使館に送り込まれる人材は、厳選されてきてるに決まっています。その辺でホイホイと人員募集できる筈が無いでしょう。
「という訳ですから、何か良からぬ事を企んでいらっしゃるのでしたら、早々に改めるべきですわね」
「……く……」
「あークソクソクソクソがあああっ!」
ガンッ ガシャアアン
「何が『早々に改めるべきですわね』だよ!」
ガンガンガンッ グシャアッ
「はあ、はあ……何でウチがこんな目に……! 〝魔女〟たるウチが……! はあ、はあ……だったら……だったら……この城を……この城をあんたの墓標にしてやるよ!」
「……うっわ、怖……」
「……何て言ってた、かなもし」
か、かなもし?
「かなもしだか何だか知らないけど、魔女って裏表激しいのね」
そうですわね。
「表は完全な良い子ちゃんですが、よくよく見ていると裏の顔が見えてきますわ」
「裏は相当な悪?」
「悪ですわね。思い通りにいかないと、周りに当たり散らしますわ」
「真っ黒だね、それ」
「但し」
「クソクソクソクソクソがあああっ!」
ガンガンガンッガンガンガンッ
グキッ
「いったああああああああいっ!」
「八つ当たりしすぎて自爆しますわ、大概」
「……自爆?」
「何かを蹴った拍子に足を捻ったり、何かを叩いた拍子に手首を捻ったり」
「自爆ね」
「自爆と思われ」
「痛い痛い痛い痛いい! ちくしょお、ちっくしょおおおお!」
ガンッ! グキィッ
「はぎゃああああああああああいっ!」
「……うん、盛大に自爆してた」
やっぱり。
「昔から変わってませんわねえ……」
「昔っからなの?」
「ええ。古い付き合いですから」
「「……古い付き合い……」」
「はい。それが何か?」
「……と言う事は……」
「リファリスの昔の……」
「……何ですの?」
「「何でもありません」」
……?
コンコンッ
「痛い痛いいた…………おほん! な、何かしら?」
「「失礼します、自爆の魔女子さん」」
「誰が自爆の魔女子よ!」
しまった口が滑った……って、リジーも同じ事言ってるし。
「失礼します、魔女様。何か御用がお有りでしょうか」
「え? 別に何も」
「足の捻挫の治療とか、手首の捻挫の治療とか」
「ひひひ必要ありません! 下がって頂いて結構!」
これは……正攻法では難しいわね。
「だったらストレートにいくわ、自爆の魔女子さん」
「だから、誰が自爆の魔女子ですか!?」
「あんた以外居ないでしょ」
「うぐぐ……」
涙目で下唇を噛む表情、ナイス。
カシャ
「……え?」
「はい、魔女様の情けない表情、激写」
魔術念写機で撮影したのはリジー。
「なななな何をなさるの!?」
「無論、脅迫材料」
「脅迫…………ウ、ウチの身体が目当てなのね! そうなのね!?」
「そんなペッタンコには興味ナッシング」
「そ、それはそれでムカつく……!」
「この念写と交換してほしいのは、情報」
情報、という単語を聞いた途端、アルフリーデの表情が険しくなった。
「……つまりウチの失態を交換材料として、魔国連合の情報を引き出すつもりか?」
その場合は容赦しない……と言いたげに『闇球』を発現させてきた。
「あ、それは興味ないから」
「え?」
「私達が欲しいのは、他の情報」
「……なら……何が欲しいの?」
「ズバリ、リファリスの過去情報」
それを聞いた途端、アルフリーデの肩から、ブラがずり落ちた。
「んっふっふ」
「うふふふふ」
「……?」
な、何なのでしょうか。戻ってきてからずっと、わたくしの顔を見てニヤニヤしてくるのですが。
「何かありましたの?」
「べ~つに~」
「何でも無く無く無く無く無く無く無い」
どっちですの!?
「ふーん、それにしても、へー」
「意外だったと思われ」
「だから、何なんですの?」
「「リファリスの初めての相手は、宿舎の二軒隣の」」
「きぃああああああああああああああああっ!!!!」
その後、自爆の魔女子さんは撲殺間違いなし。




