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魔女の真価と撲殺魔っ

「アルフリーデ」


 日課のようにご飯を食べに来るようになっていたアルフリーデに、わたくしは決意を込めて封筒を手渡しました。


「……何これ?」


 もはや何枚目になるかも分からないお皿を積み上げ、アルフリーデは封筒を受け取りました。


「えっと…………ぶふぅ!?」

「ここ一週間の、貴女に掛かった食費ですわ」


 流石にこれだけ掛かると……。


「リファリス、それってかなり不味いレベル?」


「不味いなんてものではありません。このままいけば、明日の朝はパン一切れしか出せません」


 ガタッ ガタガタッ


 それを聞いたリブラとリジーは、無言で立ち上がってアルフリーデの両手を捉えます。


「え゛っ」


「何してくれてんのよ、この間女さんは!」

「我が家の食卓事情に悪影響を及ぼすとは、不届き千万」


「ああああごめんなさいごめんなさい次回から食費入れますから勘弁して下さいいい!」


 あのですね、食費だけの問題では無いのです。


「わたくしが料理にかけた時間・手間はどうなりますの?」


「え、それは……」


「お金で解決できる問題ではありませんわよ?」


「そうだそうだ!」

「働かざる者、食うべからず」


「ちょっと待って。リファリスに言われるのは理解できるけど、貴女達に言われる筋合いは無い!」


「リファリスの弟子として、日々奉仕に精を出してますが何か?」

「リファリスの護衛として、日々警戒にあたってますが何か?」


「うっ」


「で、アルフリーデは何をしているのかな?」

「教会に朝一番から来て、あちこちで食っちゃ寝食っちゃ寝」


「ウ、ウチは魔国連合の大使なのよ!? それが仕事なのよ!?」


「「ここでタダ飯食らう理由にはならない!」」


「ぅぐぅ……」



「あー……クソクソクソ! 何にも言い返せなかった! ムカつく、あの二人!」


 気配から魔の者に近い存在だとは分かるけど、ウチの影響が及ばない。多分リファリスが近くに居るからだろうけど……。


「クッソクソクソ! 内部から崩壊させてやる狙いだったのに……!」


 聖心教の精神的な要であるリファリスを大人しくさせれば、中央山地から南へ押し返せると思ってたけど……。


「流石は〝聖女〟様、一筋縄ではいかないよね」


 こうなったら、あの二人を一時的にでもリファリスから引き剥がしてみるか……。


「信頼する二人がウチの影響下に入ったりすれば、流石のリファリスでも同様する。そこに付け入る隙が生まれる……!」


 ごめんね、リファリス。いくら昔なじみとはいえ、今は絆以上に大事なものを背負ってるのさ、ウチは。



「え、アルフリーデの世話役?」

「え、アルフリーデの護衛?」


「そうだ。君達二人は魔女様とも公私に渡って交流があると聞いている」


「こ、交流……」

「そ、そうかもしれませんが……」


「これは魔国連合大使としての達ての希望だ。無視する事はできないのだよ」


 突然役場に呼び出された私とリジーに言い渡されたのは、思ってもいない事案だった。


「……最近来ないなー、とは思ってたけど……そんなに食費払いたくないのかと思われ……てた」


「食費だなんてケチくさい話な訳無いでしょ。あんなでも大使なんだから、何かしら思惑があるんでしょうよ」


 それを叶える為に、水面下で動いていたのだろう。


「思惑………………重金属製の窓の」

「重枠じゃないの、思惑! 大体重金属製の窓枠なんて聞いた事が無いわよ!」


 ……うーむ、もしかしたらアルフリーデ、私やリジーの正体に気付いた……?


「リジー、あんたって獣人よね?」


「獣人……ではあるけど、少し複雑」


「……具体的には?」


「どっちかって言うとモンスター寄り」


 モンスター寄りって……不味いなあ、リジーを当てにできないじゃない。


「……何か問題有り?」


「えーっとね、普段はリファリスが居るから分かりにくいけど、私達はアルフリーデに支配される可能性があるのよ」


「え?」


「アルフリーデは〝魔女〟って呼ばれてるけど、その理由が『魔の誘惑』っていう特性なのよ」


「真野言う枠?」


「どういう間違いだよ!? 魔の誘惑! 私やあんたみたいに闇属性に近い種族に異様に好かれやすい特性よ!」


「……えっと、だから?」


「下手したらあんたも私も、アルフリーデに魅了されちゃうかもしれないって事!」


「……………………は?」


「抵抗するのも難しい。それくらいに影響力が強いのよ、『魔の誘惑』は!」


「そ、そんなに?」


「だから魔王教には闇属性の種族が多いのよ!」


 私が命を狙われた理由も、聖心教内に魔王教の内通者が居る可能性を危惧されたのが原因だからね!


「……ううむ……あんなペチャンコに魅了されたくない、と思われ」


「当たり前よ。でも、あの特性は強烈だからねえ……」


「…………さっきから気になってた。リブラ、もしかして経験有り?」


「大有りよ。魔女相手じゃなかったけど、それが原因で初めて…………おほん! い、今のは忘れて」


「うん。割とどうでもいい」


 っ…………どうでもいいとぶった切られるのも、それはそれで……。


「ていうか、対抗手段あるの?」

「あるのよ。割と身近に」



「……では〝魔女〟様、しばらくの間、よろしくお願いします」

「よろしくお願いしまっする」


「え、ええ、よろしくお願いします…………で」

「はい?」

「何でリファリ……聖女様までいらっしゃるのかしら?」

「大司教猊下から直々に『魔女様の話相手』になってくれ、と頼まれましたの」

「そ、そうでしたの。お心遣い、感謝致しますわ」


 く……リファリスが居るとなると『魔の誘惑』が中和されちゃうじゃないの……!

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